つまり悪いのはジェンドのお父さん
ウルファネア戦隊ロザリンジャーと化した俺たちは強かった。
いや、訂正する。ジェンドとジェンドのお父さんが強すぎた。俺たちだって鍛えてるし、強いはずだ。強いはずなんだけど…あの二人には敵わない。
「わはははははは!!」
「一人で前に出すぎないでよね!」
「わはははははは!!」
「ちゃんと周囲を見て!今投げ飛ばした魔物が他の人に当たりそうだったよ!」
「すまんすまん!わはははははは!!」
そんな会話…多分会話をしながらジェンドのお父さんが通ったあとには魔物の死体が転がる。二人で大半を狩りつつある。俺たちだって倒してはいるが、ジェンド達ほどじゃない。
しかもジェンドが効率よく狩れるようお父さんを誘導している。
ロザリンドお姉ちゃんの言う通りだ。ジェンドのお父さんが…いや、ジェンドとジェンドのお父さんが状況を完全にひっくり返した。
冒険者達も二人に鼓舞されて、魔物はどんどん減っていく。
「迷宮にいる分も倒すぞ!わはははははは!!」
そして迷宮に行くのだが…
「あ、そこは踏まないで」
「わはははははは!!」
かち。ひゅーん(おっさん、スイッチ踏んで落し穴に落ちた)
『………………』
「わはははははは!!」
よかった、無事だ。めっちゃ元気に走ってるよ。おじさん頑丈だな。なんか背中が寒い…!??いや、よくない!ジェンドがめちゃくちゃイライラしてる!ジェンドのお父さん、ジェンドに謝って!!
「そこは押さないでね」
「これはなんだ?」
ぽち。ひゅーん(矢が飛んできた。しかも、四方八方から)
「あんたはともかく、他の人間は下手をすれば死ぬから勝手にスイッチ押すんじゃない!!」
「…きゅーん」
ジェンドに叱られて、しんなりするジェンドのお父さん。耳も尻尾もしんなりしている。でかいおっさんなのに、かわいそうな気がするのはなんでだろうか。
「…あの、ジェンド」
悲しげに鳴くジェンドのお父さんに耐えられなかったエルンストが話しかけた。
「これはしつけだから。甘やかしちゃ駄目」
「…そ、そうか」
ジェンドの目は真剣だった。エルンストもそれ以上は言わなかった。普通、逆なんじゃないかなぁ?ルーミアお母さんみたいだと思ったけど、言ったら多分ジェンドに本気で殴られるから言わなかった。
「ルーミア母さんみたいだな」
『…………』
まさかの思ったまま言っちゃう勇者がいた。オルドぉぉ!!
「そうかなぁ?」
ジェンドは殴らなかった。しかし、笑顔でオルドにハンドクローをかました。ちなみに目は笑ってなかった。
「いででででで!?」
「ねえ、母さんみたいかな?」
「違う!似てない!あだだだだだだ!!」
「そうか?ジェンドは叱り方がルーミアそっくりだぞ?」
「お父さん、今晩ピーマン尽くしね」
「ジェンド、お父さんが悪かった。それだけは勘弁してくれ」
最強の…伝説の英雄は、息子とピーマンに敗北して土下座した。ジェンドのお父さんを見ていると、英雄譚がいかに美化または修正されてるかがわかるよね。
「これは……?」
本来なら迷宮の最深部であるこの場所に迷宮の核があるはずなんだけど、そこには白い糸の塊みたいなものがあった。
「…繭?」
確かに似ている。前に見たデッカイコだったか…そんな名前の魔物の繭そっくりだね。
「誰かいるのか!?頼む、助けてくれぇぇ!!」
「!?」
「ぬん!」
ジェンドのお父さんが声を聞いたと同時に繭を切り裂いた。この人は本当に迷いがない。
「助けて、助けてくれぇぇ!!」
冒険者らしき男の人が必死に助けを求めているが……その下半身は肉に埋まっていた。
