忘れ去られていた村
ディルクにより強制わっしょい祭りから救出された私。怖かったのでディルクにしがみついている。
「マチビト様、申し訳ありませんですじゃ……」
忘れ去られた村の村長さん……きゃわゆい。羊と山羊のハーフなんだって。設備がダメになっていくので修理できる所は頑張っていたが限界だったそうだ。
「イヤだ、ヤダヤダヤダ!!帰してよ!家に帰してええええ!!」
泣き叫ぶ羊と……狼かな?尻尾だけ狼っぽい女の子。大人達は穏やかに説得している。
「寂しいのは今だけだよ」
「他と違うからって意地悪されないよ」
「家よりずっと幸せになれるよ」
「イヤだ!パパとママがいい!そりゃ、他とちがうからってイジワルする子はいるよ!でも、パパとママも、あたしも、なんにもわるいことしてない!あたしは自分の家にいたいの!だから帰して!帰してええええ!」
「………あれは?」
口出しすべきか迷うところだが、確認した。
「ああ、連れてきたばかりの子ですな。この魔力探知機で調べて、異常に魔力が高い狂い咲きの花を村に連れてくるのです。人族寄りでない者やあるいは魔力暴走を起こしたり、複数の獣性を持つ者が多いですから。あの子もそのうち諦めるでしょう」
村の人間同士で結婚する場合もあるが、魔力が高く暴走する危険がある混血亜人を拐ってくるらしい。大概が虐待されており、最初こそ帰ると言うが数日で慣れてしまうとのこと。
しかし、あの女の子は違うだろう。毛並みもよく、暴れながらも大人達に攻撃していない。
「あの子の場合は、魔力コントロールができればよろしいのね?」
私は村長さんの返答を待たず、女の子に向かって歩き出した。確かに魔力暴走は危険だが、幼いうちにコントロールを教えてやればいいだけだ。
「マチビト様!?」
「道をあけなさい!!」
魔力を解放して一喝。あかん、やり過ぎた??平和に暮らしていたせいか、皆腰を抜かしてしまった。それでもなんとか道をあけてくれたので、内心の動揺を隠して女の子に話しかけた。
「ごきげんよう。わたくしは、ロザリンド=バートンですわ」
「………お姫様?」
「ほほほ、お姫様ではなくてよ。わたくしは侯爵夫人……貴族ですわ」
「き、貴族様」
「お名前を教えてくださいな、可愛らしいお嬢様」
「シープル、です。七歳になりました」
ふむ、ちゃんと育てられた子だ。貴族についても最低限教えられているようで、敬語を使わねばならない相手と理解している。
「シープル、貴女には魔力がある」
「ま、魔力?でもあた……わたしは獣人だ……です!」
「そうね。ああ、話しにくければ普段の言葉遣いでよくてよ。それより、貴女の中の何かが爆発しそうになったことがあるわね?ついさっきも」
「う………はい」
「それがいつか、誰かを傷つける可能性があることは理解しているわね?」
「…………はい」
「では、それをどうにかしますわよ。そうすれば、シープルを帰しても問題ありませんわね?いじめっ子はわたくしという後ろ楯があるとわかれば手出ししませんし……シープルがきちんと魔力制御できれば、その実力を認めるでしょう。シープル、貴女のやる気次第よ」
「やります!」
「よろしい」
コツさえ掴めば魔力制御は難しくない。そもそもシープルは以前魔物に襲われた時の恐怖をきっかけに魔力暴走をさせた事があったらしく、自分の力に気がついていた。そのため非常にのみこみがよく、あっという間に半獣化解除はもちろん、魔力お手玉四個と初級魔法まで半日で習得した。
「シープル、貴女には才能があるわ!」
孤児院の魔力がある子供に魔法を教えたことがあるからわかる。シープルは天才だ。他の子も魔力コントロールはできたが、魔力お手玉は良くて二個。コントロール能力だけでなく、頭もいい。
「ロザリンド様のおかげです!」
「貴女が望むなら、我が国への留学も斡旋するわ!とりあえず、これだけ出来れば問題ないわね。シープルは親元に帰します」
シープルを連れてくるのに使用したという転移装置でシープルの家に…………ん?やたらきらびやか??
「シープル!!」
「マコト様!」
「え?」
真琴に抱きしめられるシープルちゃん。ここ、おうち?どう見ても民家じゃない。
「シープル、ウルルン義姉さんが心配していたぞ?どこにいたんだ?不眠不休で泣きながら探したのに見つからないし」
「えっと……よくわかんない」
「私から説明するわ。シープルは賢いけど、よくわからないでしょう。彼女は拐われただけよ」
「え」
真琴が固まった。目をかっぴらいている。
「ロッザリンドオオオオオオ!??」
真琴がヴァルキリーの雄叫びみたいな叫び声をあげたので、とりあえずハリセンでしばいてしまった。どうやらシープルはユーフォリア王宮に住んでいたらしい。ディルクも呼んで、話をすることになりました。




