第十話 悪戯のような、試練のような。後編
「あぁ。そう言うことでしたか。なら大丈夫ですよ。こちらの装置のバッテリー切れだったみたいです。これで依頼達成です」
「おや? もうこんな時間。あなたも、夕飯を食べていって下さいよ。寝る場所もありますし。せめてもの歓迎です」
ま、いいか。色々あったし、腹減った。取り分け、村長が話を聞かない。と言うよりも理解してくれなかった。物凄く簡単に話しているのにだ。
三十回は確実に同じ説明をした気がする。疲れた。
まぁ、明日の朝にはナズナの所に向かおう。何となく、俺よりも悲惨な目に合っていそうだからだ。
待つこと数十分、料理が並んだ。かなり豪華な献立である。料理名は分からないけど。パンに、何かの肉。それとスープにサラダだった。
「さて、召し上がってください」
村長の妻らしき人が進めてくれた。村長達も食べ始めているので、とりあえず食べてみることにしよう。まずは、肉から食べる。
「おぉ、美味しい」
肉本来の味がして、とても美味しい。あまり臭みもないので食べやすい。だが、どうしてこんなに綺麗な赤色にできたのだろうか。
着色料なんて無いのに。まるで、唐辛子を大量に使った料理のような色合いである。
村長一家の全員の顔が引きつっている。美味しいのに、誰も食べようとしない。不思議だ。
「誰も食べないんですか?」
「いやいや、食べますよ? あなたの食べっぷりに驚いただけです」
まだ一口しか食べていないのに、おかしな事を言っている。水が少し赤くなっているのも、きっと長期保存のための伝統の方法なのだろう。
あまり会話も無く、黙々と食べ終わった。食べ終わると、なんだかとても眠たくなってきた。
食べてから眠ると、よく太ると言われているが、まぁ、体型なんてすぐに戻るだろうとそのまま意識を手放した──
深夜に目を覚ますと、ベッドに寝かされていた。隣で話し声が聞こえていた。それは、村長と村長の妻が話している会話であった。
「あの新米の子、最初の落とし穴以外には引っかからなかったぞ? 始めてなんじゃないか?」
「それに、あの激辛肉を平気な顔で食べるなんて。ほとんど味覚が死んでいるか、人間じゃないわよ。それに、水も唐辛子入りなのに」
どうやら、そう言うことらしい。落とし穴も料理も、そして不自然なほどに内容を理解しない村長も全てが演技だったと言うことだ。
「誰の味覚が死んでいて、人間じゃ無いって?」
「ひぃぃぃぃっ!」
ゆっくりと後ろから肩を叩く。多分、冷徹な声で発した言葉は、二人の寿命を縮めたのではなかろうか。
「違うのじゃ。これは、ギルドに頼まれたのじゃ」
「ギルドが、ねぇ。まぁ、いいや。じゃあ、そう言うことで。ナズナに会いに行こうかな」
わぁお、凄い責任転嫁。ノリノリでやっていたくせに。でも、目が覚めたし、どうせ馬車は来ないのであればそのまま歩いてナズナのいる場所まで戻ろうかな。
「何を言っている。夜に出歩くなど、危険すぎる!」
「大丈夫だって。そう言うわけでさ」
道を教えて貰って、村から出ていった。怒って出ていった訳では決してない。イラッ、としたが。まぁ、楽しかったし。