ロザリンドクエスト
どこかの王族さん視点です。
肉を運搬しつつ凱旋したロザリンド様達一行。白銀の巨人騎士が大量の肉を抱えて歩くさまはシュールだが、気にならなくなってきた。さすがにもう驚くことはないだろうと思いながら眺めていた。
城下町の入り口の門に人だかりがあり…様子がおかしい。
ロザリンド様はとっさに肉を下ろし、仲間達を白銀の巨人騎士の肩に避難させた。
「肉ぅぅぅ!」
「肉よこせぇぇ!!」
「肉肉肉肉肉!!」
「のわぁぁぁぁ!?」
憐れな騎士がやられた。犯人は…犯人は……
OBATYAAAN☆
というテロップと、ファンシーな星に彩られた悪鬼のごとき女性達。もう驚くことはないないと思っていたが、どうやらウルファネア市民の一部が肉を求めて暴徒化したらしい。どーすんだ、これ!
騎士も疲弊していて抑止力にならず、肉を奪われていく。
このままウルファネアの女性達に敗北してしまうのか!?ディルク様が慌ててロザリンド様に話しかけた。
「ロザリンド!止めないの!?」
「私は女性に危害を加えたくないし、怖い。あの気迫に勝てる気がしないです」
流石のロザリンド様も、あの鬼気迫る女性達に勝てる気がしないらしい。私も無理だ。これ、どーすんだ!?
「……ロザリンドちゃん、いい知恵なぁいぃ?」
「んー?よし。思いついた。ハルー、拡声よろしく」
「おーよ!」
ロザリンド様の声が周囲に響き渡った。ハルは風の加護精霊と表示が……ん?ロザリンド様は二属性の加護持ちなのか!?す、すごいな……。
「皆様、お集まりいただきありがとうございます。我々はこれから大量の肉を運びます。腐らせてはもったいないので加工してくださるおばさまを雇いたいと思います。加工肉の2割は差し上げます。それを報酬といたします。いかがでしょうか」
女性達はこぞって肉を加工し始めた。暴動は、ロザリンド様の機転を利かせた一声で鎮圧された。
ロザリンド様達はともかく、一般市民に騎士達が敗北したとあっては今後問題となっただろう。
「あの量だし、ちょうどよかったね。サクサク運ぼう。全部はさばけないだろうから、残りは王都や近隣の村に配って肉祭だよ!」
ロザリンド様は気前よく肉をウルファネアの民に与えるつもりらしい。なんと慈愛に溢れた娘だろうか。聖女に相応しい資質である。
特にウルファネアの住人達が反応した。
「おおおおお!」
「聖女様万歳!」
「肉祭万歳!」
「肉!肉!肉!」
騒ぐウルファネア騎士達。ついていけないクリスティア騎士と冒険者達。
ウルファネアの食糧難はそんなにも深刻だったのだろうか。後で確認したら、予想以上に深刻な状態だった。あの状況で肉を気前よく与えたロザリンドが彼らに聖女と崇められるのは当然だと言えよう。
ひたすら肉を運搬するロザリンド様達。魔獣、精霊、クリスタルドラゴンに白銀の巨人騎士。皆が黙々と肉を運ぶ。ありえない光景である。
ロザリンド様はそれを眺めていたが通信魔具を取り出し、連絡した
「こちらロザリンド。困った事になりました」
「こちらアルフィージ…城門で何してるの?」
「おばちゃん達が腹ぺこの子供達を満たす為に母という名のアマゾネスと化しまして、ウルファネアの騎士が襲われました」
とても的確な状況報告だ。確かにあれは母という名のアマゾネスだった。
「ウルファネアはどうなってるんだい!?」
報告を受けたアルフィージ王子が叫んだ。本当にな。
「私もそう思います」
「す、すまない…食料難が続いたせいだろう…」
本当に申し訳なさそうなジュティエス王子。
