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昼休みの小戦争

 退屈なマナーやら歴史の授業が終わり、お昼になりました。昼は従者・侍女候補生達や従者・侍女にとって戦争である。


 お花見の場所取りみたいだなぁ、と以前たまたま早く授業が終わった時に思ったものだ。主が快適に過ごせる場所を確保するために、昼前は場所取り戦争となるのである。


「殿下、こちらです」


 アルディン様付きの従者さんが私達を案内する。主人達の仲が良ければ同席となるので協力するのである。大概はアルディン様の従者さんかミルフィの侍女さんが場所取りをしている。

 候補生達は授業があるからと引き受けてくれているらしい。


 今日は晴れているから屋外に席を用意してくれたようだ。適度に木陰があり、風が心地いい。すでにアルフィージ様と兄が談笑していた。


「いつもありがとうございます」


「…いえ。仕事ですから」


 てきぱきとセッティングをするミルフィの侍女…ミネアさん。クールです。


「すんません!遅れましたぁ!!」


「遅れましたぁ!」


 リリアンとリリアーナが走ってきた。いや、別に授業があるから仕方ないよ。走らない方がいいのではと言おうとしたら、長身のおば様がいきなり茂みから現れた。


「リリアン嬢、リリアーナ嬢。淑女たるものみだりに走ってはいけません!減点1!」


「ふぬああ!!」

「はうぅ…」


 二人とも肩を落とした。ちなみに、茂みから出てきたおば様はミセス・サリー。学内で最も恐れられているおば様である。減点10で罰掃除になる。


 特に、凛花がやたら怖がっている。しかしこのミセス・サリーは色々と抑止力になっているし、仕事熱心なおば様なので私はミセス・サリーは嫌いではない。むしろ仲良くしたい。


「ミセス・サリー、髪に葉っぱがついてらっしゃるわ」


「あら…ありがとう」


 穏やかに微笑むミセス・サリーは美人である。


「いつもお仕事、お疲れ様です」


「…皆貴女のようなら、(わたくし)の仕事も楽なのですけどね」


 兄が何か言いたげでした。おい、ラビーシャちゃんめ!ミセス・サリーの後ろでそれはないってリアクションすんな!一応マダム・サリーの前じゃいい子なんですから!


 そして、誰かが喧嘩する声を聞きつけたミセス・サリーは走り出した。とてもエレガントであった。


「ミセス・サリーは走ってもいいわけ?理不尽です!」


「…まあ、非常時だからね。急いで来てくれて、ありがとう」


「………はい」

「はいぃ!がんばりますぅ!」


 仕事だと考え直したのか、リリアンもてきぱきとミネアさん達を手伝い始めた。リリアーナもお茶を用意している。

 ちなみにリリアーナはセッティングを手伝うと何かしらぶちまけるため手伝い禁止といわれている。お茶は大丈夫なのが不思議だ。



「なんだこの場所は!!」


「ぐっ!?申し訳ありません…」


 貴族らしき青年が従者候補生を殴っている。あれはカーライル公爵子息だ。相変わらずいけすかない。嫌な貴族の典型みたいな奴だが、身分が高いからなかなか意見できる人間がいないのだ。

 どうやら昼食の場所がお気に召さなかったらしい。候補生なのに頑張ったと思うよ?従者候補生の青年は暴力に耐えている。止めようとしたら、颯爽とミセス・サリーが現れた。


「おやめなさい!!カーライル公爵子息!!」


 ミセス・サリーがカーライル公爵子息にくってかかるが…相手が悪いな。私はそっと加速を展開する。


「ババアは口を出すな!これは自分の従者へのしつけだ!」


 カーライル公爵子息がマダム・サリーを叩こうとしたので間に入り込み、私の扇子を叩かせた。もちろん普通の扇子ではなく、戦乙女の指輪が変形した扇子である。つまり、叩いた方が大ダメージだ。


「~っ!?」


 悶絶するカーライル公爵子息。ふっ、馬鹿め!私の前で女性に暴力をふるうとはいい度胸だ。


「嫌ですわ、無抵抗の女性に暴力をふるうだなんて!」


 大袈裟に『ああ嫌だ』とジェスチャーをする。周囲が注目してきたところで、兄にふる。


「ねえ、兄様?」


「そうだね、ロザリンド。教えを乞うべき学生が、教師を…それも無抵抗のご婦人に暴力をだなんて、カーライル公爵家の教育と人格を疑うよ」


 にこやかかつ辛辣!兄様ステキィィ!!ちなみに我が実家・ローゼンベルク家は同格の公爵だが、家格はうちが上である。父は宰相だしね!

