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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ライバル系幼馴染が告白されて、自分の気持ちを自覚する少女のお話。

作者: 8ki29


「未希っ! テストの結果、どうだった?」


 などと、大声を上げながら駆け寄ってきたのは幼馴染の愛花だった。手には数枚のプリントが握られており、愛花が一歩進むたびにひらりと靡いている。


「これよ」


 私はそう一言告げて、鞄の中からテスト用紙を取り出した。

 百点、百点、百点、全部百点。


 およそ完璧と呼べる結果がそこにはあった。


「ん、なっ!」


 驚愕に目を見開く愛花。一瞬、呆然としたかと思うと、今度は顔を真っ赤にして暴れ始めた。


「ありえない、ありえない! アンタ、どんな手を使ったのよっ」


 あらぬ誤解を受けてしまう私。誓って言うが、そんな悪事に私は一度だって手を出した事は無い。

 じたばたと、床を踏み鳴らす愛花。


 その行為全部が、悔しさに溢れている。


「ま、私と愛花じゃ頭の作りが違うって事ね」


 そんな風にすかして言えば、顔を真っ赤にして愛花が走り去っていく。


「未希のバカーっ!」


 私はやれやれと肩をすくめると、取り出したテスト用紙を片付けた。

 これで、五十勝四十九敗。私が一歩リードしている。





 私と愛花は、赤ん坊の頃から一緒になって育ってきた。家が隣で、生まれた日も同じ。親も同学年で親友同士だったらしく、家族ぐるみの付き合いだ。


 そんな中で、私たちは何時しか競い合うようになっていた。

 例えば、テストの点数だったり、その他のあれやこれや。いろんなことで競い合った。


 五十勝四十九敗。これは私たちが高校二年生になってからの記録だ。

 今現在は私が勝っている。


 何かと突っかかって来る愛花であるが、私自身それを心地よくも思っていたりする。なあなあの関係では無くて、真に競い合えるライバルと言う存在はとても貴重な物だ。

 そんな存在と常に居られると言う事はすごく幸運である。


 それに何より、愛花は可愛い。

 同年代と比べると小柄で、綺麗でふわふわな髪をツインテールにしている。少し生意気そうな表情に八重歯。

 いってしまえば私は、愛花の事を好きであるのだ。


 もちろんそれを本人に言ったりはしないけれど。





 駅前に、新しいデザート屋がオープンした。それを知った私は、さっそく愛花を誘う事にした。

 放課後、いつもの様に愛花の机まで行く。

 すると、そこには神妙な面持ちで封筒を見つめる愛花の姿があった。


「ん、どうしたの愛花」


 声を掛けるびくっと肩をはねさせて振り向く愛花。さっと封筒を後ろに隠してしまう。


「べ、別になんでもないっ」


 もじもじと、顔を少し赤らめて言う愛花。あまりにも挙動が変で、いろいろと想像を巡らせてしまう。


「その手紙、告白でもされたの?」


 余りにも切り込み過ぎた結論を、私は問答無用でぶつけていく。

 私たちの勝負にはいくつかのルールがあって、その一つが「最初にした方、された方が勝ち」という物。

 

 つまりは、告白の手紙であれば私が敗北すると言う事だった。


 私の言葉を聞いた愛花は、瞬間戸惑ったような、困ったような複雑な表情を浮かべる。しかしそれも一瞬。すぐにいつもの生意気そうな表情を浮かべると、立ち上がって堂々と私に封筒を突きつけて高らかに宣言した。