「このままではおばちゃん達が暴徒化する(いやしてた)ので、機転をきかせておばちゃん達に肉を加工していただき、対価として肉を分けるということになっています。肉は加工して保存され、民にも肉が支給される。いいことずくめですよ!」
「……ロザリンドの頭はどうなっているんだい?それ公爵令嬢が出来る発想じゃないと思うよ?」
確かに。
「えー?そうですか?それでですね、せっかくなら野菜も欲しいんです。兄様居ません?兄様と野菜の大量生産しようかと」
「何するの?」
ロザリンド様の兄上はアルフィージ王子の近くに居たらしく、通話をかわったらしい。
「私が嫌いな野菜を多量に作ります。ハクいわく、この土地は向いてるらしいです」
「なるほど」
ロザリンド様が嫌いな野菜?わざわざ嫌いな野菜を作る意味がわからない。
「迎えにコウを行かせます。ユグドラシルで待ってますから」
「了解」
ユグドラシルのところに戻ったロザリンド様。ドラゴンの背に乗ったロザリンド様の兄上も到着した。
それぞれにロザリンドの兄・ルーベルトとロザリンドの火の加護精霊でハーフドラゴン・コウと表示が出た。もうどこにツッコミすべきかがわからん!ドラゴン精霊の加護持ち…しかも三属性!ありえない!!
どこまでが事実なんだ!?まったく判断がつかない!!
「じゃ、やりますか」
「いくよ、ヴァルキリー」
「ロッザリンドォォ!!」
名前を叫ばれるのが嫌なのか、顔をしかめるロザリンド様。魔力が増幅され、ルーベルト様がまいた種から次々に野菜が出来ていく。さらに野菜を種にして次々と増やしていく。
どれほどの魔力があれば、こんな無茶が出来るのだろうか。彼女は今でもこれができるのか?
「このぐらいでいいかなー」
見渡す限りの野菜。何もない荒野は、一気に野菜畑へと変貌した。
「ワタシタベゴロ」
「オイシイヨ」
野菜は口々に食べてと言う。しゃべって動き回っている。さっき歌って踊っていた野菜達と同じ………なの、か??
「ふっふっふ。元気に育ったね、お野菜さん達。自力で動くから運搬不要。自分で世話して育つから、ずぼらでも大丈夫!しかも収穫時も自分から教えてくれる…本当に画期的なお野菜さん達なのに…なんでロザリンドは食べられないのかなぁ」
「私は…あんなに手塩にかけて育てたプチトマトさんを、私は食べ…おいしかったけど悲しかった!!もう絶対食べないと心に誓ったんだよ!」
確かに、可愛がって育てたしゃべる野菜は食べにくい。すっかりトラウマになっているらしい。嫌いというか、食べたくない野菜なのだろう。
ロザリンド様達と野菜は行進し、城門に戻ったら大人気だった。ウルファネアの女性達は満面の笑顔で加工した肉と野菜を持って去った。野菜達は網に入れられながらも嬉しげに「ワタシオイシイヨ」と言っていた。何故だか悲しかった。私もあの野菜達は食べたくない。
ようやくロザリンド様は今度こそ城へ帰還したのだった。
「皆さん、今日は肉祭です!肉汁したたらせますよ!!」
「にーく!にーく!」
「肉ぅぅぅ!」
「お肉肉肉、お肉肉!合わせて肉肉、お肉肉!!」
「…ウルファネアは大丈夫なのか?」
「さあ…」
相変わらずテンションが高すぎるウルファネア騎士(肉フィーバー中)と、ついていけないクリスティア騎士&冒険者の温度差が印象的だった。
これ、大半が作り話なんだと思いたい。私はもう、何かの物語なんだと思うことにした。
それにしては実在するしゃべる野菜やらお祝いに来るクリスタルドラゴンの群れやら、ありえないものをしこたま見ているし、どこまで事実かがとてつもなく気になるがな!!