繭から出てきたのは、複数の魔物の粘土細工を子供が適当にくっつけて丸めたようないびつで悪趣味な肉の塊。そしてそこから男の人の上半身が出ていた。
「…!?」
流石に俺も気味が悪いと思った。触りたくない。でも助けなきゃ…どうしよう。
「ふむ…初めて見るな」
エルンストってばめっちゃ冷静だね!エルンストは魔物を観察している。
「うんとこしょ、どっこいしょ!」
「あ、あいたたたた!?」
マリーは肉に下半身が埋まった人を引っこ抜こうとしたが、抜けなかった。
「ふにゃ~」
いや、よく触ったよね…危ないかもしれないから、とりあえずすぐ手を出すのはやめてほしい。カブだったかニンジンだったか忘れたけど、ロザリンドお姉ちゃんが話してたお話みたいにスポーンと抜けるはずないじゃないか。
肉の塊みたいな魔物はでかい翼を出して羽ばたいた。ここは最深部だからかなり部屋が広く、魔物は高い位置に浮いて男を肉の中に埋め始めた。マリーのせいで悪化したと思われる。
「いやだぁぁ!助けて!助けてぇぇ!」
男の人が泣き叫んでるけど、あの位置からじゃオルドぐらいしか……いや、オルドの投げナイフじゃあの塊はどうにもできない。エルンストの魔法も危ない。男の人を無視するなら倒せなくはないだろうけど。
「…お父さん!」
「うむ!」
ジェンドのお父さんは両手を組んで腰を落とす。ジェンドは走り、ジェンドのお父さんの手を発射台にして飛んだ。ジェンドのお父さんがジェンドをぶん投げたのだ。
「え、えええええ!?」
だが、わずかに高さが足りない。もう少しなのに…!ジェンドの爪ならあの肉の塊の羽を切り刻めただろうに…!
しかしジェンドはさらに驚愕の行動に出る。
「オルド!」
「おう!」
足りないぶん、オルドを足場にしたのだ。そして肉の塊の上に乗って羽を容赦なく切り刻む。しかし、羽はすぐ再生してしまった。しかもあのまま乗っていればジェンドも取り込まれる危険がある。
「わはははははは!!思いつきはよかったが、まだまだだな、ジェンド!こういう時は、壁を蹴るのだぞ!!落ちる前に蹴れば、上に進むのだ!」
「!?」
「わはははははは!!」
「確かに落下前に壁を蹴れば上にあがることも可能だな…あくまでも理論上は…だが…いや、しかし現実に…」
真面目な顔をしてぶつぶつ言ってるエルンスト。なんか、そういう問題じゃない気がする。普通はそんなトンデモ技できないよ?
「にゃははははははは!!」
うん、デキる子がいました。マリーも壁を垂直にのぼってるよ!危ないからよいこは真似したらダメなやつだよ!
「おお、上手いぞ、マリー!」
「にゃははははは!!」
「わはははははは!!」
「いいから、手伝えぇぇ!!」
「「あ」」
手段を楽しみすぎて目的を忘れてしまった二人は、壁をひたすら走り回ってジェンドに叱られた。お馬鹿としか言い様がない。
そして肉の塊はジェンドのお父さんにあっさり横半分に斬られた。もちろんちゃんと男の人を避けて斬っていた。
肉の塊はハーフカットされたら溶けてでろでろになった。溶けた肉まみれになったジェンドがお父さんの首に飛び蹴りをしたのは仕方ないと思う。倒せたならさっさとやれよ。
追伸・冒険者らしき男の人はやっぱり冒険者でした。下半身は溶かされたらしく裸で、ちょっと皮膚も溶けてたからエルンストが治しました。命は助かったから、下半身丸出しでも許してください。
悪いのはジェンドのお父さんです。
※どうでもいい補足。
ルーミアさん(ジェンドの実母)はオルド、ネックス、マリー、ポッチからルーミアお母さんまたはママと呼ばれてます。




