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フィズさんの困った日

 読みたいと言ってくださった方がいたので前話フィズ視点になります。

 後で書いたら?との声もありましたが、忘れちゃうので今回にします。

 私、フィズリア=ロスワイデの朝は早いらしい。日の出前から素振りをして汗を流してから出勤1時間前には騎士団で仕事をしている。だから、私はその日の朝も起きていた。


「団長!謎の白マントと黒い甲冑の獣人武装集団が来たとの報告が物見より来ました」


 自宅の通信魔具から連絡が来た。部下からの報告に緊張が走り、すぐに私は現場に向かった。




「筋肉肉肉!ロッザリンドォ!」


「肉肉筋肉!ロッザリンドォォ!!」


「筋肉ムキムキディルク様!」


「ハッスルマッスルディルク様!!」


 それは、とても見覚えがある集団であった。友人達の信者だ。害はないと思われるが、近所迷惑である。


「代表者はいるか!?話をしたい!」


「筋肉ムキムキ!ロッザリンドォォ!!」


 駄目だ、相手の声がでかいので聞こえていないらしい。私はロザリンド製の通信魔具のモードを変更した。


「総員、耳を塞げ!」


 ついてきた部下達が私の意図を理解して耳を塞いだ。


『止まれ!責任者、でてこぉぉい!!』


 最大音量による拡声。ロザリンド製の通信魔具は拡声魔具としても使える優れものだ。相手が獣人だったこともあり、効果は抜群だった。迷惑な獣人達は耳をおさえて悶絶している。味方も数人悶絶しているが、まぁ仕方あるまい。


 害意がなくとも武装集団に王都をこの状態で歩かせるわけにはいかない。王都のゲート手前で止められたのは幸運だったと言えよう。


「貴殿らは何者だ!?」


 見当はついているが、念のために確認した。


「我々は、ロザリンド様ファンクラブ!人呼んで『白銀の姫勇者を崇める会』です!!」


「我々は、ディルク様ファンクラブ!人呼んで『至高の筋肉を目指す会』です!!」








 どうしたものか。関わりたくない。やはりロザリンド嬢とディルク絡みだったか。


「何故このような騒ぎを?」


 半年後に予定された友人達の結婚式に参加させてほしいと頼むために来たそうだ。


 私は面倒になったので、ロザリンド嬢に丸投げした。部下にロザリンド嬢の家を案内させたのだ。しばらくして、あの集団は無事ロザリンド嬢がどうにかしたと部下に報告された。

 ちょっと悪いことをしたかもしれない。今度菓子でも差し入れようと考えていたら、また部下が慌てて駆けこんできた。


「だ、団長!大量の金色のサボテンが!しかも何故か王都の結界をすり抜け、市街地を歩いています!!」


「…それはローゼンベルク家のサボテンだ。しかし、無謀な冒険者が戦いを挑んで返り討ちにあうのも可哀想か…私が行こう。冒険者ギルドへは、手出し無用でありサボテンを傷つければ血塗(ブラッディ)女王(クイーン)による報復を受ける恐れがあると伝令せよ!」


「はっ!」


 部下はすぐ冒険者ギルドへ通達を出しにいった。

 私は市街地をゆっくり歩く大量の金色サボテン達と対峙した。


「…久しいな。この中に、さぼさん?はいるか?」


 ああ、ロザリンド嬢のせいで私はサボテンと普通に会話ができるようになってしまった。


「イルゾ。ヒサシイナ」


 金色のサボテンのうち、1体が出てきた。擬態しているが、確か虹色だった…はず?

 ああ、サボテンとちゃんと書類を出さないやつを狩っていた頃が懐かしいな。


 若干現実逃避をしたが、さぼさん?から事情を聴く事に成功した。彼らもロザリンド嬢とディルクの結婚式に参加させてほしくて、はるばる砂漠から歩いてきたらしい。


「ふむ…」


 またロザリンド嬢の家に行かせてもいいが、この時間帯だとすれ違う可能性がある。

 私はサボテン達にロザリンド嬢達が通う学校で待つよう話した。


 私の感覚は、ロザリンド嬢のせいでおかしくなっていた。サボテン=無害という図式が無意識にできていたのだ。彼らは書類提出のために共に戦った戦友だったからだ。


 金色サボテンがロザリンド嬢の学校で待っていたため、騒ぎになってしまったのは反省している。半日待たせることになるがロザリンド嬢の家に行かせるかローゼンベルク邸に行かせるべきだった。




 そんな失敗を反省しつつ、春の空を執務室から見上げた。うららかな春の空。くじらみたいな白い雲と…巨大魚。


………巨大魚!??


