夢のような結婚式
本来なら、一生に一度。なのに、ディルクは私を気遣ってもう一度結婚式をしようと言ってくれた。結局…本音を言ってしまえば、私が望んだ結婚式にはならなかった。
でも、仕方なかった。それだけ祝福したいといってくれる人たちがたくさんいて、それは幸せで贅沢なことなんだって理解していたから。
だけど、ディルクは気がついてくれていたんだね。
聖堂は細緻な彫刻が施されていた。計算され尽くした美しさ。ため息が出るほどの造形美。白を基調にした神聖な空間。だが、荘厳ではなくどこか温かい…小さな小屋のようなホッとする雰囲気だ。ポッチの穏やかさを形にしたら…こんな感じなのだろうか。
「ロザリンド、おめでとう!そのドレス、よく似合っているな!」
「おめでとう。ふむ…そういったドレスも似合うのだね。私の婚約者には及ばないが、よく似合っているよ」
ラビーシャちゃんは可愛いドレスが似合うものなぁ。すごく同意するよ。しかし、ラビーシャちゃんは違ったらしい。
「いくらアルフィージ様といえど、容赦しませんよ!うちのお嬢様は世界一可愛いんです!」
「……君は本当にラビーシャから愛されてるよね。羨ましいぐらいに」
苦笑するアルフィージ様に笑って答えた。
「あはは…でも、ラビーシャちゃんは私の親友で、元メイドで、家族で……一言じゃ言い表せない関係ですからね。あ、ラビーシャちゃんを泣かせたら、全力でさらって手の届かないところまで逃げますから、そのつもりで」
「そうだな。私にとっても娘のようなものだ。あまりいじめすぎないでくださいね。実家に連れ帰りますよ」
「………き、肝に命じておく」
父は真顔だった。流石のアルフィージ様も、私はともかく氷の宰相相手では分が悪かったようだ。
「ふふっ」
「………わ、笑っちゃダメですよ、お嬢様」
「……どういうことだ?」
父の表情は、相変わらず他の人に理解しにくいらしい。父はわかりにくいが笑っていたのだ。
「いや、私は本気でしたが父は冗談で言っていたんですよ。私は、本気でしたがね」
ちなみに、半分は冗談でした。父はやはり真顔で首をかしげた。
「獣人の風習を調べてまでラビーシャに求婚した青年が、ラビーシャを大事にしないはずがないだろう。冗談に決まっている。ただ、頭を冷やすために距離をとりたいならいつでもうちに来なさい。あそこはラビーシャのもう一つの家だ。ラビーシャの部屋はアルフィージ殿下と結婚してもそのままにしておく予定だ。私もラビーシャの幸せがアルフィージ殿下の側にあると理解している」
「「……………………」」
父の天然直球に悶える策略謀略大好きな二人。腹黒は天然に勝てないらしいです。
「ああ!兄上とラビーシャは仲良しだものな!ラビーシャは照れちゃうけど兄上に抱きしめられるとしあわ「ぴゅいいいい!?それはバラしたらダメです!内緒だって言ったじゃないですか!絶対絶対内緒だって言ったじゃないですかあああああ!!」
ラビーシャちゃん、アルディン様は口を塞がれているから返事ができないよ。そして背後からガッチリとアルフィージ様に捕獲された。
頑張れ、ラビーシャちゃん!
「ぐひゅ…オメデトー」
「悪いわね、カーティス」
「いや、こんな面白いアルフィージが見れるんならいいさ。ロザリンドはやっぱ変わってんなぁ。こんなちっせートコで結婚したかったわけ?」
首をかしげるカーティス。
「うーん…贅沢なら嬉しいってわけでもないんだよ。国賓とか、気を遣うじゃない?どうせなら身内だけで楽しくしたかったのよ。豪華さはいらないの」
「ああ、ナルホド。なんかわかった」
納得してくれたらしい。
「酒呑むのに、上司とかよりダチと呑みたい的な」
「大体あってる」
いやまあ、大まかにはあってるからいいや!堅苦しくないのがいいって意味では合ってる!
「今さらだけど、アタシ達まで身内扱いなわけ?」
「はぁ?カーティスはもちろん、アデイルもヒューもディルクの親友だし、私の友達でしょ?」
アデイルは何を言って……何故赤面してプルプルしているんだ。いや、よく見たらカーティスとヒューも同じ症状だ。
「そうだよな!俺もアデイルとヒューは近衛であり親友だと思っているぞ!」
「ごめん、アルディン!今その優しさと輝きはいらねぇから!」
「マジ厳しい!」
アデイルとヒューが護衛対象の優しさと輝きにより撃沈した。またしてもアデイルのオネエが剥げている。まあ、そもそも最近私達といる時はあまりオネエの皮を被ってないけど。
カーティスは赤面と痙攣から復活して、照れて悶える双子の近衛騎士を眺めつつヘラヘラしている。
「………その、私もカーティスは友人だと思っている」
「「アルフィージ様がデレた!!」」
「おま!ちょ!なんで今言うんだよ!普段絶対言わないくせに!つか、知ってるから!言わなくてもちゃんと伝わって………つうか自爆すんなよ!恥ずかしいなら言うなよ!!」
おお、カーティスが照れるって激レアじゃないか?自爆して悶えてはいるけど…やるなぁ、アルフィージ様!
「……たまには私もアルディンを見習ったんだ。大事なら、ちゃんと口にすべきだ。これでもカーティスには感謝している」
「あー、まあ…うん。俺も多分……感謝してる…と思う」
「なぁに照れてるのよ」
「そうそう。恥ずかしがるなよ~」
「……………(ニッコリ)」
双子の近衛騎士と最強の暗殺者だった近衛騎士の追いかけっこが開始された。
「行こうか、ロザリンド」
父に促され、前に進む。その先ではディルクが微笑んでいた。




