権力者が集まった結果
カーライル公爵子息の呪いも解決して、カーライル公爵からは大変感謝されました。
「おじ様、私のおねだりはどうなりました?」
「ああ、報酬だね?正式な書類にしておいたよ。他にあればなんでも聞こう。下手をすればわが家は潰れていたかもしれないのだから」
カーライル公爵は当人よりも呪いの恐ろしさを理解していた。
「会合の場に出てくださるよう依頼することがあるかもしれません」
「ああ、わかった。他にないかい?」
「困っていたら助けてください」
「ふふ、もちろんだよ」
お互い和やかに笑っていたら、カーライル公爵子息が飛びこんできた。
「…………ロザリンド嬢!何故そんなに父と親しげなんだ!?」
「元仕事仲間だからねぇ」
「元仕事仲間ですからねぇ」
宰相執務室でお茶をする仲でしたから。父とミルフィパパもあっさり書類を作ってくれました。次は王城ですね。
顔パスでアルフィージ様のとこに行けたのだが…それでいいのかしら。警備的にまずいのではないか。
「やあ、ロザリンド嬢」
「3公爵からの書類と、計画書になります」
「………うん。いいだろう」
「できたら今回は…」
「いいよ。ロザリンド嬢には借りがあるからね。私にも父にも、少なからず利があるし」
アルフィージ様は快く引き受けてくれた。
王城のとある一室に国王陛下、アルフィージ様、アルディン様、3公爵、ディルク、私、シルベスター魔法学園理事長、王立魔法学校の校長が集まった。
「多忙なところ、無理を言ったな」
「いえ…アルフィージ殿下のご用命とあらばどこへなりと馳せ参じます」
「ひぃああああう!?いいいえ!こちらこそお招きありがとうございましゅ!」
校長が噛んだ。高位貴族+王族に緊張したのはわかるんだけど、落ち着け。シルベスターの理事長は伯爵だけあって場馴れしている。
「さて、集まっていただいたのは他でもない。王立魔法学校の飛び級制度はご存じだろうか」
皆が頷いたのを確認してアルフィージ様は続けた。
「私も実際に利用してみたが、素晴らしい制度だった。シルベスターはしないのかね?」
「わが校は伝統を重んじておりますから」
「伝統と言えば聞こえは良いのですが、古臭いですわよね」
にこり、と微笑んで微笑んでみせた。
「何か意見があるのかな?ロザリンド嬢」
「はい、アルフィージ様。正直、授業内容はシルベスターより王立魔法学校の方が進んでいますのよ」
「は?」
「なっ!?」
校長、なんで驚くんだよ。把握しとけよ。
「例えば礼儀・マナーについてですが、シルベスターは自国のものだけですの。大半の貴族はできて当然のことをやらされるのですわ。王立魔法学校ならば習っていない庶民もおりますから仕方ないですけど…従者クラスとほぼ同じ内容を貴族クラスがやる必要はないと思いますわ」
「ぐっ…」
「さらに、王立魔法学校は他国の実践的なマナーも取り入れておりますのよ。算術、外国語も正直シルベスターよりレベルが高いですわ」
「ぐぐっ…」
「さらには、騎士団、商人、魔法院への実習もありますわ。未来の人材育成に貢献していると思いませんこと?」
「それに、平等を掲げながらも貴族クラスの生徒が従者クラスの生徒へいじめや暴力行為があります。それを黙認する教員も居ますね。爵位の問題があるから強く言えないようです」
「…そうなんですか?」
「王立魔法学校は生徒会がその辺りをシメてましたからね。実力主義でしたし、庶民の生徒会長も珍しくありません」
怒りで表情を歪めるシルベスター理事長。しかし、それでも彼は冷静だった。称賛をしたいほどに。
「…わざわざ私を…シルベスターを貶めるために呼び出したのですか?」
「いいや?そんなに私は暇ではないよ、シルベスター伯爵」
「では…」
「シルベスターは古きよき学校だ。だが、頭が固くていけない。しかし、逆に言えばシルベスターがうまく動いてくれれば他も動くとは思わないかい?」
冷たい微笑が、アルフィージ様にはよく似合う。ぞくりとする冷笑。圧倒的なカリスマ性。
「…は、い」
凡人ならば是と言う他ない威圧感。シルベスター理事長も頷かされてしまった。
「そう。なら、話は早い。しばらくシルベスターと王立魔法学校で共同経営をしてほしいんだ」
「は??」
「へ??」
「こっちでプランを組んでみたんだよ。シルベスターは王立魔法学校のやり方を学べるし騎士団や魔法院なんかとのパイプもできる。王立魔法学校はシルベスターから経営方法を学ぶ。シルベスター伯爵の経営手腕はこの私が見習いたいほどに無駄がない。従者システムも見習うべき制度だね」
「必要ありません」
「では、しかたありませんな。これを」
「これは…」
これまで沈黙をしていたカーライル公爵が封書を出した。ん?シナリオにはなかったよ??
