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狂った王子は平和主義者?

 元将軍さん視点になります。






 圧倒的。






 正しく、この一言に尽きる。我が君は自分の部下やゴーレムに命じて数時間でシャムキャッツ王都と城をほぼ制圧してしまった。

 この国唯一の救いは、それを容易く行った人物がこの国を恨んだり破壊するつもりがないことだろう。建物はともかく、人的被害はゼロ。精神的な打撃はあれど、これまで敵味方問わず死者なしという奇跡的な状況だ。


「本当はこんな手荒な手段をとりたくなかったけど、時間がないから仕方ないよね」


 我が君は苦笑した。


「時間、ですか?」


「うん。お姉ちゃんの結婚式までにやることが山積みで、僕忙しいんだ」


 私も感覚が麻痺してしまったらしく、ほらーごーれむ達により阿鼻叫喚な城内を淡々と案内しながら我が君の話を聞いていた。

 ほらーごーれむは深追いせず適当な部屋に使用人達を追い込んでは閉じ込めている。素晴らしい知能だ。あれがゴーレムだとは誰も信じないだろう。この国…いや、シヴェリハスでもゴーレムなんてせいぜい飾り物の踊る人形ぐらいなものだ。我が君は自分がいかにすごいのかを理解していない節がある。

 無駄な思考を切り換えて我が君の話へと意識を戻す。


「姉君の結婚式なのに、ですか?」


「僕の本職は芸術家だからね。お姉ちゃんの結婚式を最高のものにするために、色々作っているんだ。僕の担当箇所は目処がたったんだけど、他の手伝いも依頼されてるからねぇ」


 我が君ふわりと笑ったが…彼の『作品』を見回してつい顔がひきつった。

 あのゴーレム達を陳列するのはやめた方がいいと思う。姉君を思うなら、別の人間に頼むべきだ。


「ふふ、ホラーゴーレムみたいなモノは作らないよ。彼らはヒトの『恐怖』を刺激するためのものだから、幸せな結婚式には合わない。いくら僕でもその辺りはわきまえてるよ。僕が作るのはこういうやつだ」


「これは…」


 我が君が取り出したものは、城の灯りに煌めく色とりどりの透明な石達。丁寧な細工が施されていた。芸術になどまったく興味がない私でも、飽きることなくいつまでもいつまでも眺めていたくなる品。いくつもの美しい景色達が長方形の枠に詰め込まれている。


「結婚式の会場の窓ガラスです。綺麗でしょ?」


「…は、い…」


 あんなエグいモノを作るのに、こんなに美しいモノも作れるのか。純粋に惹き付けられてしまう。目がはなせない。こんなに美しいモノを見たのは初めてかもしれない。

 我が君はすごい。歩きながら簡単に彼は自分の生い立ちを話した。これだけの力を秘めた人間が、野心もなくただの芸術家(いっぱんじん)として生きていたことに驚きを隠せなかった。

 しかも虐げられる立場にいたのに虐げていた者達や他者にやり返すのではなく、これ以上弱き者達が虐げられないようにしたいと願って行動していた。


 我が君の考えには恥じ入るばかりだ。こんな青年が考えつくことを私は考えたこともない。


「僕よりお姉ちゃんの方がそういう意味じゃ特殊だと思うよ」


「どういう意味ですか?」


「お姉ちゃんは、やろうと思えば簡単に世界征服ぐらいできるけど…しないで侯爵夫人として働いてる人だから」


 我が君が色々おかしいのは姉君のせいだと発覚した瞬間だった。よく考えたら、世界を救った勇者なのに姉君は見返りを何も求めなかった。聖女と崇められても仕方ないだろうに、当人は穏やかな暮らしを望み我が君と同じく弱き者達が虐げられないようにしたいと願って行動しているらしい。


「…我が君は姉君に似ておいでなのですね」


 その優しい心根と崇高な願い。願うだけでなく実現しようとする力。


「待って!なんでその結論に至っちゃったの!?どういう意味で似てるの!?」


「ははははは」


 笑って誤魔化す私に、我が君は必死だ。そんなところは『普通』の青年だ。こんなとんでもないことをしでかすようにはとても見えない。


「別に、悪い意味では申し上げておりません。我が君も姉君も…私には尊敬すべき御方です」


「そんな大層な人間じゃないから!」


 そんな会話をしていたら、ついに玉座の間に到着した。逃げていなければ、十中八九シャムキャッツの王はここにいるだろう。内部を探れば知った気配がした。間違いなく、いる。


「こちらが玉座の間になります」


「では、行ってくるよ」


「行ってらっしゃいませ。ご武運を…いや、幸運を」


 我が君はあくまでも話し合いに来たのだから、武運は要らない。その意味を察して微笑んで歩む我が君を見送ると、私は自分の仕事をするために駆けた。


 そう、全ては我が君のために。

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