お姉ちゃんは心配だよ
ロザリンド視点になります。
馬鹿二人に連れてこられた誰かの執務室。明らかに神経質そうな…眼鏡をかけたアフガンハウンドっぽい部屋の主はイライラしていた。この人仕事中なんだろうし、迷惑だろうなぁ…
それにしてもこの国、半獣化がデフォなのかしら。皆モフモフ二足歩行なんだけど。人化状態の人はほとんど見てない。犬族ばっかだけど、ここは理想のモフパラダイスなのかもしれない。
そんな妄想ならぬモフ想をしていたら、馬鹿二人が話しだした。
「力は認めてやるが、王たるもの、力だけではダメだ!」
「そうだ!だから、次は知力を示せ!」
「知力?ええと、何をするんですか?というか、僕は別に王さまになりたいわけでは「というわけで、この国で一番頭がいいダンドと計算勝負だ!」
「ダンド、早く仕事が片付いて、一石二鳥だろ?」
アフガンハウンドのお兄さんはため息を吐いた。何故か、昔ワーカホリックだった父を思い出した。このお兄さん、疲れてるなぁ。
「いいでしょう。先にこの書類の束を計算し終わった方が勝ち。ただし間違いは5秒のペナルティ加算でいかがですか?」
「あ、えと…かまいません。あの、これを使っても?」
ポッチは私から珠算を習っていて、それなりにソロバンができます。アフガンハウンドのお兄さんは何に使うか解らなかったようですが了承しました。こんな茶番、さっさと終わらせたいのでしょう。
さっき王さまになりたいわけではと言っていたポッチは、流されて計算勝負をすることに。時間の計測は私が魔具ですることに。
「よーい、スタート!」
まさかの圧勝。
まだアフガンハウンドのお兄さん、書類半分ぐらい残ってる。検算したけど、ボッチは全問正解。
「あの……」
「なんですか」
プライドを激しく傷つけられたのだろう。アフガンハウンドのお兄さんはさらにイライラした様子だった。
「お疲れみたいですし、少し休憩されてはいかがでしょうか。ぼ、僕のお兄ちゃん、疲労回復にいいお茶とかいつも持ってますし、僕、残りの書類もお手伝いします」
「………………」
「あ、あの、もちろんお手伝いできないものもあると思いますけど…お兄さん?」
「……………ぐっ…ふうぅ……」
アフガンハウンドが泣いた。
「お、お兄さん!?」
「いけませんね…年を取ると涙もろくなるようだ。私の周囲はあれを壊した、それを壊したから予算よこせ、あれしろこれしろと仕事を増やす馬鹿ばかりだったのです。ありがとうございます。お気持ちだけでも嬉しいですよ」
あのアフガンハウンドのお兄さん、いい人っぽい。しかし、若く見えるがいくつなんだろう。
「お、お兄ちゃん…」
ポッチがウルウルして兄を見た。仕方ない、という感じで兄はゲータに声をかけた。
「ゲータ」
頷いてゲータがアフガンハウンドのお兄さんを診察した。
「かなり疲労が蓄積してるな。ルー様の薬草茶より、お嬢様のトンデモ粥の方がいいだろう」
「…トンデモ粥って……作るけどさ…トンデモ粥って…変なものなんか……リヴァイアサンの干物で出汁とったぐらいなのに……」
ブツブツ文句を言いながら、お粥を室内調理する。馬鹿二人はしばきたいが、アフガンハウンドのお兄さんはいい人っぽい。だからいつも通りにおまじないをした。
「元気になーれ」
そしたら、神々しく七色に輝く粥ができた。
そんな怪しげな粥だが、匂いが良かったからかアフガンハウンドのお兄さんはあっさりと食した。寝不足で判断力が低下していたのかもしれない。私なら絶対食べたくない。最近は慣れたから、誰も何も言わないが、発光する食物はおかしい。
「………いただきま……うまぁぁぁぁい!!」
アフガンハウンドのお兄さんが、スーパーなサイヤ犬になった。長毛種だから、毛が逆立つと目立つわ~。
「これは…力がみなぎるうぅ…!できる、できる、できる、できる!!仕事ができるぞおおおおお!!」
スーパーなサイヤなのに、やることは仕事らしい。根っからの仕事人なんだね。バリバリ働くお兄さん。
「ロザリンド…」
「やりすぎ」
「お嬢様…加減できないのか?」
「お姉ちゃん…これ、大丈夫なの?」
「…………(驚愕)」
「…………(ドン引き)」
「…………(ひきつり)」
「ゲータがやれって言ったんじゃないですか!」
「…今、余計なことを言ったと後悔している」
味方がいない!私は悪くないもん!…………多分。
「ロザリンドは加減と自重を覚えないと…」
「私のせいじゃないもん!シヴァが…シヴァが悪いんだもん!!」
とりあえず、この場にいない神に責任を擦り付けました。シヴァのくれた天啓のせいだからです。
私は悪くない!ただ、元気になーれっておまじないしたら、元気になりすぎただけだもん!!
「と、とにかく!知力は見せてもらった!」
「だが、力と知識だけではダメだ!」
「え!?わわわ、ひっぱらないで!」
シャイニングでレインボーな粥で揉めている隙に、ポッチが連れ去られました。あの馬鹿二人、後で絶対にしばく!まだまだ続くみたいです。




