平穏には終わりませんか。そうですか。
月は小さな友人達のおかげで大丈夫そうだから、他を見て回ることにした。
クーリンが人魚と戯れる池を通りすぎる。ここでつかまるとロザリンドリサイタルを開催せねばならないので、早急に立ち去りました。
「あ、ロザリンドちゃんだぁ」
「おねーちゃ!?」
「ろじゃちゃ~!」
ハクと可愛い子供達です。彼らもモフモフ枠…なわけないですね。会場設営のお手伝いして、休憩中らしいです。
「ハク、お手伝いありがとう。ダンが向こうで焼そば作ってるよ」
「ロザリンドちゃんにしてもらったことを考えたらぁ、たりないけどねぇ。ダンさんの焼そばかぁ。じゃあ食べに行こうかなぁ」
「やち?」
「やきそばだって!」
ハクの奥さんが会釈して子供達を連れていく。子供達はコミュ力が高く、言葉が通じない子供達とも仲良くなっていた。そんな心暖まる光景を眺め、もう一つの目玉である兄の展示へ。
我が家自慢の薔薇園は、年中薔薇が咲き乱れる。兄の天啓の結果だが、季節を完全に無視している。そういえば、鈴蘭と彼岸花も本来ならば同時期に咲かない花だったんだよね。
「サボ!」
「サボ!」
サボテンさん達が敬礼してくれる。彼らは癒しであり、警備担当だ。異常があればサボテンが殺到する。先ほど、ゴミをポイ捨てしたおっさんが囲まれていた。サボテンさん達が必死にジェスチャーでポイ捨てダメと言っていたのにうるせぇと暴言を吐いたからだ。
おっさんは涙目でした。完全に自業自得。ざまぁ。
兄の薔薇園は本当に綺麗。七色の薔薇に、レースのような花びらのものや、グラデーションカラー…大輪からミニバラまで。さらに兄のセンスがいいのでベンチや柵、アーチは精緻な細工の白で統一されて別世界かのように美しい。さほど花に興味がない私ですら、ため息を吐いてしまうほどの美しさだ。
「こっ、これはあああ!ま、まさか伝説の…」
「ま、まさか…これは新種!?」
ただ、残念なことにお客様は美しさを鑑賞するというよりも兄の同類が多数なようだ。まあ、楽しみ方は人それぞれだから仕方ない。
「やあやあやあ!ルー君の庭園はスゴいねまさかあの品種まであるとは思わなかったよしかもすべてが丁寧に世話をされていて剪定も完璧だよほど腕のいい庭師さんがいるんだよねそうだよねぜひぜひお会いしたいというか紹介してくださいお願いします」
「…えっと」
あまりにもテンションが臨界突破して突き抜けていったディーゼルさんのマシンガントークにたじたじです。しかも、兄の同種(植物オタク)達が目をギラギラさせています。
「お嬢様、見に来てくださったんですか」
「と、トムじい……」
なんというタイミング!どう見ても庭師スタイルなトムじいさんに、ディーゼルさんがロックオンしてしまった。またしてもマシンガントーク。トムじいに質問攻めをしている。
「はいはい、そんなにいっぺんに言われても困ります。一個ずつ聞いてください。お嬢様、大丈夫ですから他も見てきてください」
「トムじい…」
人のいいトムじいさんはディーゼルさんの話に付き合ってあげるつもりらしい。
「……サボ」
サボテンさんが私にチョイチョイした。何故だろう。目があったら、多分通じあった。トムじいさんが困っていたらサボテンさんが助けてくれるらしい。親切なサボテンさんにお礼を言って、薔薇園を後にした。
兄主催の庭には他にも見所が。私的オススメが、芋掘りや果実の収穫体験!兄は怪訝な顔をしていましたが、農家じゃない限りできないし、取り立てもぎたては格別なのです。芋は焼きいも、果樹はジュースならその場で提供。ダンの所へ持ちこみすればシェフの気まぐれサラダやスイーツにもしてもらえる。お土産としてお持ち帰り可。ただし個数制限あり。営利目的の人に独り占めされちゃったら困るしね。
「よっ、ロザリンド」
「ハル!」
ハルは失敗して落とした時や違うとこを切っちゃった時、枝をもと通りに治したりしてくれる要員なのである!アリサもせっせとお手伝いしている。
「さっすがロザリンドの企画だよな!すげー好評だぜ!」
「ハル達のおかげもあると思うよ?」
そもそも愛想がよく親切なハル。彼は話しかけやすいし、よく気がつく。
「ばーちゃん、大丈夫か?椅子座るか?」
「そっちよりこっちが熟しててうまいぞ」
「失敗した?気にすんな。ほら、こっちは取りやすいぞ」
ちょっと見ていたのだが、本当にいい子…!他の風の精霊さん達もお手伝いしてくれてます。アリサも可愛いし、おりこうさんです。
「ほら、このフローズンアップルで作ったジュース、うまいぞ!ロザリンドに飲ませてやろうと思って取っといたんだ!」
「うちの子は天使…!」
「いや、精霊だから」
冷静なうちの毒舌ツッコミ担当スイさんがツッコミをいれた。
「ロザリンド、大変だ!」
マンドラゴラ姿だと色んな動物や兄の同類に狙われるから人間姿(もちろん服は着ている)のゴラちゃんが駆けてきた。
「ゴラちゃん?」
変態じゃないゴラちゃん…新鮮だ。そんな場合じゃないが、違和感…いやいや、これが普通なんだよね。
「来てくれ!ユグ…その、木がおかしい!」
ユグドラシルの存在をお客さん達に知られるわけにはいかない普段こそフゥーッ!な感じでアレなゴラちゃんだが、頭の回転はけして悪くない。すぐに言い直してくれた。
「…確かに、緑のマナが下がり始めている?仕方ないね…ハル」
スイの言葉に、ハルとアリサが頷く。
「任された!」
「ママ、アリサはスイの分もちゃんとお仕事するからね!」
「うん!お願いね!」
どうやら平穏には終わってくれないようです。




