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第六話 夢(詩音の場合)と決意。

 部屋に入ると、ベッドが二つ置いてあり小さな机が置いてあるだけの簡素な部屋だった。


 とりあえず、ベッドに寝転んでみる。髪がまだ濡れているが、そんなものはお構い無しだ。疲れた。もう寝よう。


「じゃ、おやすみ」

「う、うん。おやすみ。ボクも寝るよ」


 隣のベッドにナズナが入っていく。一瞬だけ風呂場での事を思い出したが顔を振って考えを追い払う。


 男なのにすげぇ、可愛いんだよなぁ。俺は、正真正銘の女になってしまった訳だがな。正直、一日が衝撃的だった。


 思い出したくもない。




 ゆっくりと目を閉じて、だんだんと意識が遠退いていった。




※※※




「やぁ、魔王殺しの英雄」

「ん? いつぞやの駄目神じゃないな。別の神か?」

 ピエロのようなふざけた仮面を被った人間が目の前にいた。辺りは真っ白い空間となっている。


「そうさ。実は俺っちがキミをここに転移させた訳。地球じゃなくてね」

「地球に返してくれないか?」


「やーだね。と、言いたいところだけど。お願いを聞いてくれたら返してあげる」

 またか、今度はなんだ? また、魔王殺しか? それとも、邪神殺しか? サクッと終わらせて帰るぞ。



「実はさ、俺っちが治めているこの世界にさ、キミと同じ異世界人が超巨大組織を作った訳。その組織が、俺っちの世界の人間を苦しめたりしてるからさ。討伐してくれない?」


「あぁ。それで。組織の名前は?」

「アルセイム、ってやつなんだ」


「ちゃんと、目的を達成することができたら地球に帰れるんだよな?」


「俺っちは約束は守る方だよ? じゃぁ、よろしくね」




※※※




 どうやら、次の目的はアルセイムと呼ばれる組織を潰す事みたいだな。組織潰しかぁ。あれ、究極にめんどいんだよぁ。


 直ぐに再生してくるし。




 というか、体が動かないんだけど。そして、むちゃくちゃ暑い。首だけ動かしてみたらナズナの横顔があった。

 どうやら抱きつかれているようだ。抱き枕じゃないってのに。



 しかも中々力が強い。抜け出す事すらできない。しかし、泣いているようにも思えた。瞼が腫れているように見えた。悪夢にでも魘されていたのだろうか。


「おーい。起きろ!」

「うにゃぁ」


 中々に目を覚ましてくれない。だが体を動かしてなんとか体勢だけは変えることができた。さすがに、手が痺れてくる。


 そして、俺の目が衝撃的な物を見つけてしまった。昨日は髪に隠れて見えなかった耳だ。




 本来、耳があるべき場所には醜い切り口があるだけで耳が無かったのだ。これでは、極端に聴力が落ちていてもおかしくはない。


 昨日の体の古傷もそうだ。まるで、これでは虐待を受けている獣人のようではないか。



 俺は二度だけ見たことがある。虐待された獣人とその悲惨な末路を。


 二人とも俺の目の前で死んだ。



 もっとも惨い方法でだ。助けることが出来なかった。手がギリギリ届かなかった。早く地球に帰りたいと先を急ぎすぎて、気がつけなかった。


 俺が愚かだったから。弱かったから。汚い物にはずっと蓋をして隠していたから。何もかも失ってしまった。



 二人の故郷の村を通らなければならない時の事だった。俺は明日に備えて、珍しく早く寝てしまった。


 次の日の朝には、二人はいなかった。その時に気が付いたのだ。あの二人は俺の大切な仲間であり、友人だったと。


 村長にお話(物理的な)をして辿り着いた先で、俺に気が付いた二人は手を伸ばして、手を伸ばしてから。


 絶叫を上げて、食われて死んだ。その後には何も残らなかった。時間を巻き戻すことも出来なかった。


 最後に、助けてと言われていたのに。



 何に食われたのかすら分からなかった。ただ、二人が消えた後には何も残っていなかった。



 そこからだ。後悔しないように生きていくと決めたのは。


 相手のためなんかじゃない。自分の為に、自分の都合で助けていくのだ。絶対に後悔しないように。



 そして、目の前のナズナに話を聞こう。その前に、起きて欲しいのだが。

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