可愛いお嬢様の本気
ダン視点になります。
俺は、実は今まで、お嬢様に食材を頼んだことがない。お嬢様は忙しいし、土産だとかおすそ分けだとか、言わなくても素晴らしい素材を狩ってきてくれていた。
だから『これが欲しい』と頼んだのは、今回がはじめてだったんだ。
リストを今は王宮料理長やってる友人に見せたら殴られた。生息地がバラバラで、こんなの10年あっても持ってこれないと叱られた。俺は、お嬢様に無理難題を言ってしまったらしい。そういや、魔物の生息地なんて今まで気にしたこともなかった。まだまだ学ぶべきことがあるなと反省したら、聞き慣れた可愛い声がした。
「ダン、たっだいまぁ!」
珍しくお嬢様…とジェラルディン殿、ジャッシュ、ジェンドが少し怪我をしている…いや、服が少し破けているだけだな。怪我は治したらしい。
「おかえり、お嬢様。無理言って「全部獲ってきたどー!」
え?
隣をみたら、王宮料理長やってる友人もポカンとしていた。早すぎねぇか?半日しか経ってないぞ??
「あ、それでね。親切なダンジョンマスターがどうせならダンが言ってたやつの最高ランクにしたらどうかって言ってくれたから、狩ってきた!」
お嬢様は絶世の美女に成長したが、俺の中ではお嬢様はいつまでたっても可愛いお嬢様だ。誉めて誉めてとピョコピョコ俺にねだってくる可愛い娘のようなお嬢様だ。とりあえず、可愛い娘のようなお嬢様の頭を撫でながら、言われたことを反芻する。ダンジョンマスターって、誰だ。親切なダンジョンマスター??
「…………お嬢様、ナニを狩ってきたんだ?」
「えっとね…不可説不可説転バッファローでしょ?」
見ただけで解る、最上級の肉だ。よだれが出てしまった。なんか、ちょっと光ってる気がする。
「レジェンドウコッカトリスの卵でしょ?」
それ、おとぎ話で聞いたことあるわ。実在したのか。つうか、この卵も発光しとるんだが。気のせいではすまないレベルで光ってるんだが?
「ヤマタノ獣王牛鳥でしょ?」
うん、でけえ。それも実在したのか。何年か前にオークションに出たと聞いたことがあるわ。食ったことはないが、ものすごく美味いらしい。
「うむ。これは美味いぞ。昔1度だけ狩ったことがある」
「…あんたがオークションに出したのか?」
「?よくわからんが、ギルドに出したら値がつけられないと言われた」
「……………………」
間違いなくジェラルディン殿が出したんだな。食べてみたいとは思ったが、実現するとは思わなかった。
「真海王マグロでしょ?」
「聞いたこともないが…」
「なんかダンジョンマスターが言うには突然変異の上位種だから世界的にも珍しいんだって」
そんなもん、どうやって獲ってきたんだ?うちのお嬢様はすげぇなぁ…
「シャイニングミラージュシュリンプ」
「輝いてるな」
オーロラみたいなきらめきの、綺麗なエビだ。ただし、でかい。
「こいつ、わりと厄介だったよね」
「ダンジョンマスターさん、群れで喚びましたしね…」
「あのクソ犬、今度毛をむしってやる……」
犬?とりあえず、俺はお嬢様達に礼を言って菓子を出してやった。
「ありがとな、お嬢様。ジェラルディン殿、ジャッシュ、ジェンドも。よかったらマドレーヌを作ったから食ってくれ」
そして当然、お嬢様達が狩ってきてくれた獲物を試食したんだが…美味すぎた。塩焼きにしただけでも食べたことないぐらい美味い。俺は、この素材の良さをさらに引き出す料理を考えなくてはならないのだ。
「お嬢様、俺はお嬢様のために最高のフルコースを作ってみせるからな!!」
お嬢様がくれた恐らくこの世で最高の素材!!
期待に応えなければ男が廃る!!
そして、俺はこの日からメニュー開発にひたすら没頭するのだった。
そして、その後のローゼンベルク家の晩餐。
「ダン、なんで今日の夕飯は輝いてるの!?」
※食材のせいです。
「味は保証します」
「いや、だからなんで!?」
「ルー、とても美味いぞ。冷めないうちに食べなさい」
「父様!?目から光線が!!」
「気にならないぐらい美味いぞ」
「なにそれ、怖い!!」
とか言いつつ、おいしくいただきました。
暫く、絶品ご飯なのに納得いかない、もっと味を引き出すには…と唸るダンにちょっとルーが困ったようです。
それから、ご飯が美味しすぎて外食が微妙になったと愚痴るルー。ダンは喜びました。




