究極のフルコース
お待たせしました。あのお方によるある意味無双です。
ロージィ君とヴァルキリーの活躍により、招待客の記憶が残酷なサボ天使降臨から魔法少女オッサンと露出狂の乱入&クレイジーダンスに塗り替えられた。ありがとう、ロージィ君。ありがとう、ヴァルキリー。招待客が死んだ魚みたいな瞳になっているけど、尊い犠牲と思っておこう。
「で、これからどうするの?」
「クレイジーダンスメンバーを捕縛したとこまで捏造してもらって、その後普通に指輪交換をします。披露宴会場でさらなるインパクトがあるんで、皆クレイジーダンスなんぞ些事になるはずです」
「えええ…あれが些事になるインパクトって何?怖いんですけど」
ロージィ君が思うような負のインパクトはない。いい意味でのインパクトだと思うよ。
「まぁ、悪い意味じゃないから」
「えー」
ロージィ君は納得していなかったが、披露宴会場に向かった。披露宴会場はセインティア大会議室を使わせてもらっている。そこは、もはや異様な空気に包まれていた。
「お母さん、怖い」
「あ、主は私が守ります!」
皆、取り憑かれたかのように一心不乱に食事を食べている。気持ちはわからないでもない。賛辞をする暇も惜しいのだろう。お色直しをした私達に気づいていない可能性もある。それほどまでにダンのフルコースは美味だった。ダンのご飯を比較的食べなれている私はかろうじて正気だが、それでも舌の上で蕩ける幸せな味達に顔が崩れそうだ。ナニコレ、美味しすぎる。招待客の穴という穴から光が溢れようと、ビームが出ようと虹が出ようと誰も気にしてない。だいぶ怖い。
こちらにはない『フルコース』という新しい食事形態。こちらはせいぜい前菜→スープ→メインぐらいだ。デザートを食べる習慣はあまりなく、メインも一皿が普通。ダンのフルコースは前菜→スープ→魚料理→肉料理(ロースト以外)→ソルベ→ローストの肉料理→生野菜→甘味→果物→コーヒーとちょっとした甘味である。贅を尽くした食材に、世界最高のシェフが考案した料理。最高の贅沢がここに実現していた。いくら王族貴族といえど、この料理はそうそう食べられないらしい。クリスティアの料理長さんが言ってました。なんでも一人前で小国の国家予算が吹き飛ぶとか。実質は狩ったり育てたのでタダなんだけどなぁと思っていたら、考えがダダモレだったらしく叱られた。でもご招待するからと言ったら、手のひらを返して来たよ。むしろ短期でいいから雇ってくれと土下座までされたよ。本当にバイトとして雇われちゃったよ。いいの!?この国最高の料理人、バイトとして雇われていいの!??ダンいわく、得るものが多いからいいんだそうです。いつかクリスティア王宮でラーメンパーティが開催されるかも………違和感ハンパなぁぁぁい!!
そんな感じで現実逃避したが、めっちゃおいしい。まだ前菜なんだけど、いつまでも口に入れていたい。海老の旨味が素晴らしい。食前の甘いお酒も自家製ワインも最高。あんまり呑むと酔うから少しだけ。ワインがまたこのチーズに合う!トマトとチーズって正義!花をイメージした飾り付けも見事だ。
スープはサッパリとした……お吸い物っぽかった。洋風スープ皿のお吸い物……あ、美味しすぎて気にならない。どうやら和と洋のコラボフルコースらしい。手鞠麩に可愛らしい薔薇の形の人参、大根…いや、冬瓜??どっちでもいいや、おいしいから…。披露宴には余興を用意しなかったが、正解だった。皆、歓談も忘れて料理に集中しきっている。つまり、ダンの料理が異常なんだろう。さっきまで死んだ魚のような瞳をしていた招待客の瞳が輝いてるし。
魚料理はあの…マグロだね。お刺身、カルパッチョ、ステーキの三品。さらに、お米が付いてくる。炊き込み、白米、おにぎり(塩)、雑穀、ちょっとずつ全部からチョイス。そうか…和風にしたのはこのためか!私は迷わずちょっとずつ全部をチョイスした。白米とお刺身は正義!美味!このマグロ、とろけるぅぅ!!白米と混ざって、幸せの協奏曲やあああああ!!塩にぎりがまた絶妙!炊き込みは出汁が利いてて具だくさん!雑穀もうまし!!
「ロザリンドのご飯もおいしいけど、これもおいしい……」
ディルクも蕩けてます。いや、普通車とF1カーを比較するようなもんだよ。これぞ匠の技。マグロも薔薇のようだし、刺身のツマが芸術品になってる。生魚を食べなれない人に解説して、無理なら軽く焼いてあげる親切っぷりだ。次はお肉だ。何が来るかな?ダンは私が驚くようなご飯を作りたいからと詳細なメニューは内緒にしているのです。
お肉はステーキでした。米とステーキ…最高だね!うまし!でらうまし!!肉と米がとけあって…旨味のオーケストラやああああ!!マジうまい。タレも肉も米も……最高!!
口直しのソルベはサッパリレモン風味。いきなりデザートに困惑したご様子の皆様でしたが、食べれば幸せな表情に。
そして、ロースト肉がまたうまし!肉汁滴るよ。噛まずに飲み込めそうだが噛む!うまい。うますぎるぅぅ!!
ここでアナウンスが入った。肉……幸せ……
「本来なら、次はフルーツになりますが今回は結婚式ということで特別なものをご用意させていただきました。新郎新婦は中央までお進みください」
ディルクと頷きあい、部屋の中央へ歩く。笑顔のダンが運んできたのは、立派なウェディングケーキだった。
「お嬢様が大好きな苺がたんまり入ったケーキだ。好きなだけ食べてくれ!」
「うわあああ…」
果物はなんでも好きだけど、特に苺は大好きだ。しかもダンが作ったスペシャルケーキ。美味しいに決まっている。
二人でケーキを切り分け、食べさせ合う。その意味を司会役の兄が説明してくれた。まあ、私達はすでに色々しているが、ケーキ入刀は夫婦の共同作業。食べさせ合うのは『おいしいご飯を作ります』『稼いで食べさせます』という意味がある。
そして当然ケーキは幸せな味がした。クリームが…!苺も甘くて素敵だけど、クリームとスポンジが……幸せの宝石箱やあああああ!!
なんかもう、満足した。色々と嫌なことがあったけど、全部どうでもよくなりました。ケーキおいしいです。




