疾風の魔弓姫様と凡人な俺
ゲータ視点になります。
たまたまウルファネアで薬草の買いつけに来たらお嬢様から緊急通信が来たのでスタンピード制圧に協力することになった俺達。
「ゲータ、これを…」
うちのお嬢様にそっとナニかを渡された。なんかトゲトゲしていて穴が開いた金属製の品だ。
「これは?」
「メリケンサックです」
「めり…?」
「こうして指につけて殴る武器です。ゲータ専用ですから、役立ててください」
「…………わかった」
相当凶悪な武器だが、俺の腕力が活かせる武器でもあるだろう。素直に受け取り、転移した。
忘れずの迷宮は中級ダンジョンで、常に複数の冒険者が訪れる。ゆえに、到着した忘れずの迷宮では、多数の負傷者が出ていた。死者が居ないのが奇跡ではないかと思う状況だ。
「カモン、可愛い子達!いい試験戦闘になりそうだね」
ルー様が枝豆マシンガンズと鳳仙花ライフルズ、野菜戦士達を召喚した。
「や、野菜が!?」
うむ…俺はもうなんとも思わないが、初めて見ると驚くよなぁ…
「はぁ!にゃあ!!」
ミケルもなかなかだな…言うだけあってかなり剣が使えるようだ。
「た、たぁすけて~!」
トサーケンよ、いくらミケルが見たいからって前に出るからだ。
「ふん!」
お嬢様からもらったメリケンサックでトサーケンを追いかけ回していた魔物を殴った。魔物は綺麗にブッ飛んで他の魔物をなんかお嬢様に教わったボーリングみたいに吹き飛ばした。
「………………」
俺は腕力がある方だが、こんな冗談みたいな力はない。
「お嬢様ぁぁ!!」
ここにはいない恩人にして悪戯娘を思って叫んだ。
「あっはっは。まぁ威力が上がるのはいいじゃない」
「ルー様、枝豆マシンガンズと鳳仙花ライフルズの種はどのぐらいもちますか?」
彼らの種も無限ではない。種がなくなれば帰さなければならない。
「大丈夫、お姫様の準備が整ったようだよ」
「は?」
ルー様の空に巨大な魔法陣が浮かんでいる。なんだあれ。
「流星矢!!」
ミルフィリア様が矢を魔法陣に撃ち込むと…まさしく流星のごとく魔法の矢が降り注ぐ。しかも、あの矢……
「追尾タイプらしいよ」
やっぱりか!避けた魔物を追って矢の軌道が曲がっていた。なんつーか無茶苦茶な魔法だな!味方はちゃんと避けてるし!
今ミルフィリア様が使う魔法こそが彼女の二つ名の由来でもあるそうだ。
しかも彼女の天啓で強化したシーダ様も大暴れしている。すげーわ。目茶苦茶強い。
「…俺達は治療に専念した方がよさそうですね」
ミルフィリア様とシーダ様のもはや人外な強さにドン引きしつつ、そう話した。
「そうだね。戦闘は彼らに任せ………あれ?」
ルー様が周囲を見渡して顔をひきつらせた。俺も気がついた。
トサーケンがいない。
「キャイイーン!!」
トサーケンを見つけた、が…無事とは言い難い姿だった。
「トサーケン!?い、嫌ぁぁ!!」
泣き叫ぶミケル。トサーケンはへらりと笑う。
「大丈夫…君が無事で良かった」
「いや、よくねぇわ!!」
ミケルを庇ったのだろう。トサーケンは下半身を悪趣味な肉の塊モドキに取り込まれていた。全力で引っこ抜く。幸いまだ喰われてなかったようだし、腕を脱臼させちまったがスポンと抜けた。
「きゃああああ!?」
下半身がモロだしなのは…仕方ない。服も下着も溶けたんだろう。脱臼はトサーケンが自力ではめていた。尻尾の毛も溶かされたらしく、お嬢様が嘆きそうだ。
「巻いとけ」
無いよりはましだろうと上着を放り投げると、肉の塊と対峙した。どうやら餌を引っこ抜かれて新たな獲物を探しているのか触手を伸ばしていて気持ち悪い。
「オラァ!」
「ちょっと、ゲータ!触んない方が…!?」
肉塊を殴ってブッ飛ばした。さらに殴る。
「オラオラオラオラオラァァァ!!」
殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る!!
ただひたすらに殴り続け、肉の塊は形を失い溶けた。
「やった…のか?」
肉の塊だったものはもはやミンチと化していた。
「やった…のか?じゃなぁぁい!!」
「!?」
ルー様に殴られたが…俺の身体は固いので逆にダメージをくらったらしい。
「あー、悪い」
「倒せたから良かったけど、ゲータまで取り込まれたらどうするつもりだったわけ!?」
「悪い…」
「謝罪だけならロザリンドでもできる!」
どうしろと?
確かにうちのお嬢様はよくルー様に叱られてるよな。反省しないときもあるが、謝罪はする。
一瞬意識を明後日に飛ばしたのがよくなかった。
「反省してないね!?」
あ、やべ
それから俺はルー様に正座で説教されるのだった。正座って地味にきつい!
「だ、大丈夫ですか!?」
ミケルに心配されてしまった。足がしびれてプルプルしているからだろう。
「…ああ」
「その、先ほどはトサーケンを助けていただいてありがとうございました!」
「…ミケル」
「はい」
きっと今の俺だから彼女に伝えられることがある。
「俺は、自分のつがいを見つけた。だからそいつと幸せになる。もう過去に後悔するのはやめる」
「……はい」
「お前も、もういいんじゃないか?贖罪はずっとしていただろう。お前も幸せであればいい、と思う」
「ありがとう、ございます」
ミケルは泣き出した。俺はトサーケンに威嚇されている。
「トサーケン、全力でミケルを口説け。今なら多分…応えてくれるぞ」
「!!わ、わかりました!」
トサーケンは尻尾を振りながらミケルに駆け寄り、ミケルからパンチされた。お前、口説けとは言ったがパンツぐらいはいてからにしろよ。
ミケルとトサーケンが結婚すると手紙が来るのはそれから1ヶ月後の話だ。
ミルフィ達を人外な強さと評するゲータですが、彼も他冒険者から見たら人外レベルです。しかもお医者様で頭もいい。
本人に自覚はないですがゲータも色々おかしいです。
ゲータとミケルは自分が罪人だから幸せになったらいけないと悩み続けてきました。ゲータは少し自分を許せたようですが、ミケルも幸せになったらいいと思います。
ミルフィの出番が少なくて申し訳ありません。




