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肉祭りと弱者達

 大暴れしたら落ち着いた私。やりすぎだと兄に叱られました。


 いいじゃないか!当ててないし、そもそもディルクなんて当てるのも難しい。抉れた地面なんかは後で直すし!死傷者ゼロという奇跡的数字をはじきだしたんだからいいじゃないか!と珍しく反論したら納得された。誰かが死ぬよりはいいでしょ!今回の私は間違ってないもんね!!ちゃーんと味方は避けて攻撃してたもんね!!


 とりあえず、血抜きした新鮮な肉をヴァルキリーとロージィで運ぶ。まだ血抜きしてない奴はシャムキャッツの奥さん達に処理していただこうっと。


「皆さん、肉ですよ!肉食べ放題です!早急に調理してください!!」


 すでに城門前には肉に目が眩んだ奥さまがたくさんいた。奪うように肉を手に取り次々と加工していく。


「二割貰っていいですか!?」

「え!?貰えるの!??」


 ウルファネア出身のおば様達はもう慣れたものだ。


「二割は加工代です!代わりに塩や調味料代は自己負担でお願いします!」


『は~い!!』


 おば様達は、やる気です。運び込んだ魔物がすぐに肉に変えられていく。

 商魂たくましい多分ウルファネアの商人が、スパイスを売っている。

 おば様達に混ざって、城の兵士や冒険者も血抜きをしていた。


「もーちょい運ぼうか」


「そうだね」


 ディルクと相談して、凍らせた肉の一部も持ってきた。それなりの規模だったから、肉もたくさんだ。


 加工された肉は、すぐに焼かれて皆にふるまわれた。ウルファネア出身の人達が、すでにかまどを作っていたらしい。順応性が凄まじいな。


「ロザリンドを『肉の聖女』って呼ぶのはウルファネア王都周辺の人達だよね」


「はい?」


「北は女神様で、西は神子様、東は救世主様って呼ぶんだよね」


「ウルファネアの人は、好きに呼びすぎですよね…」


 否定も肯定もせず、目をそらした。普通に呼んでいただきたい。


「ぶふっ!称号がえらいこっちゃッスね。今や『世界を救った勇者様』ッスし」


 無言で凛花にシャイニングウィザードをかました。


「ギャロップゥ!?」


「お前も勇者様だろうが!私だけに押しつけるんじゃない!!」


 転がりつつ、治癒したらしくほぼノーダメージな凛花。


「自分はロザリンドちゃんほど有名じゃないッスもん!むしろ自分はラヴィータ君の勇者ッス!」


「くっ…私はどうしたら……」


 最近は有名にならないよう頑張ってたのに!どうしたら知名度が下がるのだろうか……。


『諦めたら?』


 全員でハモった。味方がいない!しかし、私は負けない!世の不条理に立ち向かうのです!!


「諦めたら試合終了なんです!!諦めないんだからぁぁ!!」


 私の叫びがシャムキャッツの空に、虚しくこだました。



 肉祭りとなったシャムキャッツの城下町は、皆楽しそうにしている。


「あ、あの…おれたちも、食べていいにゃ?」


 孤児なのだろうか。服も汚く、ひどい臭いがする。浄化をかけてあげて肉料理をひとつもらい、皿がわりの葉っぱに乗せて少年に渡した。


「あ、ありがとにゃ!」


 少年は嬉しそうに皿を持って走り去ろうとした。


「食べていかないの?」


「弟と妹に食べさせるのにゃ!動けないから、おれが運ぶのにゃ!」


「兄様……」


 すがるように兄を見ると、頷いてくれた。


「僕は医者なんだ。今日はお祭りだから特別にタダで診てあげる」


 医師免許もあるので嘘ではない。本業は薬草学者だが、たまにゲータのボランティアを手伝ったりもしている。


「本当にゃ!?お願いしますにゃ!」






 少年の住みかは、酷いものだった。聞けば、彼らはやはり孤児だった。朽ちた建物で雨風を凌ぎ、年長の少年達の盗みでどうにか食いつないでいたという。弱った子モフモフに話しかける少年は優しい。


