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嫌な予感こそ当たるよね。

 翌日、私はクリスティア城にお呼びだしされた。なんでも他国から来た使者の件で話があるんだとか。


 とりあえず断る理由もないので素直に行ってみたら、ポッチみたいな興奮した獣人さんが何やら一生懸命話している。

 アルフィージ様が対応しているが、明らかにうんざりした様子だ。


「やあ、バートン夫人。待っていたよ」


 嫌な予感しかしない。しかもバートン夫人呼びってことは仕事の呼びだしってことですね。


「おお、こちらの方が獣人に顔が広いバートン夫人ですか!?お美しいご婦人ですな!私はバーナードと申します」


「……え、あ…ロザリンド=バートンですわ」


 見た目柴犬なのに名前がセントバーナードのギャップにも驚いた。それよりも、バーナードさんがポッチ(ムキムキ化前)にそっくりなことに驚いていた。


「いやあ、本当に可憐ですな。私もあと20年若ければ…いやいや、今はぼっちゃまの事ですな!実は我が国の王太子殿下が10年ほど前から行方不明なのです。ぼっちゃまはそれはもう可愛らしく素直でして、私の事をじい、じい、と慕って可愛らしく後を……」



 アルフィージ様がうんざりしていた理由はこれか。この後もバーナードさんによりぼっちゃま自慢は止まらず……



「…というわけです。わかりましたかな?」


 言うべき事を言い終えた様子のバーナードさんはスッキリしている。5時間にわたり話が続いていたが、要約するとぼっちゃまは可愛い。10年前に行方不明になったから探してほしい…ぐらいしか伝わってない。あと、熱意だけは伝わった。情報は可愛いだけで他は不明。ジェラルディンさんの話がなかったら、該当者すら思い浮かばないだろう。


「…お話はわかりました。ただ、お力になれるかはわかりません」


 なにしろ、情報は可愛いだけだ。ただ、バーナードさんから『ぼっちゃま』の話を聞くたびにうちのポッチが重なった。

 ポッチが仮にバーナードさんの『ぼっちゃま』だったのだとして、何故彼は身元不明の扱いを受けたのか。そこは疑問だった。


「…何故、王太子殿下は行方不明に?」


「実は…お恥ずかしながら我が国は卑怯な敵国から襲撃を受けまして、壊滅的な被害を被ったことがございました」


 暗殺を得意とする敵国のせいで王太子殿下の身は危険に晒され、他国に避難させることにした。それがウルファネア。だがウルファネア王家とは関わりがなく、秘密裏に王太子は身柄を移され、裕福な家庭の養子として暮らすはずだった。

 しかし、敵国からの追っ手により王太子を匿っていた家は焼かれ…王太子は生死不明となった。


 絶望的な状況の中、バーナードさんだけは諦めなかった。彼は獣人には珍しい魔術師で、王太子に魔法を施していたから。王太子殿下の魔法は消えてない。だから生きているはずだと世界中を探し回っていたのだ。


 そして、つい先日…ついに王太子殿下の気配を察知した。


「えっと…ちなみにかけていた魔法は?」


「我が国の王族には特有の魔力がございましてな。その気配を封じ、姿を変え、守護する魔法を施しました」


 1アウト。

 ポッチにも守護魔法がかかっていたよ。


「ち、ちなみに姿はどのような姿に変えたのですか?」


「おお、私としたことが…長持ちするよう鏡写しという自分の姿を転写する魔法を使っておりました」


 2アウト。

 ポッチの以前の姿はバーナードさんそっくりだ。


「ち…ちなみに魔法が解除されたのは?」


「昨日です。そして、ぼっちゃまの気配を頼りに参りました」


「3アウトォォォ!!」


「!?」


 思わず思考が駄々漏れになった私。ポッチムキムキ化は本来の姿になったってこと!?いやいや、それよりポッチが王太子かは会わせてみなきゃわかんないけど…それより優先すべきことがある。


「あ、あの…大丈夫ですかな?」


「取り乱してすいません。実は、該当者は私が保護しているのです」


「なんと!」


「私は、あの子を家族だと思っております。ですからあの子の意思を何よりも尊重する。あの子が王太子殿下だとは限りませんが、可能性は高いと思われます。ですから、貴殿には申し訳ありませんが本人の意思を確認してからでないと面会の許可はできません」


「し、しかし…」


「もし、貴殿方が無理矢理うちの子を連れていこうとするなら…このロザリンド=バートンによって貴殿の国は滅びるでしょう」


 私は本気だ。ポッチの為なら国ぐらい滅ぼしてやるわ!


「ひっ!?」


 あ、ヤバい。感情が昂り過ぎて部屋が………いつの間にか退室していたアルフィージ様が部屋に駆けこんできた。


「バートン夫人!?落ち着け!貴殿は何故、彼女をここまで怒らせたのだ!?」


「…いえ、私が夫人に非礼な事を申しました。ぼっちゃまは、愛されているのですなぁ。無理に連れていくことはございません。ぼっちゃまが望まぬならば、このままこの国で過ごしていただきます。ただ欲を言えば、お妃様が危篤なのでお妃様にだけでも会っていただきたいですが…」


「必ず、うちの子に伝えます」


 城から出ようとしたら、ディルクに抱きしめられた。


「どうしたの!?そんなにロザリンドが悲しむなんて!」


「は??」


 ついて来ていたらしいアルフィージ様がキョトンとする。


「ディルクぅぅ~」


 ポッチが遠くに行っちゃうかもしれない。それを思うと悲しくて仕方ない。


「よしよし」


 ディルクのあたたかい腕とモフモフが心を落ち着かせてくれる。


「…ディルクは本当にロザリンド嬢を理解しているんだな」


 アルフィージ様が苦笑しつつ話しかけた。


「繋がっていますからね。それに、俺は悲しくても泣けない彼女を知っていますから」


「………そうか。私もラビーシャをそんな風に理解できるようになりたいものだ」


「…彼女も隠すのが上手いですからね。でもアルフィージ様ならできますよ。人間観察、好きでしょう?」


「まあな。ラビーシャはずっと見ていても飽きないしな。さて、ロザリンド嬢はディルクがいれば問題なさそうだ。私はこれで失礼する」


 あ、アルフィージ様心配してついてきてくれたのか。優しい友人と旦那様のおかげで回復した私は、ポッチと話すためにまた実家に行くのでした。

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