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無言の戦い

 奴らとの戦いは、まだ終わっていない。奴らの大半は駆除できたが、卵が残っていればまた繁殖する可能性があるのだ。





 モフモフの敵、その名は毛ジラミである。






 奴らの卵は手作業で取らねばならない。そしてその前に…やらねばならない事がある。


「私には…私にはできないよ!」


 それがモフモフのためなのはわかっている。モフモフからモフモフへ感染する悪魔の虫…シラミ。正直こっちのは体長ニセンチででかくてキモい。この世からぜひ根絶してやりたい虫である。蚊と同じく感染媒体となる危険がある危険生物、シラミ。


 それはあまりにも残酷な現実だった。愛するモフモフを守るため、モフモフを犠牲にせねばならぬのだ。

 モフモフを不毛の大地にするなんて、そんな酷いことできない!しかし、成虫を駆除したってまた卵からシラミが出てくる。それでは意味がない。いたちごっこだ。毛を刈れば、シラミは住めないし卵も取りやすくなるし、生き残った倒しこぼしも除去できる。

 だが、私はモフモフを刈るなんて……


「じゃ、自分がやるッス」

「マリーも!」

「…………(こくり)」

「ロザリンドは櫛ですいて」

「まあ、仕方ないよね…」

「大丈夫、こわくないからね~」


「なんでそんな、皆してためらいがないかなぁ!?」


「モフモフは好きッスけど、モフェチじゃねッスから」

「かゆいのかわいそーにゃ!」

「………(うんうん)」

「仕方ないよ、痒い方がかわいそうだよ」

「感染の危険もあるしね」

「そうなの!?じゃあ、早く刈ってあげようよ!」


 そして、私以外がモフモフの毛をためらいなく刈った。


「ぬああああああああ!!」

「ロザリンド、うるさい」


 兄に叩かれた。仕方ないのだ。理解している。確実にシラミを駆除しようと思ったら、毛を刈るのが早いのは確かだ。


 だが、モフモフが一時的とはいえ失われるのは辛い。


「丸刈リータじゃなく、ちょい長めがいいらしいッスよ」


「…このぐらい?」


 根本から1センチぐらいで刈られたモフモフ…。こういうぬいぐるみありそう。そっと触れてみる……






 ありだな!!






 多少毛が短いが、痒みに苦しむよりいいだろう。短く刈られた毛を、目の細い櫛でひたすらとく。


「わ………」


 こうすると、卵がとれるのだ。幸いというか、日本のよりでかいから見つけやすい。さらに短く刈られたために見つけやすく、除去の難易度はさらに下がる。


 全員が無言で丸刈りにされたモフモフの虫卵を取る。無言の戦いである。


 子供達は私たちが無言で戦っているため、ビビりながらも大人しくしている。








 そして、ついに戦いは終わった。悪しき虫の卵は、すべてなくなったのである。


「で、この子達はどうするつもりなの?」


「!??」


 子供達がびくりとする。なんか、人買いに売られるんじゃないかとか言われてる。しませんよ。


「ん~、先ずは意思を確認してからかな。はじめまして。わたくしはロザリンド=バートン。遠いクリスティアより参りました。わたくしは貴方達を保護したいと考えております。衣食住は保証いたしますわ」


「…対価は?」


 リーダー格と思われる子が、期待と疑心を隠さずに私に話しかけた。


「貴方達と似た境遇の子を助けること」


「…あんたにメリット、ないじゃん」


「いえいえ、ありますわ。本音と建前、どっちが聞きたいかしら」


 リーダー格と思われる子はキョトンとしたが、本音でと言った。


「わたくしは…いえ、私はモフモフが大好きです。眺めるだけでも私に幸せを与えてくれるモフモフが虐げられ、毛並みもボサボサだなんて耐えられません。この世の…せめてわたくしの目の前にいるモフモフを救いたい!…というのが本音です」


「へ?」


「建前は、慈善事業ですわ。そもそも、あなた方が不当な扱いを受けるのは、社会構造が悪いからです。親がなくとも子が健やかに育つ仕組みを作るべきなのです!それをしないから治安が悪化するし、民が貧困や飢えに苦しむのですわ!貴族として産まれたならば、民を守るのが仕事なのです!」


「……どっちも本音なんじゃねぇの?」


 リーダー格の少年が苦笑した。ちょっと考えてみたが…本音といえば本音なのかもしれない。


「まぁ、どっちも本音ではありますが、前者は私情と私の性癖がほとんどです。後者も多少の私情はありますが、貴族の責務ですからねぇ。最近はそこを忘れるおバカさんをシメるのもお仕事だと思ってます」


 少年は手を差し出した。握手かな?と思って手を握ったら肉球があった。ご褒美ありがとうございます!


「小汚ない俺たちに、ためらわないのな」


「さっき洗ってたでしょうに」


 少年は頷いた。


「あんたを信じる。あんたなら、こいつらに酷いことをしないだろう」


「もちろんです。可愛いモフモフを虐めるバカを虐めるために生きてますから!」


 私は真顔で言い切った。なんか背後で笑ってる奴がいるけど、気にしないんだから!


 彼らはとりあえず実家で暮らしてもらい、シャムキャッツの制度が整ったら帰国してもらうかも、と話した。


「…借りは返す。何かできることはないか?」


「じゃあ遠慮なく。他にも孤児がいるよね?できるだけ集めてほしい。あと、シラミ取りやっといて」


 遠慮はしません。使えるものはなんでも使います。


「正直やりたくないですが、シャムキャッツの国王陛下に今後も含めた話をしに行きましょう」


 こうして、お城に戻ることになりました。

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