新婚探検旅行
「たんま、たんま!ロープロープ!ナニかがいるかもなのに、しない!ディルク以外に見せない!!」
「…………グルル………仕方ないな」
私の必死な訴えを聞き入れ、ディルクがやめてくれました。ヤバかった……。気をつけよう。ディルクはどんなに愛らしくても猛獣なのだから。むしろ、その愛らしさも強者ゆえの余裕なのだ。油断したら食われてしまう。
とりあえず思考を切り替えよう。そう考えてチラッとナニかがいる方を見たら………ナニかがいた。
「「……………………」」
お互いに固まる。そこに居たのは、服を着たナマケモノにしか見えなかった。
「オマエ!なんでまよわない!?」
服を着たナマケモノに指をさされた。
「今、迷子ですわ。この森の出口を知りませんか?」
「チガウ!まよう、チガウ!」
チラリとディルクにアイコンタクト。森のせいで繋がりが薄れていても、長い付き合いだから、それだけで通じた。
「ギャッ!?ナニをする!オマエ、わるいやつか!?」
「わたくしはロザリンド=バートン。世の中、そうそう良い悪いで判断できませんわよ。わたくしは普通の侯爵夫人ですわ」
「………フツーはソラからオチナイ。オマエ、フツーチガウ」
ナマケモノにディスられた。お前こそ、私のナニを知っているというのだ。ディルクは笑いをこらえているようだ。ちくせう。
「違うもん!ごくごく普通の、ちょっとお転婆な女の子だもん!」
「フツー、ソーナン、コワイ。オマエ、ずぶとすぎる。フツー、チガウ」
「いやまあ、ひとりぼっちなら心細いけど……ディルク……私の旦那様が一緒だし。不本意ながら……トラブル慣れしてるから」
慣れたくはなかったが、正直今回のトラブルは大したことな…………くもないな。外交問題に発展する前に帰るか連絡をしなければ。
なぜだか、吸引力が変わらないではなく吸引力が増す一方の侯爵夫人というフレーズが頭に浮かんだ。そんなことはない………はず。ないない。ないったらない!
「オラ、にげる!」
「あっ!?」
逃げようとしたナマケモノをディルクが捕まえようとしたが、避けた。半獣化したディルクの追撃をかわすとは……やるな、ナマケモノ(仮)!ナマケモノは森の奥へと消えていった。
「ごめん、ロザリンド。殺意はないみたいだから生け捕りにしようと思ったんだけど、捕まえたと思った瞬間………変だった」
上手く違和感を説明できない様子のディルク。ナマケモノが何かしたのだろうか。はっきりしているのは、瞬間移動したかのように、目算がずれていたそうだ。私が見た限り、ナマケモノは瞬間移動してはしていなかった。謎だ。
「うーん、なんかあのナマケモノ……見覚えがあるんだよねぇ……」
恐らくは、ゲームのイベントなのだろうが……凛と完全融合してから、記憶が遠くなっていて思い出せない。そもそも、ディルク様以外に興味がなかったのでサブイベントなんぞ詳しく覚えていない。エクストラダンジョン百階層のみならず、全ダンジョン、全イベントを丸っと暗記している凛花が変態なのだ。うん、私は普通だよね。凛花と連絡が取れればなあ……。
ディルクにも説明したら、仕方ないよねと言ってくれた。マイダーリン、優しい。好き。
「あのナマケモノの居場所は多分わかるから、行ってみようか」
よーく魔力を探ってみると、どうも幻惑系魔法がこの一帯にかかっているようだ。全異常無効の耳飾りにより無効化されていたのだろう。持ってて良かった、耳飾り!これに何度助けられただろうか。スイのお祖父様、ありがとう。
ディルクも同意したので、ナマケモノを追うことにした。
「………あっちだね」
多分ナマケモノは魔法の中心にいるだろう。またディルクに抱っこされて、中心部を目指した。
「…………うーん……」
ディルクが首をかしげて困惑している。
「どうしたの?」
「わかりやすく、罠があるんだよね」
ディルクが石を投げると、落とし穴が現れた。何故わかったのかと聞いたら、不自然に石が三つ並んでいる部分を指さした。
「仲間が引っかからないための、わかりやすい目印。そういう『わかりやすい罠』がこの先にはたくさんあるね」
「おお………」
あのナマケモノが仕掛けたのだろうか。ナマケモノというより、働き者だなあ。
「さっきの子がこれを仕掛けたんなら、仲良くなれそうかも」
「なんで?」
「昔、言わなかったっけ?俺、小説をきっかけに騎士になりたくなったんだ」
「ああ、そうだったね」
タイトルは忘れたけど、ディルクから借りたあの騎士物語は面白かった。大筋はありがちな成り上がりストーリー。立派な騎士に憧れた少年が成長し、立派な騎士になるもの。少年が憧れる、こちらのヒーローものと言えよう。私的には最初から俺強いではなく最初は弱い魔物にもワタワタするリアルさがお気に入りだった。
内容を思い出して……あ、そういう事かと納得する。あの話に出てきた罠と同じだ。
ワイヤートラップには木にキズ。落とし穴には石。小説とまったく同じ罠と目印。どれも同じなので、恐らくは小説を知っている誰かが仕掛けたのだろう。
魔法の中心に近づくにつれて、罠が増えていく。この先には、何があるのだろうか。
作者は昔、やたらと現実的な冒険者の話が好きでした。スライムにもキャーキャー慌てたり、駆け出し冒険者は金欠だったり。




