ワタシの冒険
???視点になります。
察しのいい皆様なら誰視点かおわかりかと思います。
ワタシは、昔悪い人間に捕まって『商品』になった。ワタシ達種族は人間にとって価値があるらしい。カネになる、と悪い人間達は話していた。
檻に閉じこめられ、劣悪な環境の中弱っていく同胞達を眺めるしかなかった。生きるのに最低限の食物と水しか与えてもらえず、ワタシはこのまま朽ちるのかとぼんやりしていた。
しかし、小さな女の子により朽ちるはずのワタシは救われた。
女の子とワタシは言葉が通じないから、強き上位種を通しての会話となったが、女の子は『商品』だったワタシを解放した。
しかし、すぐに帰るわけにはいかない。受けた恩を返さずに帰るわけにはいかないと同胞達と話し合い、強き上位種を通じてワタシ達の意見を伝えてもらった。
すると、女の子はワタシ達に仕事をくれた。残された同胞を救うために説得してほしいと言うのだ。ワタシ達は快諾した。同胞達を説得するのは大変だったが、ワタシ達は無事にやり遂げた。そして、同胞達も解放された。
そして、女の子は同胞達にも好きに生きなさいと言った。寛大で優しい女の子。彼女こそワタシの主なのだと感じた。ワタシ達種族は一度決めた主に忠実だ。女の子は最初こそ断っていたが、最後にはワタシを配下にしてくれた。
そんな寛大で慈愛に溢れた素晴らしい我が主が、晴れ舞台に着るドレスの素材を探しているという。魔物素材は数あれど、我が種族の作り出す糸は人間に高額で取引されていたはずだ。特に高位種であればあるだけ美しい。ワタシは仲間達に相談し、故郷に旅立つことにした。
ワタシ達のリーダーである強き毛玉殿の助言で脳筋英雄殿に協力を依頼した。
「うむ、かまわんぞ!」
脳筋英雄殿は快諾してくれた。彼も我が主のためならば、とのこと。しかし、ワタシの言葉が微妙に通じているのは何故だ。
「勘だ!」
なるほど。ワタシは深く考えないことにした。脳筋英雄殿のおかげであっさりと故郷にたどり着いた。
脳筋英雄殿が悪い人間に間違われては困るので、ワタシだけで行くことにした。
幸い幼馴染が数体上位種になっていたので我が主のドレスのために糸を作ってくれないかと頼んだ。
「お前が俺のメスになるならな」
「あはははは、そうだな」
主の側を離れたくはないし、強き毛玉様の犠牲で泣いた優しき主は、きっとワタシが自分を犠牲にしたら悲しむ。
それはできない、と告げると襲われた。しかし、もっととんでもない主達を見ているワタシである。上位種数体など脅威ではない。
水を極限まで圧縮した水球を射出し、正確に関節を撃ち抜いて行動不能にしてやった。仲間が多分癒してくれるだろう。
「貴様らのような弱きオスなど願い下げだ!」
正直、偉大で強き我が主を日頃から見ているだけに、ワタシに襲いかかってきた上位種達は屑にしか見えなかった。
怒って故郷の森を出ようとしたら、同胞達から礼を言われた。上位種達は種族進化したのをいいことに、好き勝手していて彼らも困っていたらしい。
しかし、これからどうしよう。結局糸は手に入らなかった。
トボトボと脳筋英雄殿との合流地点へ歩く。
「どうした?」
脳筋英雄殿は肉を焼いていた。ワタシにも肉を分けてくれた。この脳筋英雄殿もいい人間だな。ワタシは故郷でのことを説明する。
「…つまり、お前も種族進化すればいいんだな!」
なんでそうなった。
いや…そうか!そうすればワタシが主に最高の糸を作ってあげられる!!なんと名案なのだ!!
「…ついでだから、そこに隠れているやつらも鍛えてやろう!」
同胞達が着いてきていたようだ。そして、それが地獄の始まりだった。
倒して、倒して、倒して、倒して、どれほどの敵を倒したか…ワタシにもわからない。
ワタシは気がつけば大きく強くなり、見たことがないほど美しい糸を紡げるようになった。特に澄んだ水を使うとよいらしく、脳筋英雄殿がセイスイを煮詰めたやつとやらをくれたので使ってみたら、神々しい糸ができた。
これならば、主のドレスに相応しい!
ワタシは歓喜に震え、脳筋英雄殿に心から感謝した。さらに種族進化した同胞達も手伝ってくれるという。ワタシは大喜びで主の元へ向かったのだった。
そして、いつも通りに町に入るのだか…普段はしない失態をおかしてしまったのだった。