「ほら、食え。肉だぞ」


「みゅう…」

「にーに、たべるにゃ…みゅ~はもうだめにゃ…」


 痩せ細った弟はお肉をかじったが、痩せ細った妹は兄にお肉を譲ろうとした。そもそも、本当に衰弱していて噛む力もなさそうだ。


「そんなことない!兄ちゃん、お医者さんを連れてきたんだ!だから、ミューはよくなる!ファーもだ!」


「こんにちは。ちょっと診させてね」


 シラミが頭にたかり、傷が膿み蛆までわいていたが、兄は少し顔をしかめただけだった。浄化をかけて、静かに診察していく。


「一番深刻なのは栄養失調だね。傷は少し魔法を使えばなんとかなりそう。虫は薬を使えば大丈夫。シラミは君にも居そうだね。ロザリンド~」


「は~い」


 またしても虹色に輝く謎粥だが、兄は何も言わなかった。かなり深刻な状態のようだ。魔力を探ると、涸渇寸前だとわかる。


「ふー、ふー、あ~ん」


 自力で食べられるかも怪しいので食べさせてあげようとしたが、子猫は固まっている。


「えい」


 口は開いていたので粥を入れてやった。


「もぐ…おいちいのにゃ!おねちゃ、弟にも分けてほちいのにゃ!」


「大丈夫、大丈夫」


 弟君はマイダーリンが介助中。他の弱った子達にも、凛花やマリーも自主的に手伝っている。兄は次々と子供達を診察していく。


 全員がほぼ深刻な栄養失調という診断だった。


「よし、ロザリンドのとんでもない粥で栄養失調が改善されたみたいだね。ロザリンド、治癒魔法」


 かなり明らかに落とされているが、そんな些事より弱ったモフモフの怪我を治すのが先決です!


「あいあいさ!ヴァルキリー、杖モード!」


 杖で魔力を増幅し、治癒魔法を広範囲に展開する。柔らかな光が辺りを照らし、周囲を癒していく。


「ぬおお!ギックリ腰が治ったぞ!」

「走るなジジイ!またギックリ腰になるぞ!?」


 関係ないヒトも癒したみたいだが…別に問題ないよね!蛆は傷が治ったら押し出されたらしい。よかった……。


「つか、あんなスゲー攻撃かましといてまだまだ余力があるとか、バケモンッス」


「ん?」


「すんませんッス!ギブッス!!」


 腕ひしぎ十字固め!耐えれば折れる恐怖技である!!


「ギブギブギブギブ!!」

※まったく耐えてません。


「ロザリンド、子供達が怯えてるからやめなさい」


「あ」


 めっちゃビビられている。可愛いモフモフを脅かしてしまうなんて、ロザリンド一生の不覚!!


 しかし、これからどちらにせよ私はモフモフが嫌がることをしなくてはならない。仕方ないのだ。これもモフモフのためなのだ。私は心を鬼にして、千手観音モードを発動した。


「モフモフに巣くうノミもシラミも、私のシャンプーで滅してくれるわああああ!!」


「いにゃああああああ!?」

「たすけてにゃああああ!!」

「こわいにゃああああ!!」


「はーい、逃げないよ~。一度やってもらうとまったく怖くないからね~。目をあけたらしみるからだめだよ~」


 ディルクが逃げ惑うにゃんこ達を捕獲して私にパスする。にゃんこをキャッチした私は、たらいで次々と開発したノミ・シラミ取りシャンプーで丸洗いしていく。暴れて引っ掻こうと、千手観音の手か凛花により防御力が強化された手だから平気。


「ふにゃ~」

「みゃ~」

「うにゅ~」


 そして、シラミとノミを駆除され放心したにゃんこ達は兄達により乾かされてフワモフへと生まれ変わったのだった。警戒してもふらせてくれないが、にゃんこはそこも醍醐味…ぜったい仲良くなってモフモフしちゃうんだからね!

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