「た……退学届け?」
封書の中身はなんとご子息の退学届けでした。私にこっそりウインクするカーライル公爵。んもう、おじ様ったらお茶目なんだから!素敵!
「残念ですな」
父も封書を出した。え?おじ様達………グル?グルなの??父もこっそりウインクしてきました。グルなんですね!父もカッコいい!
「そうですな、残念ですなぁ」
ローレル公爵も封書を出した。えええ??ローレル公爵もちゃめっ気たっぷりにウインクしてきた。ちょっと!してやられた!笑いをこらえるのが辛い!
「仕方ないな」
そして、国王陛下まで封書を出してきた。いやあ、笑顔がアルフィージ様にそっくり!国王陛下と3公爵は、悪戯が成功した悪ガキの表情。ちょいワル親父ですね!皆素敵です! 皆さんたら素敵!
「ま…まさか…」
封書を確認するシルベスター理事長。どんどん顔色が悪くなってますなぁ。いや、退学は口頭だけのはずが…ナイス小道具!
「残念だな。シルベスター伯爵、お帰りいただいて結構ですよ。急いで他の学校に打診しなくてはなりませんからね」
「うふふ、しかたありませんわね。急に王族・公爵家と私が辞めたとなったら悪評が立つでしょうが…シルベスター理事長の手腕もありますし、伝統ある学園ですもの。潰れたりしませんわよね」
「え?潰れることもあるのか?」
天然アルディン様が首をかしげた。
「い…今まさに我が校がその危機でして…我が校は国からの支援金もありますし、なんとかしのげておりますが…正直、王子殿下と公爵家の方々がお辞めになった穴は大きすぎましたし…悪評だけでなく他の貴族の方々もどんどん追いかけるように転校してしまわれて…相当厳しいことになるのは間違いないかと…」
いや、校長マジごめんね?しかし、ナイスアシスト!シルベスター理事長の顔色は真っ白だよ!
「おまち、ください………この話、お受けします」
シルベスター理事長は、敗北を認めた。そして、燃え尽きた。
「では、詳しい話をしようか。バートン夫妻は下がるといい。君達には生徒と教員としての証言が欲しかったから同席してもらったのだからね。さて、具体的な話を詰めようか。すでに施策を用意してあるから」
「「え!?」」
「では、失礼いたします」
「失礼します」
さっきのは『まったく、私主体と言いながらほとんど君がやってしまったじゃないか。後は私がやっとくから帰っていいよ』とアルフィージ様が言ったわけだ。
頑張れ、王立魔法学校校長とシルベスター理事長。
そして、やたら萎びた二人が王城で見かけられたとかなんとか…アルフィージ様はこの日に両校の共同経営を結ばせ、飛び級制度も開始期限までつけた。
アルフィージ様、超すげえ。私の人選は正解…いや、大正解でした。
権力者が集まった結果、シルベスター理事長フルボッコでした。
シルベスターは家名で、理事長は伯爵です。作中説明しなかったので一応。経営者として優れているが、教育者としては微妙なお人です。
本人は教育理念うんぬんに興味はなく、ブランドイメージを守りたいからお断りしただけだったりします。




