第五話 入浴したら衝撃の事実を知った。
服を脱いでから思った。本当に女になったんだなぁ、と。
銅鏡が置いてあり、そこに写し出されている自分の姿に驚いた。これは、引いてしまうな。
顔から首にかけては返り血がどす黒い赤色に変色してべったりとついている。集中しすぎて気付かなかった。どうりで道行く人が苦笑いしているわけだ。
見た目は悪くない。と言うよりもかなりの美少女であろう。ナズナと変わらない位である。
銀色の強い膝裏まである黒髪に、翡翠色の瞳。全体的に華奢で幼いような印象を受ける体であった。
胸はそんなにないみたいだな。まぁ、昔の体に近い方が動きやすいから良いのだが。
久しぶりの暖かいお湯を被って、血を洗っていく。全部、時間を巻き戻してしまえばいいのだが、何となく風呂に入りたかったのだ。
とりあえず、髪を洗うのが大変だった。長すぎる髪は水を吸ってかなり重くなってバランスを崩しやすい。かなり時間を使ってしまった。
「ふぅ、」
ゆらゆらと全身をお湯につけて暖まっていると外からナズナの抗議の声が聞こえてきた。
「ちょっとっ!止めてくださいよ!」
「時間足りない、清掃するの、大変」
「ボクも手伝いますからぁ」
「素人には無理」
「それとも、風呂。入らない? きたないまま?」
「入りますけど……」
「なら、早く入れ」
「あ、ちょっと。ああっ!」
ぽーん、とナズナが入ってきた。まぁ、いいや。見なければいいし。
「あ、あの。シオンさん。こっちを振り返らないで下さいね」
遠慮がちにそう言われた。だが、そう言われると見たくなってしまうのが人の性である。
空間をゆっくりと屈折させた。決して振り返ってはいない。屁理屈だが。
「ぐほっ」
その後見なければ良かったと後悔した。女の子じゃなかったのだ。男の娘だったのだ。俺から消えたアレがあった。
そして、全身が傷だらけだった。腕、足、首など見える場所の傷は無い。だが、背中や腹、太腿の内側など見えにくい所には至るところに古傷ができていた。
「どうしたんですかっ」
「いや、大丈夫だ」
ちょっとショックを受けただけだ。
「なぁ、ナズナ。お前はこれからどうするんだ?」
「どうする、って?」
まぁ、そうだろうな。これからの事をどうするか。宛のない旅になると思う。
コイツの将来を俺が決めて良い訳がない。ましてや、いつ俺が消えるかも分からない。
「むー。今は眠いからまた明日決める! じゃ、先に上がるね」
「へいへい。じゃ、俺も上がるか」
ざばり、とお湯からあがってすたすたと脱衣場に行った。だが、着替えるのはめんどくさい。だから、空間収納から服を取り出した。
この時に、ちょっとした裏技がある。この裏技で衣服を着た状態に出来るのだ。
「うぇぇぇぇいっ!」
ものすごく奇妙な叫び声を上げた。ふっ、男なら一度は体験したいイベントだろうがそんなことはさせないっ。
「どうした?」
「いや、なんでもないよ」
「お風呂、ありがとうございました!」
「いや、いい。素早く、寝ろ」
「はぁい」
ぶっきらぼうというより、単語の羅列のようにしか聞こえない店主の声を背中に部屋に入って眠ることにした。