 私はリリアンに目くばせをした。察しのいいリリアンは、ミルフィに話しかける。


「ミルフィリア様、女性に暴力をふるう男って最低ですよねー」


「!!」


 実はこのカーライル公爵子息、ミルフィが好きなのだ。ミルフィは気がついていないが、かなりわかりやすい。


「そうね、最低だわ」




 ズッコォォォォン!!という効果音が聞こえた。効果は抜群だ。カーライル公爵子息は涙目になっている。しかし、この程度で許してやる私ではない。


 この場で1番身分が高い人にパスをした。


「アルディン様はどう思います?」


「俺か?カーライル公爵子息、確かに身分の差はあるがこの学院では関係ない。ご婦人に暴力をふるうのはよくないだろう。ミセス・サリーに謝罪すべきだ」


「もうしわけ…ありませんでした……」


 めっちゃ怒りでピクピクしてるし。反省してないな。


「謝罪をお受けします。カーライル公爵子息、減点10です。放課後掃除をなさい。従者に手伝わせてはいけませんよ」


「……………誰が………」


「カーライル公爵子息?」


 まばゆい白様の浄化!


「………わかり、ました」


 力なく項垂れたカーライル公爵子息。トボトボと去っていきました。


「貴方、大丈夫?」


 殴られていた従者候補生の少年は私の手を払った。


「余計なことを!もっと殴られるのに……!」


「なら、転職を提案します。なんなら私が雇いますよ。カーライル公爵子息と同じかそれ以上の条件で」


「……は?」


「いかが?」


 凛花の従者が決まらなかったから丁度いいや。彼はたしか、従者候補生のトップランクだったはずだ。


「ただ、面倒見る相手に基礎を叩き込んでほしいのよ。貴方、優秀だからできるでしょ?」


「…かしこまりました」


 そのまま雇用契約を結ぼうとした。しかし、一応凛花の保護者に一報をと思い連絡したら、全額ジューダス様が負担することになりました。しかも、カーライル公爵家と従者君の契約変更手続きもしてくれると言ってくれた。


「ついでにカーライル公爵に、息子の悪行を報告しといてください」


 私はロザリンド。細やかな嫌がらせを忘れない。カーライル公爵は気のいいおじさんで、遅くにできた一人息子を可愛がりすぎた結果、あんなのになったらしいです。

 大好きなパパに叱られるがいいさ!我が家のパパからも抗議してもらっちゃおう!


「あの………」


 凛花の従者予定の青年は、冷や汗ダラダラである。


「さっきのは………」


「要約すると、ウルファネア国王が貴方の雇用主になりました」


 現在、ジューダス様は即位してます。白狐の獣人?のお嫁さんをもらいました。新婚です。ちなみにラヴィータはジューダス様の養子です。王子様です。


「は!?」


「貴方が面倒見るのは勇者でーす。頑張ってね」


「え、ええええええ!?」


 こうして、不幸な元カーライル公爵子息の従者候補生、ディッツ君は、凛花のお世話係にジョブチェンジしました。


「ロザリンド嬢、ありがとう」


「いえいえ、ミセス・サリーが無事で良かったです。ミセス・サリーは大切な貴族の横暴への抑止力ですから、怪我をされては困ります」


「…そうね」


 ミセス・サリーは苦笑した。身分差をものともせず、上位貴族に意見する教員は希少なのだ。


 しかし、あの馬鹿坊っちゃん達もしめてやらないとなぁ。面倒事が多すぎる。私は平穏な学生生活が欲しいです。

 どうでもいいですが、悪役令嬢の呪縛から解き放たれた今、今までで1番悪役令嬢らしい気がするロザリンドであります。

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