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狂った王子と愉快すぎる仲間達

 シャムキャッツ国王視点になります。

「はじめまして。僕はポッチです。話し合いをしましょう」


 あくまでも穏やかな笑顔で目の前の純朴そうな狂人は話しかけてきた。ポッチという名は…確か第一王子の愛称だったはず。元国王に瓜二つだ。

 睨み続けていてもしかたがない。我々は敗北した。だが、ただでは負けぬ。


「その死者達を下げてくれ。見ての通り私は丸腰であるし、他に…生きた人間はおらん」


「わかりました」


 死者達は狂人の指示に従い、部屋の隅へと移動した。


「さて、話し合いをしましょうか」


 できれば部屋の外に行ってほしかったが、そううまくはいかなかった。ならば誘い込めばよいかと考える。


「よかろう。立ち話…というわけにもいくまい。こちらへ」


 玉座の間に繋がる応接室に案内し、座るよう促す。平民の出だと聞いていたが、狂王子の所作は完璧だった。裕福な平民だったのかもしれない。


「あいにくと、使用人も逃げたので茶は出せぬ。して、話とは?」


 恐らくは屋根裏にまだ『影』達がいるはずだ。そう、ただでは死なぬ。この狂王子を道連れにしてやる。あの死者達が暴走してこの身を喰われようとも、私はこの男に一矢報いるのだ。


「僕らの国の成り立ちを御存知ですか?」


 成り立ち?そんなものはどうでもいいが、狂王子の意識をこちらに集中させる必要がある。


「…確か、シヴェリハスの姫が我らの祖を見初めて逃げたのが始まりだ」


「…多少詳細の齟齬はありますが、概ね同じですね」


「それが、何だと?」


「これに見覚えは?」


 狂王子が差し出したのは……!


「貴様の仕業だったのか!」


 私は激昂して隠していたナイフで狂王子に斬りかかった。


「うわわ?へ、変身!」


 ナイフを避け……狂王子は変態…じゃなかった、変身??した??


「ウルファネアボーイ6号!!」







 どちらさまですか?








 人はわけのわからなすぎるモノを見ると、完全に思考停止に陥るらしい。そして私も完全に思考停止した。


「………は?」


「え、えっと…とりあえず僕のせいではないので話を聞いてもらっても?」


「…………ああ」


 中身はやはり狂王子で間違いないらしい。目の前には覆面全身タイツにベルトとブーツをまとった、がたいのいい男。間抜けというか、奇妙奇天烈な姿にすっかり毒気を抜かれたので、ナイフをしまって席につく。こいつやっぱり頭がおかしいと確信した。

 しかし頭がおかしいのは外見だけで、服は私のナイフをはじいた。見た目こそ完全に道化だが、油断はできない。

 冷静になって目の前の変態狂王子を見て思う。





 失敗した。





 顔が完全に覆われているから、表情が見えない。駆け引きする上でとても不利だ。


「…で?」


 やってしまったものは仕方ない。攻撃してしまった以上、武装を解除しろとも言えない。まだ武器も持っているし、こちらも武装解除するつもりはない。

 話の続きを促すと、変態狂王子は話し始めた。


 要約すると、変態狂王子が見せた魔法陣は『魔』とやらで以前勇者が倒した邪神の欠片である。シヴェリハス王家がその地の邪神の欠片を吸い上げ、我らが本来ならばそれを祓う役目をもっていた。

 その祓いの儀式については心当たりがあったが、あくまでも聞き役に徹した。どちらにせよ、現在は不可能だからだ。


「で?お優しい王子殿下は我らにどうせよと?」


 どうせ我が国は地図から消失する。私たちも処刑されるだろう。私たちに祓う力はない。生きていても邪魔なだけだ。


「なにもしないで欲しいんです」


「………………………は?」


「いや、できたら友好条約とかしたいのですが、無理だとわかってます。ただ、せめてこれ以上魔を活性化させたくないんです」


 『魔』とやらの餌は負の感情で、戦争続きの現状では状況悪化の一途だという。そこは理解できる。


「我らの負けは明白だ。何故私の首を取らぬ!情けのつもりか!?」


 我らではシヴェリハスに敵わぬと!飼い殺すつもりなのか!?それとも、羽虫と同じで価値がないと!?私は怒り狂った。とんでもない侮辱だ!!


「何故、首を取る必要があるんです?」


「………………は?」


 私にはこの狂王子の考えが理解できない。


「僕は貴方と話をするために来ました。死んだら話はできません」


「…………………」


 それはまあ…そうだろう。いや、死体人形にすれば……そういえばあれらは意味ある言葉を語っていなかった。そこまでの知能はないのかもしれない。


「話し合いを断られましたので、話さざるをえない状況にしようと思った結果が今回です。シャムキャッツを支配するつもりはありませんよ。僕の大事な女の子の家族を殺すつもりもありません」


 女……?まさか!現在生存している王族で、唯一行方不明になっているのは…!可能性を思いついた瞬間に『影』を縛り上げて担ぐ覆面の男女が天井から降ってきた。


「にゃっふー!おじ様、お久しぶり!ウルファネアガール、参上!!」


「あ、お久しぶりです…ウルファネアボーイ5号、さんじょ~」


「ウルファネアコマンダー参上!!」


「「勝利を我が手に!ウルファネア戦隊・ロザリンジャー!!」」


 男女はビシッとポーズを決めた。なにこれ。二人が変態狂王子とお揃いで、一人は男装した美女だ。

 そして、遅れてもう一人降りてきた。


「あ、すいません」


 そいつだけは見覚えがある男だった。変な格好もしていないし、覆面もなかった。

 しかし今は心底どうでもいい。多少聞きたいことはあるが、心底どうでもいい。





「…………どちら様ですか?」







 展開が急過ぎて、本気で頭が働かん。いきなり現れたどう見ても変態狂王子の同類達にそう返すだけで精一杯だった。あの女の片方、私の身内だったりしないよな!??


「どちら様ですかと聞かれたら!」


「答えてあげるが世のにゃさけ!」


「世界の破壊を防ぐため!」


「世界の平和を守るため!」


「愛と真実とモフモフを尊ぶ!」


「「ラブリーチャーミーな正義の味方!!」」


「マリー!」

「ロザリンド!」


「世界を駆けるロザリンジャーの皆には!」


「愉快な明日がまっている!」


「…なーんてね」


 最後だけ参加したテンションが低い男にも覚えがある気がしたが、人間はあまりにも理解不能な事態に直面すると頭が働かなくなるらしい。


「お姉ちゃん達、かっこいー!」


 拍手する変態狂王子を見て、とりあえずこいつとは理解し合えないことがわかった。

 シリアス先輩に強制終了のお知らせ。

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