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白猫のお姫様

 見覚えがある小娘が覆面を外した。私を『おじさま』と呼べるのは、この世でただ一人だ。


「マリーアント…」


 そう、シャムキャッツのワネット王家、最後の正当な王位継承者。神器に選ばれながら姿を消した姫君であり、我が姪。


「違うよ。マリーはマリーだよ」


 いや、明らかにマリーアントだろうが。相変わらず話が通じない奴だ。


「…神器はどうした」


 マリーアントがあからさまに目をそらした。これはこの馬鹿姪が何かをやらかした時に見せる表情だ。嫌な予感しかしないが、もう一度確認した。


「マリーアント、神器はどうした?」


「………こうにゃりました」


 マリーアントが机に置いたのは、どう贔屓目に見ても神器ではない。棒に取っ手がついた……これは何に使用するものなのだろうか。


「…風鈴、あるべき姿に」


 柔らかな光と共に、それは神器に変わった。


「…まさか、食べられちゃったの?」


 この変態狂王子は何をぬかしているのか。喰われた?神器は食せるようなモノではない。

 しかし、男装した美女が滝のように汗を流している。何か心当たりがあるのだろうか。その美女を変態狂王子と仲間の変態その2が見つめている。うちの将軍だったはずの男も私と同じく理解不能であるようで首をかしげていた。


「違うよ。食べちゃったのにゃ。神器が風鈴(ぶき)にヤキモチこんがりしちゃったのにゃ~」


「え」




 神器が、武器を、食べた??




「セェェフ!私のせいではなかったぁぁ!!」


「「……………」」


 この美女の周囲では、そのような珍妙不可思議かつ奇っ怪な現象がこの美女のせいで起きるというのだろうか。私と元将軍は胡乱な瞳で美女を見た。


「ツヨシが通訳してくれたよ。なんでも『自分を差し置いて主に大事に手入れされるなど、許せない!』と思った結果、同化すれば同じく手入れしてもらえると思ったみたい」


「しょーもにゃいにゃあ」


 神器?が青くなった。本当に神器に意思があるというのか?


「そもそもマリーは自分から城出したんだよ。おーいけーしょーけんなんてジャマなだけにゃのにマリーを選ぶとか、意味プーにゃん!」


 神器が更に青を通り過ぎて藍色になった。


「仕方ないだろう。その神器は女装が似合う可愛い男か清らかな乙女しか選ばぬ」



『……………………………』



 マリーアントは幼かったゆえ知らされていなかったのだろう。


「……ネックス、ちょっとマリーとこう「待って待って待って!マリーがネックスを大好きなのは知ってるけど、色々すっ飛ばし過ぎだから!!」


 変態狂王子は、貞操観念はマトモだったらしい。手近な男に多分処女を処分させようとしたマリーアントを慌てて止めていた。誘われた相手は固まっている。覆面をしているため表情はわからない。


 神器が黒くなって床に水たまりを作っている。泣いている…のか?神器が使用者を自ら選定するのは知っていたが、このように色が変わったり涙?汁?が出るなど聞いたことがない。

 神器の本来の姿は鈴。その涼やかな音色で悪しきモノを祓うのだ。


「…マリーアント、姫」


「だから、マリーはマリーにゃの!」


「マリー、姫」


「姫はいらにゃいけど、なーに?」


「私と…貴女の両親…我ら一族を救ってはくれまいか」


 私の身にもあの変態狂王子が見せた刻印が刻まれている。変態狂王子の言葉を信じるならば、マリーアント…マリーは私達を救えるはずだ。


「その前に、一言いいかな?」


 男装した美女が挙手した。そういえば、この美女は何者なのだろうか。


「そこに転がってる人たち、どう見ても暗殺者だよね?私の可愛い(ポッチ)に何しようとした?」


 目の前にいるのは華奢で美しい、武器も持っていない美しい女。なのに、この威圧感はどうだ。呼吸すらもままならず、本能的に逃げ出したくてたまらない。


「まあ、力ずくでお城に来たし仕方ないよ」


 変態狂王子は何故平然としていられる?眼前にたつ美しい化け物を当たり前のように受け入れている。


「それにしても、鈴ねぇ。日本でも鬼…んと、悪いものは綺麗なモノを嫌うとされていたから神事で使われていたんだよ…こんな風に」


 鈴を手に取り、美女はゆったりと踊った。皆は見蕩れていたようだが、私は違った。


「何故だ!何故貴様はシャムキャッツの王族しか知らぬはずのカグラとハライノホウを知っているのだ!」


「え?」


 シャムキャッツの正当な王位継承者に伝えられる躍り…私は代行者として特例で学んだが……何故なのだ!


「お姉ちゃん、なんか鈴さんが『まさか待ち人様ですか?』って言ってるよ」


「そういや、この鈴って魔王退治後に作られた魔を祓うためのアイテムってこと?つまり、こと姉ちゃんの作品……」


 マチビト?それは、まさか………本当に現れたのか。


「姫君の名は…いや、貴女様のお名前は、ワタセ=リン様でいらっしゃいますか?」


 美女は驚いた様子で固まっていた。


「お待ちしておりました…我らが真の主様!!」


 私は歓喜にうち震え、涙を流して跪いた。


「ちょ……え、ええええええええええええええ!??」


「…もしや、最初からお姉ちゃんが出れば丸くおさまったにゃん?」

「…それは言わないお約束?」

「…なんちゃって?」


 姪と変態狂王子と変態その2がそれぞれ首をかしげていたが、それどころではない!!


「かような場所にマチビト様を、申し訳ございませぬ!!すぐに茶と…ええい、誰か!誰かおらぬかあああああ!!?」


 私はマチビト様をもてなす為に走り出したのだった。

 結論・最初からロザリンドが出てたらすぐ終わっていた。

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