取り敢えず貢物を
目を覚ましてから数日後。
何てことでしょう。
素性の分からない欠食児童に3人もの専属侍女が着くことになりました。
スラッと背が高く、菫色の髪が素敵なジャスミンさん。
ほんわかタレ目のくるりんとカールしている栗毛色シャーロットさん。
そしてやたらと構いたがるお世話好きなカリンさん。
今もカリンさんが一緒に行動中です。
目覚めてからの私は体調の回復に専念すると共に、ちょっとずつ運動も始めました。
このボロボロの体を何とかしなくちゃ、普通の生活もままならない。
また魔法がある世界なんだし魔力が∞にあるわけで、それで身体強化して視力に代わる力を手に入れてみせる!
常にボヤけて見える視界を何とかして、身体強化すれば人並みには生活出来る様になって、お世話をされることもなくなり、ご厄介になっているこのお家の人達に恩返しが出来る!
この前魔力がどういうものなのか分からず、付き添っていたカリンにちょっとした魔法を使ってもらった。
「ウォーター」
手元にあるコップに水を注いでもらった。
ぽちゃんとコップを満たす水に感動していると、
「私の魔力はさほど多くもなく強い魔法も使えない為、こんな感じの生活魔法が主になります。そよ風を起こしてゴミを集めたり、薪にちょっとした火をつけたりです。それも専門のものたちがいるので出番はないですね」
庭師は土魔法や水魔法が少々使える者を、料理人は火魔法や水魔法が使える者を、メイド等は生活魔法の清潔魔法が使えるとの事。
門番や護衛、私兵達は身体強化やそれぞれ得意の魔法があるらしい。中にはテイマーもいるとか。
その内お会い出来るかな?
まずは魔力の感覚を覚えなくちゃ。
「カリンさん、魔力の感覚が分からないので教えて下さい!」
ボヤけて見える視界で精一杯カリンさんの目を見つめる。
「勿論です。エルクお嬢様、両手を出して頂けますか?」
そっと手のひらを上に向けて差し出す。
「今から右手から魔力をそっと流して左手に向かうようにします。エルクお嬢様は目を瞑って体に流れる魔力を意識してみて下さいませ。」
「分かりました」
私はそっと目を瞑り右手に意識を傾ける。
「では流します」
ポワンと暖かい何かが右手の手のひらから流れてくるのが直ぐに分かった。それは血管をそっと通るようにゆっくりと移動し肩を通り抜けた後フワッと肺や心臓、お腹を巡って広がり左肩を通り抜け左の手のひらに到達してカリンさんの手のひらへ抜けていった。
「んんん…」
体感的には何だか滞っていた血流が良くなった気がする。
代わりにカリンさんには私の魔力が流れていっている。
頬に赤みが指してちょっと色っぽい声が漏れている。
「お嬢様の魔力は大人に流すとイケ…大変危険と判断致します。今後はカリン以外とはお控え下さいませ。」
「分かった。カリン以外とはなるべく魔力交換を控えるね」
潤んだ瞳にちょっと照れた様子のカリンにどぎまぎしながら返事を返した。
「魔力の感覚をつかめた後は常に魔力が体を循環しているのを感じて下さいませ。お飲み物をご用意しますので少しの間、お側を失礼します」
カリンさんは一礼して出ていった。
ほわっとした温かい感覚を忘れない内に魔力循環訓練をする。