第七話 ここからがきっと始まり。
結局、ナズナが起きたのはあれから数十分も経ってからだった。どんだけ、目が覚めるのが遅いんだ。ずっと呼び掛けていたのに。
「俺は旅に出る。ちょっとした目的を達成するために」
「ボクはその旅に着いていったら駄目ですか?」
うるうると目を潤ませてこちらを向いてきた。ぐっ、可愛い。男なのに。
「どうしてか、聞いていいか?」
「ボクには、もう家族はいません。捨てられました。ボクが水人族の血を引いているから」
この世界の水人族がどのような特色を持つのかは分からない。だが迫害を受けていたのは分かる。
「そこから、見た目でバレないように耳を──」
「もういい。おおよそは分かったから」
耳を自ら切り落としたのだろう。その激痛は想像もつかないだろう。答えは最初から決まっていた。連れていくと。
「一緒に来てくれないか? 俺の旅に、ナズナが必要な気がするから」
「喜んで!」
嬉しそうに笑っていた。
なら、全てを打ち明けても良いかな。俺の過去を少しだけ。背中を預けるのだから。
「なら、改めて自己紹介する。俺は神楽 詩音。異世界の勇者で、今回の旅の目的は巨大組織 アルセイムの破壊。時間と空間を操れるが、金属に触れると凄まじく弱くなる」
「ボクは、ナズナ・ガルル。男です。水人族です。氷系統の魔術が得意です。家事は全て出来ます!」
恐らく、向こうはカミングアウトだと思っているがこっちは知ってるしなぁ。あえて、スルーしておこう。
「よろしくな。ナズナ」
「よろしくです! シオンさん」
握手を交わして、笑いあった。一頻り笑った後に、俺は告げた。ナズナの切り落とした耳を治すこともできる。
「水人族の誇りである、耳を癒すことが俺には出来る。ナズナはどうしたい? 癒して欲しいか? それとも、そのままがいいか?」
勝手に癒してしまえば、ナズナの覚悟を無に帰すことになる気がしてしまった。だからこそ、聞いてみたのだ。
「治すことが出来るなら、治して欲しいです」
「なら、決まりだな」
耳を触りながらそうハッキリと告げた。虚空から杖を取り出した。まぁ、完全な形だけの杖だ。
薄青色の蔦が巻き付いた俺の身の丈を超えた儀礼用の杖である。これは、魔力操作を補助をしてくれる。
「我は森羅万象を読み解き、世界の理をも超越しよう。我の持つ力である、時間と空間を使い、運命をねじ曲げてしまおう。傲慢と言われるだろう。他の人は嘲笑うだろう。何のためになるのか、と」
「だが、あえて言おう! 傲慢であろうが、無意味だろうが。関係ない。我は、我の最善だと思ったことをする。今っ、ここに奇跡を顕現しよう」
俺から魔力が膨大に抜けていく。そして、ナズナに巻き付いていく。
膨大な魔力が、濃密すぎる魔力が互いに反発する。それが、光となり辺りを照らしていく。
だが、それもゆっくりと収まっていく。
光が収まってから、目の前にいたのはナズナのはずである。だが、見た目は大きく変わっていた。
水人族の特徴的な耳に、金髪だった髪は青銀に変化していた。纏う魔力もすこし変質してしまっている。
「戻ってる。音が綺麗に聞き取れるよ」
「あぁ。良かったな」
「大丈夫か? 膨大な、魔力、感じた」
ドタドタと昨日の夜の人が顔を覗かせた。気が付かれるほどの魔力光だったのだろう。
「すいません。大丈夫ですよ」
「なら、いい」
安心したように戻っていった。もうそろそろ、宿から出てギルドにでも行こうかな?さすがに、無一文じゃ辛いし。
「よし、ギルドに行こう!」
「シオンさんの行くところに着いていくよ」