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世の中には絶対に知らない方が幸せなことがある

 とりあえずコルド遺跡から脱出しました。あ、非常口はちゃんと閉じましたよ。ダンジョンマスターから特殊転移アイテムをいただいたので遺跡入り口からダンジョンマスターの部屋に転移できるようになりました。


「えっと、ポッチだっけ?」


 珍しく賢者がポッチに話しかけた。


「はい」


「それ、大事にしなよ」


 賢者は魔結晶石を指差した。


「もちろんです」


「うん、それ1個でクリスティア城が買えちゃうお値段だから盗まれないようにするんだよ」


 ポッチの尻尾がぶわっと膨らみ、カタカタとツヨシを持つ手が小刻みに震えていた。


「じ、冗談ですよね?」


「いや?事実…いや、クリスティア城じゃ足りないかも」


「いやあああああああ!!」


 ポッチが泣いた。そんなに高額なアイテムだったのか。ちょっとそんな予感はしていたよ。


「返品…いや、偽リンド達が入ってるし…いやあああ!!どうしよう、どうしたら…怖くて持ち歩けなぃ…!」


「あ、知らないで受け取ったのか」


「どう考えても過剰報酬…!」


「いや、お姉ちゃんもポッチの絵が欲しかったし、あのダンジョンマスターさんにの元にたどり着けてビビらずいい絵を描ける画家なんてポッチだけなのでは…」


 ポッチ以外が納得した。普通の画家はそもそもたどり着けないだろう。


「確かに、ダンジョンマスターにたどり着けても戦うしか普通は考えないよ」


 ジェンドが頷く。ラストダンジョンの最深部に絵を描きに行くバカはいないだろう。


「つまり、非常識人へようこそッス!」


「「それはもういいから」」


 私とジェンドが同時にツッコミをした。

 しばらくポッチが生まれたての子犬…ではなく子鹿みたくガクブルだったが、彼は切り替えたらしい。過剰分は少しずつ返済するとのこと。うちのポッチは真面目ないい子です。

 私にもダンジョンマスターさんの絵を完璧に仕上げてくれました。額付きで。額も手作り。額はダンジョンマスターさんにもあげたらしい。とても喜ばれ、また財宝をくれようとしたのでお断りしたとのこと。

 絵は我が家のリビングに飾られております。ダンジョンマスターさんと同額にすべきかと言ったら、超叱られました。結局ポッチに押しきられ、プレゼントされました。




 たまたまディルクと賢者とお茶をしていたら、ディルクが呟いた。


「世界はうまくできてるよね」


「?どういう意味?」


「ロザリンド、ポッチ君、リンカさん…世界征服すら出来るだろう人材が、揃って無欲なんだもの」


 私はまあ、やろうと思えばできるかもしんないがしない。面倒だし無血では無理だろうからね。

 ポッチは…そうか、あの魔具をフル活用すればできるかも?

 凛花は…神様も喚べばできるかもしんない。


「いや、私はわりと欲まみれだよ。面倒だし、する意義を見いだせないからしないだけ」


 私は真顔でした。


「面倒だからって言うけど、そもそもロザリンドは世界征服したいなんて思わないでしょ?世界なんて欲しくないし統治する気もないし、力で弱者を支配したいなんて、思わないでしょ?世界を滅ぼせる力があったって、使わないでしょ?」


 意味がわからない。当たり前じゃないか。


「世界征服なんて面倒。現在のバートン領だって若干手に余ってるのに、領土拡大したいなんて思わない。弱者は守るべきもので、虐げるのは屑だと思う。世界を滅ぼしてなんの意味があるの?」


 ディルクが苦笑した。


「いや、平和的な思考で何よりだよ」


 解らなくはない。だって、ディルクを獣人だからってだけで馬鹿にする奴らを蹴散らしたいと思わない訳じゃない。ただ、それをしたら私が最低な人間に堕ちる。人には事情があるのだから、難しくとも力押し以外で受け入れられる方法を選択したのだ。


「ほら、私は半分基本日和見大好き日本人だからね。そんな余計なことはしないんだよ」


「そうだね。ロザリンドもリンカさんもポッチ君も、望むのは平穏な生活だ。神様も狙って与えてるのかね。特にポッチ君なんて下手したらジェラルディンさんを量産…」


 あの迷惑兵器なオッサンを量産?しかも必要なときだけ喚べる………いや、描く前にしとめれば…いやいや、すぐ喚べる偽リンド達が時間を稼ぐだろう。今の私でもジェラルディンさんには3回に1回しか勝てない。





 ポッチ最強説が急浮上した瞬間でした。






 しかし、最強の(ポッチ)は今日もアトリエに籠って作品を作っています。


「見て!ダンジョンマスターさんを作ったんだ!」


「見て!こないだ見た綺麗な景色の絵を描いたよ!」


 最高難度のラストダンジョン・コルド遺跡。

 ダンジョンマスターの部屋が、ポッチの個展会場になる日は遠くないと思われる。

 世界最強の男になってしまった芸術家は、それに気づかず今日も平穏に暮らしている。

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