第八話 やっぱり、テンプレか。
俺たちは今、ギルドに向かっている。宿の人に聞いたところ、割りと分かりやすい説明が帰って来た。片言だっけど。
ご厚意で、サンドイッチを貰ってそれを食べながらギルドに向かって歩いている。今は昼時に近い。この時間帯なら、よくあるテンプレには出くわす筈がない。きっとそうだ。
そうこうしている内に、ギルドが目の前に迫ってきた。ナズナは一言も喋っていない。食べるのが恐ろしく遅いのだ。
俺が食べきった時には、まだ半分ほど残っていた。
「ふぅ、美味しかった」
「食べるの、遅くねぇか? まぁ、別にいいが」
もう後、数歩でギルドの扉の前で食べきったようだ。そんなに大きかったか? あのサンドイッチ。
扉を開けると、まぁ見慣れた光景が広がっていた。うん、知ってる。一度目の最初もこんな感じだったなぁ。
「ギルドガードの登録を二人分頼みたいのだが」
「ぎゃはっっっ、女二人で? 俺達と肩を並べたいと? やばぁい、うけるっ」
既視感が物凄い。一度目と同じだ。
「何か賭けて決闘するか? そうだなぁ。俺は俺自身を賭けようか。俺が負けたら好きにしていいぞ。その代わり、お前が負けたら、有り金全て貰おうか」
「たまには後輩の世話もしてやらんとなぁ」
はい、勝ち決定。コイツ、皮算用し始めた。欲のある目でこちらを見ている。まぁ、いいか。有り金ゲット。
「ちょ、ちょっと。軽々しく人生なんて賭けちゃ駄目ですよ! ガヒさんも本気にしないで下さい!」
受付嬢が止めに入るが、いやいや、決闘を仕掛けられて受けないのはハンターとしての名が廃る、と言って止めようとはしなかった。
「大丈夫かな?」
「それは、どっちがだ?」
ナズナが小さく呟いた。俺が負けると思っているなら、ちょっと悲しいが。
「ほら、盗賊の時みたいになるんでしょ? あの人。死ななきゃいいんだけど」
そっちの心配だったか。まぁ、そこまではしないさ。
「ルールはどちらかが降参するまで。外野からの攻撃があったら仕切り直しでいい?」
「あぁ、もちろんだ」
「じゃ、始めるよ? 始め!」
「こいっ!」
ガヒと呼ばれた男が愚直にもこちらに走ってくる。周りからしてみれば、武器を持っていない少女に剣で立ち向かっているという、大人げない姿に見えるだろう。
「《時凪》来ませい」
俺は男の両手剣を片手で止めて見せた。一種のパフォーマンスである。一瞬で終わらせてもいいが、それではあまり実力が見られないだろう。
片手で止められたことに、青筋をたてるガヒ。まるで、片手だけで止められるとでも言いたげな顔をされているのだ。プライドの高い奴ほど、激昂する。
実際問題、俺にとっては凄まじく弱く感じた。持つ剣が金属であること以外に気を付ける必要が見当たらない。
魔王なら、確実に回避するのが最優先だった。受け止めるなんてすれば、死ぬ。そんな戦いを生き抜いてきた。
少しだけ、見世物になってもらおうと思い直し、そのまま片手で剣をいなした。ギルド内のため、机が破壊されてしまった。
「さて、《空喰》来ませい」
フィニッシュは華やかに行こう。決して殺さないようにして、軽やかに。ニ刀を持ってして。
「神楽二刀流。紅剣舞」
ゆったりとした動きでくるくると舞っていく。慣れ親しんだ剣舞である。親にも言われた。お前が女だったらこれ以上に美しい舞になっただろうに、と。
「き、聞いたことねぇぞっ。なんで、そんなに強ぇんだよっ」
明らかに動揺している。周りで見ていた人達も受付嬢すらも視線を動かせなかった。
緩急をつけた剣は、一瞬にしてガヒの剣を半ばから折った。折れた切っ先が床に刺さる。そして、無手になったガヒにそれでも迫っていく。ジリジリと。
プレッシャーを感じて尻餅をついて、後ずさろうとするが、後ろの壊れた机が邪魔をする。
そして、ハラリと床に毛が落ちていった。ある程度落ちると、舞も終わりを告げてニ刀が虚空へと消えた。
そして、残ったのは髪の無くなったガヒと壊れた机。床に突き刺さる剣の切っ先だけだった。
「まだやる? 次は死ぬよ? ありゃ、気絶しているね。じゃ、俺の勝ちってことで。有り金は頂いていくね」
がさごそとあちらこちらのポケットを探って金を全て抜き取っていった。どこかで悪魔だ……とか聞こえたが無視だ。