軽率な発言の結果
その日、私は学校にいた。昼休みになりランチを食べて紅茶を楽しんでいるところで、うららかな空気に全く不似合いな鮫が襲いかかる的BGMが鳴った。
『……………………』
最近、騎士団の着信は鮫が襲いかかる的な着信音に設定してあったのです。自分でやっときながら固まる私。そして、不穏なBGMに警戒する兄と友人達。
「ロザリンド、今度は何をやらかしたの?とりあえず、出なさい」
「心当たりがありません!」
反論したものの、仕方ないのでとりあえず出ることにしました。
「はい、こちらロザリンド…」
「あ、ロザリンドちゃん!?なんか蜘蛛の大群が来てて、主がロザリンドちゃんだって蜘蛛の親玉みたいな奴が「うちの子が申し訳ございません!早急に引き取りに行きます!!」
通信相手は幼少期からお世話になってた騎士さんでした。蜘蛛と聞いて瞬時に脳裏に水月さんが浮かんだ私は、相手に見えないのは解りつつも土下座しながら返答した。
「…今度は何?」
「多分水月さんが蜘蛛の大群を率いて町に……」
全員が硬直した。ですよね!!
「引き取りに行ってきます!!」
そして、私は全力で走るのだった。
到着した現場は正しく混沌だった。最初は血の海にビビり、大怪我かと焦った。しかし、よく見たら全て鼻血だった。
そして、なんか嫁さんらしき女性達に叱られている騎士さん達。
「…え?ナニコレ…」
私は鼻血の海と修羅場ににドン引きした。そして蜘蛛はどこ行った??
「主、ワタシは頑張ったヨ!」
見知らぬ美女にいきなり抱きつかれた。何故彼女は全裸なのだろうか。とりあえず予備のマントを着せてあげた。あ、血の海は彼女のせい?いや、それより何より…
「…………どちら様?」
「あ、主…ひどイ………」
抱きついてきた美女は絶世の美女だったが、全く見覚えがなかった。さめざめと泣く美女にオロオロする私。やはり正しく現場は混沌であった。
「いや、本当に誰?うちの水月さんは??」
よく見たら、地面に小さい蜘蛛ががたくさんいる。この中にいるの??
「はイ」
「え?」
美女が挙手した。
「水月さん??」
「はイ」
やはり挙手する美女。
「ええ?」
「ワタシ、水月でス」
「えええええ!?」
ほら、と美女が見せた手首にあるのは魔獣用の魔具。私がカスタマイズした、水月さん専用の一点物だ。
「どういうこと!?」
「はっはっは!頑張ったぞ、主!」
ジェラルディンさんに聞いても無駄なのはわかりきっているので、後で水月さんに説明してもらおうと思った。
「でも、なんで人型に?」
「エ?」
頬をペタペタ触る水月さん。手足を確認…いや、見えるから捲らない、出さない。
「えええええエ!?そういえバ、主ともお話ができてル!嬉しイ!主、主!ワタシ、主とお話がしたかっタ!」
私にじゃれる水月さん。そっか、お話ししたかったんだね。すぐわからなくてごめんね。そんな思いを込めて水月さんをナデナデしつつ、とりあえず服をちゃんと着てくれとお願いした。
服を着せるとフィズが復活した。鼻血まみれなので魔法で綺麗にして…先手必勝とばかりに土下座した。
「うちの子が申し訳ございません!」
「……今回の件が不測の事態であるのは、そちらの魔獣から聞いて把握している。次がないようにしてくれ」
「はい!よく言っておきます!!」
そして自宅ではなくローゼンベルク邸に行きたいと水月さんに言われた。彼女はニコニコしながら私に、糸をくれた。
仄かに優しく輝く糸だった。滑らかで美しい。
「ワタシ、この糸を作れるようになったヨ!皆も手伝ってくれるって言ったヨ!」
「ありがとう…危ない目にあわなかった?怪我はしてない?」
そうか、そうだったのか…魔獣の中でも温厚な水月さんが仲間を引き連れて大爆走とか違和感があった。水月さんは私のために糸を作れるようになり、はしゃいで今回の騒動を引き起こしてしまったのだろう。
「あらん?すごい美人じゃなぁい?」
たまたま商談で来ていたミス・バタフライが私の手にある糸に気がついた。
「これは…流石はロザリンドちゃん!見つけてくれたのね!?」
「まだたくさんありまス。試作もありまス。使えそうですカ?」
心配そうな水月さん。ミス・バタフライの瞳がギラギラと輝いた。
「布にしてみないとまだわからないけど…アタシの勘が『これはイケる』と言ってるわ!!あるだけちょうだい!布にするから!」
「主、ワタシ頑張るヨ!あと、セイスイを煮詰めたのをくださイ!」
糸の原料が以前シヴァに使おうとして拒否られた煮詰めた聖水だったなんて…
※悪役令嬢になんかなりません参照
「(元)聖水とどっちがいい?」
「………主、これは水では…いや、水??んんん…」
ぷるぷるな(元)聖水は水月さん的に水なのかも微妙らしい。確かにスライムかなんかっぽい。見た目は水なんだけどねぇ。
水月さんは少しためらったが(元)聖水をのみこんだ。
※水月さん(人型)が糸を紡ぐ様がけっこうな衝撃映像だったので、代わりに激しく踊って『ウルトラソウッ!!』と叫ぶクラリンを妄想してください。
「お嬢様、しっかり!」
「はっ!」
あまりの衝撃で天国?のクラリンとこんにちはしてしまった!
「ここからはアタシの仕事よ!世界一のドレスを作るからね!」
「ああ…うん」
「主、ワタシ頑張るヨ!」
「ああ…うん」
とりあえず水月さんに、人型で糸を紡ぐのはショッキングなのでやめてほしいとお願いしました。
そして、私はそもそも普通の素材でかまわないんだと言い損ねる私がいました。
そして、再び同じことが起きないようにうちの魔獣さん達によーく説明したのでした。