「私の勝ちねっ。最初に告白されたのは私よっ」


「ぐ――」


 胸が痛かった。

 愛花は可愛いし、狙っている男子もたくさん居るとは知っていた。けれどそれを行動に移された事があまりにも私の心を抉っている。


「誰からなの、それ」


「隣のクラスの前沢くん。サッカー部の」


 その名前は有名どころだった。

 曰く、サッカー部のイケメンストライカーだとか。全く興味の無い私でも、耳にしたことがあるくらいには有名人。


 そんな人が愛花を狙っている。


「明日の放課後、体育倉庫の裏で待ってるって書いてある」


「へ、へえ。そうなんだ」


 胸が、張り裂けそうだった。

 負けたのが悔しいとか、そう言う事では無く。自分でも分からない胸の痛みが襲ってくる。


「まさか、告白。OKするんじゃないでしょうね?」


 私が、絞り出した問いに、ほんの少し悩んだ愛花。


「何事も、経験かなって思うし。付き合って、みようかな」


 その言葉に、私は頭が真っ白になってしまった。

 なんでそうなるのか自分でも分からなさ過ぎて、思わず頬を温かい水滴が伝う。


「未希?」


 私は、背を向けてその場を立ち去る。後ろから愛花の心配したような声が聞こえるが、それを振り払う様に走り出す。


 ああ、どうしてだろう。

 本当に、心が痛い。つらいよ愛花。





 翌日、いつものように学校生活を送る事は出来なかった。何をするにしても浮ついて、あやふやになってしまっている。

 放課後。そこで私と愛花の関係は終わってしまう様な、そんな錯覚に陥っていた。

 告白を愛花はきっと受けるだろう。そうすれば今までの様にくだらない事でいちいち争う暇なんて愛花には無くなってしまうから。


「はあ」


 ため息を付いて、視線をさまよわせると、つい愛花の方へ向かってしまう。真面目に授業を聞いて、ノートを取っている愛花。

 私が知っている愛花が、遠くへ行ってしまう。


 そして、放課後がやって来てしまった。




 私は、こらえきれずに体育倉庫裏の近くの茂みに隠れ潜んでいた。他人の恋路を覗き見るなんて人としてどうかと思うけれども、それでも愛花の事となると抑えきれなかった。


 愛花に告白した男子が誠実な人間ならば諦めるが、もし不埒な考えを持った男ならばその場で殺してでも愛花を守ると決めていた。


 先に現れたのは愛花だった。

 身だしなみを整えて、きりっとした表情を浮かべて待ち構えている愛花は、私の知らない愛花だった。


 それに、すごく悔しくなった。


 私が十余年積み上げてきた信頼では、垣間見る事すら出来なかった一面だ。それをぽっと出の男が引き出してしまうなんて悔しさを通り越して、情けなくなってしまう。


 そして、件の男が現れた。


 噂に違わぬ美形。長身で、さぞや女子からは人気だろう。

 私はじっと動かず、耳をそばだてた。


「愛花さん、僕とお付き合いしてください」


 その言葉を真剣なまなざしで受け止めた愛花。

 男は頭を下げて右手を突き出している。握れば、告白成立。私は、飛び出したくなる衝動を抑え、じっと唇を結んだ。


 一秒、二秒。

 流れていく時間。


 愛花が手を伸ばした。男の右手に向かって手を伸ばした。


 伸ばして。伸ばして引き戻した。


 ぎゅっと握りしめられた愛花の手。


「私、好きな人が居るんです」


 愛花がぽつりとそう言った。

 男は、びくりと肩を震わせる。


「その人は、多分本人が思っているよりも意地っ張りで、真っ直ぐで、そしてバカなんです」


「そっか」


 男は顔を挙げて、爽やかに笑った。


「でも、そんな所が大好きなんです。絶対、本人の前じゃ言えないけど」


「何となく、そうじゃないかと思っていたよ」


 男は、黙って愛花に背を向けた。


「うん、そうだね。その方が、僕よりお似合いだな」


 そうして、男は去っていった。

 私は、何が何やら分かっていなかった。

 

 告白を受けるつもりだったのでは? 断った? なんで? 好きな人って?


 全然、理解できない。


「出ておいでよ」


 その言葉に、身体が硬直した。心臓が、どくんと跳ねた。

 ばれている。私は、一度深呼吸して茂みの中から姿を現した。


 顔が熱い。覗き見していた事がばれたからだろうか。

 立ち上がって、ぎゅっとスカートを握りしめた。


 何も聞けない。

 愛花が好きな人って誰なのか、そんな一言で済む事を聞けないでいる。


「未希。見てたんだね」


 ツインテールを揺らしながら、私の目前まで歩いてくる愛花。

 ついと、詰め寄って私の襟元を両手で掴む。


「愛花?」


「ちょっと、屈んで」


 意味が分からず、言われるがまま愛花の視線に合わせる。

 すると、衝撃が走った。全身を稲妻が駆けるほどの、甘く痛烈な刺激。


 顔が、触れあう程の距離。


 否、唇と唇が触れ合った距離。


「ん――っ!?」


 何も反応できなかった。目を見開いて、愛花を伺い見ると、頬は真っ赤に染まっていてふるふると小さく震えている。


 数秒間のキスの後、お互いゆっくりと顔を離れさせる。


 まともに、顔を見れない。

 お互いが視線を迷わせている。


 何だ、この状況は。愛花が告白を断ったと思ったら、私が愛花にキスされている。

 全く以て理解不能。


 思わず、唇に指を這わせてしまう。

 甘い味がした。


「ねえ未希。わかるでしょ。私が好きな人」


 愛花が、目を伏せて言う。

 その表情は、どこか怯えている様な、まるで否定される事を恐れている様な物だった。


 常識で考えれば当然だろう。私たちは女同士だから。でも、そうじゃないんだ。常識とか普通とかはどうでも良くて、今大事なのは私たちがどうしようもなく好き合っていると言う事だから。


「愛花、こっち来て」


 有無を言わさず愛花の頬に手を添えて、顔を近づける。そしてそのまま愛花の唇を奪った。

 

 ああ、そうだ。

 私は好きなんだ。愛花の事が、友達とか家族に向ける好きでは無くて、恋人にしたい好きなんだって事に気が付いてしまった。


 だから、嫉妬した。

 告白されて、それを受けるようなそぶりを見せられて、心が痛んだ。


 触れるようなキスから、無理やり愛花の唇を割って舌を滑り込ませる。

 

「んん――、あ」


 私が求めると、愛花もそれに答えてくれた。

 絡め合う舌。唾液を行き来させる。頭がぼーっと麻痺した様になって、全身が火照っている。


 愛花の細腕が私の腰に回される。

 柔らかく、暖かい愛花の体を感じる。


 一生こうして居たいと思いながらも、終わりはやって来る。

 

 顔を離れさせると、お互いの唾液がアーチを掛けた。


 惚けた表情になっている愛花。


「愛花、好き。大好き。本当に、好き」


「私も、未希の事が好き」


 好きだと、言い合う。

 私の大事な人は、同じ様に私を愛していてくれる。





「引き分け、ね」


 愛花がそう言った。

 私が首をかしげると、言葉をつづける。


「キス、もちろん初めてよね」


「ああ、そういう事。残念ながら初めてよ」


 私たちの、勝負。

 珍しい事に引き分けだった。


 お互いにファーストキス。普段なら、勝負に勝てなくて悔しい思いをする所だろうけれど、どうしてか嬉しかった。


 引き分けなのに、とても嬉しい。


 愛花が笑う。

 私も、笑みを返した。



 


 その後数日間、勝敗はつかずに、引き分けの数だけが積み重なったのは言うまでも無い事だ。

 

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