空に見慣れない生き物…巨大魚がプカプカと浮かんでいた。


「騎士団長!そ、空に巨大な魔物が現れました!!」


「見ればわかる」


 即座に脳内でどのように討伐するかをシミュレートする。先ずは誘い出して被害が少なくなるように王都から離さなければなるまい。魔法院からも救援を頼まねば……




「ロザリンドちゃ~ん?」



 おい。




 思わず思考停止してしまったが、魚よ。お前もロザリンドの関係者?いや、関係魚か。


「だ、団長…」


「うむ。任せておけ」


 今の時間ならば、学校にいるだろう。私は魚にロザリンドのいる場所を教えた。


「ご親切に、ありがとうございました」


 意外と礼儀正しい巨大魚だった。念のため、冒険者ギルドへは攻撃しないよう通達を出しておいた。




 さて、書類を片づけるかな。前団長と違って毎日コツコツやっているから書類もさほどたまっていない。すぐに終わるだろう。


「だ、団長!また空に…!」


 今度は赤いドラゴンが空を飛んでいた。


「問題ない。あれは多分ロザリンド嬢のドラゴン精霊だ。通常業務に戻れ」


「多分違いますよ!角の数が少ないですし、あのドラゴンは多分メスです!」


 私には差がよくわからんが、確かによく見ると違う…のか?並べるでもしないとわからん。


「ロザリンドちゃーん、いるかしらぁ?」


 声を聞いてわかった。確かに別ドラゴンだ。ロザリンド嬢のドラゴン精霊は少年の声だったはずだ。


 メスドラゴンに害意は無さそうだから、ロザリンドの居場所を教えた。冒険者ギルドへ攻撃しないよう通達を出しておいた。


「ありがとう、助かったわ」


 うむ、なかなか礼儀正しいドラゴンであった。






 そして書類仕事が一段落ついたので休憩していた。何気なく空を見たら、空を埋め尽くすクリスタルドラゴンの群れを見つけてしまった。

 陽の光を浴びたクリスタルドラゴンはとてもキラキラしていて美しい。


「ロザリンドはいるか!?」


 うむ。そんな気はしていた。部下ももう騒がず、私に報告だけをしてきた。これはこれで危機感が薄れてよくない気もする。早急に対策を考えねばなるまい。


 この時間、まだロザリンド嬢は学校のはずだから行くように話した。


「いや、助かるわ。しかもあんたみたいに俺らにビビらず話す人間、珍しいなぁ」


 いや、流石に私もクリスタルドラゴンの大群は怖い。そっちに敵意がないし、私の表情が分かりにくいからびびって見えないだけだろう。


「そうか」


 しかし、びびっていると言わなくともいいだろう。適当に頷いた。冒険者ギルドへは攻撃しないよう通達を出そうとしたら、部下がすでに出していた。なかなか気が利く部下である。

 ロザリンド嬢は(多分)悪くないが、これだけ迷惑な訪問者が多発したので放置するわけにもいかない。ディルクに連絡を取り、経緯を説明した上でロザリンド嬢をつれてくるよう話した。


「ああああ、ごめんね、フィズ」


「ああ、うむ」


 我が友人はいいやつだ。ちょっと和んだ。本当は、彼を友人と呼ぶ資格など私にはないのだがな。少しだけ苦笑して…友人の色々迷惑な嫁を待つのだった。


 待っている間にロザリンド嬢がクリスタルドラゴンをハリセンで撃墜しまくっているという報告を聞いて、飲んでいた紅茶をふきだしてしまった。本当に彼女は何をしてるのだろうか。




 そして、友人に付き添われてげんなりしたロザリンド嬢が来た。まぁ、あれだけ迷惑な訪問者が多発すれば疲れるだろう。途中…いや、ほぼ最初から面倒になって彼女に丸投げした自覚はある。

 当人は私に叱られるのではないかとビクビクしているようだが、叱るつもりはなく事情聴取がしたいただけだ。そんなことを考えていたから、反応が遅れた。


「大変申し訳ありませんでしたぁぁ!!」


「え?」


「ゆ、友人…友ドラゴン?やら魚?やら…お騒がせしましたぁぁ!!」


 ロザリンド嬢が土下座した。いや、うん。どうしたらいいんだ?ディルクに困惑して視線をやると、彼は苦笑していた。


「ロザリンド、フィズは怒ってないみたいだよ」


「え!?マジで!?ハンドクローぐらいは覚悟してたんだけ…いたたたた!?」


「私を何だと思ってるんだ。お望みのようだから食らわせてやったぞ」


「望んでないから!暴力反対!!」


 そんなくだらないやりとりをしてから、事情聴取をした。ついでに他に起きそうな騒動がないかも確認しておいた。


「今日は散々だった…」


 しょんぼりするロザリンド嬢。すまんな、帰宅したらエルフ達が待ってるぞ。あの集団、面倒だから待たせてある。頑張れ。

 心のなかで応援しておいた。


「…騎士団長、なんか楽しそうですね。ディルク様達と本当に仲がいいんですねぇ」


「…そうか?」


「はい。とても穏やかな表情でしたよ。ディルク様も」


「…そうか」


 そう言われて、なんだか嬉しかった。今日はやたらと大変だったが…悪くはなかった。

 





 翌日、もぐら獣人の大群が現れたためすぐにロザリンド嬢に押しつけたのは仕方ないと思うのだ。ついでに他に起きそうな騒動を予測しているんだからあらかじめ連絡しておけとハンドクローをかましてやった。ロザリンド嬢は女性なのに容赦がないって?ロザリンド嬢は女性ではあるが私の中で『ロザリンド』という別カテゴリだから仕方がないのだ。


 そして、最近暇なのかドラゴンが遊びに来るのだがどうしたらいいのだろう。どうも目当ては有能な部下(ジャッシュ)の焼き菓子らしいが、私にも話に来るのだ。


「気に入られちゃいましたねぇ」


「…何がだ?」


 まぁ、捕物を手伝ってくれるし、忙しい時はすぐ帰るから問題はない。よしとしよう。







 それからしばらくして、私がドラゴンを下僕にしているとの噂が流れた。友人が仕事を手伝っただけだと噂を流した馬鹿どもにハンドクローをかましまくった。


「騎士団長、変わっているよなぁ…」


「うん…」


 部下達の焼き呟きを、私は知らない。

 これ、部下視点も面白かったのではないかという気がしてなりません。


 フィズさん、ロザリンドのせいで感覚が色々とおかしくなっています。本人は多少自覚している程度なんで周囲とのズレがすごいです。

 相変わらずディルクへの罪の意識が消えない不器用なフィズさんですが、多分彼の本質だから仕方ないのかなとも思います。

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