苦労人達
なんだかやたら泣いてる人がいると思ったら、うちのジャッシュだった。ゲータがオロオロしている。顔が怖いのに優しいよね。
「おじょうざまあああああ……おぎれいでずううう…………」
ジャッシュが泣きすぎてえらいこっちゃになっている。ゲータがぬぐってあげていた。顔が怖いけど優しいんだよね。そろそろお嫁さんがかまってほしそうだよ。
「ありがとう、ジャッシュ」
「お嬢様、おめでとう。この間の結婚式は大変だったな」
「……ありがとう、ゲータ。本当にね。もうさ、祝いに来たのか呪いにきたのかわかんないよね!嫌がらせだよね!!」
「まあ、うん。呪いではないだろうが……なぁ」
苦笑するゲータ。ジャッシュもゲータも、初めは敵対していた。私が一歩間違えれば、この手で殺していたかもしれない。こうして笑いあえる関係になれて良かった。
「後はジャッシュに可愛いつがいが現れてくれたらなぁ」
「は!?」
「ゲータはちゃっかり、つがいゲットしちゃったもんね~」
「ね~」
ゲータのお嫁さんのヒルダは、昔ワルーゼに預けられてた子供だった。そのため、今でも付き合いがある。とても賢いがちょっぴりお馬鹿さんなヒルダ。そこがまた、可愛いと思う。
「いや、その……すまない」
「何が?ゲータが幸せになったら、私も兄様も嬉しいよ。ヒルダ、もうすぐ赤ちゃん生まれるんだって?」
「うん!きっと可愛いモフモフを産むから、抱っこしてね」
「マジで!?絶対遊びに行くからね!めっっちゃお土産とプレゼント持っていくから!超楽しみ!!」
モフモフある所にロザリンドあり!ベビーモフモフを抱っこさせていただけるなんて、素晴らしい!!這ってでも行くよ!
二人は幸せそうに頷いてくれた。お土産とプレゼントにはお返しできる程度に加減してくれと言われたけど、聞かなかったことにした。
「ジャッシュは産まないの?」
「産みませんよ!というか、産めませんよ!!」
「あっはっは。知ってる。いや、案外魔法院が「だから産みませんし、産めません!!」
ジャッシュはからかいがいがあるよね。冗談はこのぐらいにして、ちょっぴり真面目な話をしようかな。
「ジャッシュ」
「はい?」
「一つだけお願いがあるんだけど」
「私にできることでしたら、なんなりと」
言ったな?なら、遠慮なくお願いするとしよう。私は満面の笑みを浮かべて、ジャッシュに言った。
「幸せになって」
「は?」
「だから、お願い。今の私に負けないぐらい、幸せになってよ」
いまだにグチグチ悩んでいるのを知っている。ゲータもジャッシュもよく似ている。どうしようもなくてやらかした悪事をずっと引きずり続けて、幸せから目をそらしている。
ただ、今のゲータにはヒルダがいるから大丈夫。彼女が無理矢理ゲータを幸せにしてくれるだろう。今のゲータは幸せそうだ。ジャッシュとの違いはそこ。つがいがまだ見つかっていないのもあるけど、お嬢さん達に言い寄られても、絶対に相手をしない。
「なんでも聞くって言ったじゃない!」
結婚してから接点が明らかに減った。以前の……ジャスパーだった頃に比べたら幸せなのだろう。でも、それじゃ足りないのだ。
「いや、でも……私は今、この身に余るほど幸せで………」
「それじゃ、足りない。もっともっと、幸せになってよ。私は私の道を行くんだから、いつまでも面倒を見ていられないよ?いいかげん、ちょっとぐらい自分を許してあげなよ」
休みのジャッシュは、ルランやコウ、ハクのちみっこ達にお菓子をたくさん作ったり、孤児院やウルファネアで積極的にボランティアをしている。彼はずっと自らを罰し、許さない。
「少なくとも、私はジャッシュを許したよ。もう怒ってないし……大事な従者に幸せになって欲しいと心から願っているよ。ゲータはヒルダが幸せにしてくれるだろうから安心しているけど、ジャッシュは私がいなくなったらどうなっちゃうのか不安」
何を言おうと、彼は頑なだった。今なら届くと思いたい。
「ゲータ、ジャッシュ」
父が真っ直ぐに二人を見た。
「お前達を恨むものはいない。私からも頼む。お前達は私にとって家族同然だ。大事な息子達の幸せを父が願うのも当然だろう。誰よりも幸せになりなさい。もう、自分を責めるのはやめて、己の進むべき道を目指しなさい」
「「旦那様……」」
二人が泣き出した。さすがは父。普段無口なせいか、たまに発言すると威力バツグン!しかし、もっていかれた感が半端ないわ。アルディン様事件並みの当て馬感があるよ。
けどまぁ、いっか。私と父の言葉がちゃんと届いて、大事な二人が幸せになってくれたらいいなって思うよ。




