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シャムキャッツのマチビト様

 本来ならば、私は王にならぬはずであった。たくましく少し抜けてはいるが決断力がある兄が王となり、その王の補佐として一生を捧げるつもりであった。





 だが、現実は違った。




 兄があの謎の病にかかり、王妃も同じ病にかかった。王妃は兄の従妹で、王族の血をひいていたからだ。

 私は望まぬ王座につくはめになってしまった。


 さらに状況は悪化する。続く戦争、不作、それによる内乱……国が疲弊するのをどうにかしようと奔走する日々。

 そんな中、正当後継者のマリーアントが病気を緩和させる神器を持って失踪。さらに、我が子までもが発病し、隔離せざるをえなくなった。


 もう、終わりにしたかった。仮にシヴェリハスを制圧しても、私の苦しみは終わらない。もう、どうでもいい。私の胸にも病の兆候が現れていた。もうすぐ、私も妻子の元へ行けるだろう。

 シヴェリハスの王子から来た親書を破り捨てた。






 そして、マチビト様は全てを破壊し、浄化した。マチビト様とは、この国の建国者の一人である聖女コトハ様が遺したとされる予言の巫女姫だ。


 シヴェリハスの王子はマチビト様の弟らしいが、似ていないので義理の姉弟なのだろう。もはや抗う理由はない。私はマチビト様に従うだけだ。


 そう考えていたら、最後に会った時よりも元気そうな兄に再会できた。最初は別人かと思うほど見違えていた。マチビト様の御力によるものらしい。筋肉がすごい。さらに私の子らも筋肉でムチムチしていたが元気になり、毛並みも、以前と同じく純白になっていた。


 これで、ようやく幸せになれる……そう思った矢先に大海嘯だ。この国は滅ぶだろうが、せめて子供達だけでも逃がさねばならない。幸いシヴェリハスの王子ならば子供達を無下に扱うまい。


 私が死んだとしても、子供や民を護らねばならない。それは初めて私の意思で決めたこと。義務感や流されるがままに生きてきた、私が初めて己の意思で選択をした。


 傍らで共に戦いに出ようと準備をする兵士達。逃げようとするものは居なかった。


「この国は滅ぶ…だが、我らがそれぞれの大切なものを護り、逃がすために力を貸してほしい!」


「今こそ、我らが力を示すときだ!!」


 兄も私の言葉に同意し兵を鼓舞してくれた。

 兵士達が皆頷いた。士気は低くない。これならば子供達を逃がす時間を稼げるだろう。

 そう安堵しかけた時、伝令兵が駆け込んできた。


「陛下!大変です!!」


 もう何が来ようが驚かない…と思っていたが、兵が指さしたモノを見て固まってしまった。


「………………え?」


 ムチムチに太った巨人が空を飛んでいた。脛毛と股間から察するに、男性らしいが白を基調とした桃色の愛らしい服を着ていた。








 ナニアレ。








 そして、私達は謎の黄色い煙に包まれ気絶した。ここ最近、ろくに寝ていなかったせいもあるだろう。目を覚ましたら、シャムキャッツは救われていた。






 マチビト様がほとんどお独りで倒してしまわれたのだという。







 確かに助力してくれるって言ってたけど、マジか!私の覚悟は不必要なものだったらしい。


「とーさま!」

「お肉にゃ!」


 子供達が串焼きを持ってきた。どこから?と思ったら、それもマチビト様らしい。彼女は倒した魔物の肉を無償で提供し、肉祭りなる催しを開催したそうだ。理解が追いつかないが、久しぶりに晴れやかな笑顔の民や楽しげな喧騒を耳にして…どうでもよくなった。


 シャムキャッツは色々な意味でマチビト様に救われたのだ。感謝などでは言い表せない。ウルファネアで聖女と呼ばれたのも頷ける。

 凄まじい力を持ち、その慈愛で民を癒す。正しく聖女だ。




「陛下!マチビト様がいらっしゃいました」


「すぐ向かおう」


 我らの救い主であるマチビト様を待たせるわけにはいかぬ。私は早足でマチビト様が待つ謁見の間に向かった。



 マチビト様は、本当に人間なのだろうか。清らかすぎやしないか。



「あの~、お話聞いてます?」


「ああ。シャムキャッツはマチビト様に救われたのだ。マチビト様がおっしゃるならば、私はこの首を差し出してもかまいませぬ」


「ノーグロ!ノースプラッタ!責任者の首を獲ってどうなります!?責任者にアドバイスして自治してもらう方が確実ですから!!」


 他国の事であるのにもかかわらず、マチビト様は孤児の救済政策案まで持ってきてくれた。正直私では現状維持までしか出来なかったが、この政策ならばスラムの治安もよくなるだろう。

 さらに、マチビト様はこの政策案をのむなら個人的支援まで約束してくださるという。私はマチビト様に涙を流して礼を言ったが、マチビト様のスゴさは、これだけではなかった。本当に人間なのだろうか。




 荒れ地だった大地が、瞬く間に緑に覆われ、甦っていく。シャムキャッツが甦るかのようだ。久しぶりに緑を、花を目にした。人々は歓声を………んん?なにやら悲鳴が??


「ワダシダベゴロヨォォォ!!」

「オイジイヨォォォ!!」






 巨大な野菜が……襲いかかろうと………いや、待て!もしや、あの野菜達は…!サイズこそ違うが、野菜達に見覚えがあった。


「皆、恐れるな!あれこそマチビト様の恵み!ありがたくいただくのだ!!」


 野菜達は嬉しそうに微笑んで横たわった。それを解体する民達。


「ニモノオススメヨ。さらだモオイシイヨ」


 調理法まで教えてくれるとは、なんと親切なのだろうか!我らは聖女様による恵みを調理した。

 新鮮な野菜達は魚を好む私でさえも美味と感じた。こんなに美味な野菜は初めて食べた。






「え、えええええ…」


 聖女様御一行が帰還された。何やら驚いているようだ。


「聖女様!シャムキャッツの郷土料理はいかがですかな?聖女様の恵みである野菜、ありがたく頂戴いたしました」


 シェフが腕を振るった郷土料理のおでんは絶品だ。シャムキャッツ特産のコニャクをふんだんに使い、聖女様の恵みである大根、ニンジン、ゴボウをよく煮込んでいる。

 聖女様は何故か遠くを見据えると、美しい笑顔を見せてくれた。


「お野菜は兄からのプレゼントになります。私ではありません。偉大なる我が兄、ルーベルト=ローゼンベルクによる偉業です」


「なっ!?」


「さあ皆!ルーベルト…いえ、ルー様を讃えるのです!!」


『ルー様!』

『ルー様!!』

『ルー様ぁぁぁぁ!!』


 人々は笑顔で二人のマチビト様を讃え、胴上げした。


 そして、二人はシャムキャッツの救世主として歴史に名を残し、伝説となったのだった。

 何故でしょうか。なんでじゃあああああ!と叫ぶロザリンドが頭に浮かびました。仕方ないと思うの。

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