ポッチ、メタモルフォーゼ
皆、なんでそんなに驚いて…いや、うちの絵達とクリスタルラビット、ミヅキさんとクリス君は驚いてない。驚いているのは自由な風さん達と悪いおじさん達だ。
「えーと…完全獣化は解除できてます…よね?」
上手く言えないけど、なんか違和感があるんだよなぁ。なんだろう?人間の手になってはいるんだけど…。なんか目線が違うというか……?
「ポポポポッチ!これ!これ!!」
シュガーさんが可愛らしい手鏡を渡してきた。鏡が何か?綺麗な鏡だなぁ。細工もいい。かなり丁寧な仕事だね。周りは木かぁ。女の人ってこういうの好きだよね。お姉ちゃんに作ったら喜ぶかな?
「違う!鏡!!鏡を見て!」
「はい?」
つい細工をチェックしちゃったけど鏡の基本的な用途は自分をうつすことだ。鏡をのぞきこんでみると…………
あれ??
顔は…久しぶりの獣頭だ。なんか犬より狼っぽいような?僕ってもっとこう…丸っこくふわふわだった気がするんだけどシャープな印象だ。僕、痩せたっけ??
あれれ??茶色の毛並みが黒混じりに………それに僕、首がやたら太くない?さらに下…立派な大胸筋が………いや、腹より下は見ればわかる。
「ええええええええ!?」
動揺し過ぎて力加減が怪しい。シュガーさんの鏡を割っては申し訳ないので返却して、ツヨシで全身鏡を出した。
「ええええええええ!?」
鏡の中にはもはや別人に変身してしまった僕がいた。変な動きをしたが同じく動くし、後ろの自由な風さん達は普通だから間違いない。
僕はジェンドのお父さんレベルの筋肉的な意味でナイスバディになっていた。そういえば視点も高くなってる!身長まで伸びてるんだ!!ジェンドより高いんじゃないかな?やったね!!
「すげー筋肉だな」
「固い…」
「大きくなったな……」
「ロザリンドちゃんのせい…なの、かしら?」
「……なんでもかんでもお姉ちゃんのせいにするのはどうかと思います」
あの感覚。
初めて完全獣化した瞬間…僕は『解放された』と感じたし、ロザリンドお姉ちゃんの魔力は感じなかった。だからロザリンドお姉ちゃんは関係ないと思う。騒動とお姉ちゃんがセットになることが多いからそう感じるのは仕方ないけど、濡れぎぬはかわいそうだ。
それにしてもこの姿を初めて見るはずなのに、妙にしっくりくる。何かを掴めそうなのに…指をすり抜けて行き、形にならない。なんで?切ない…嬉しい…いや、違う。ああ、そうだ…
『懐かしい』
懐かしい?何が??しかし確かにこの姿が、僕は懐かしいんだ。
「ぴゅい……」
ぼんやりしていたら、心配そうな優しい声に引き戻された。
「大丈夫。特に害がある感じじゃないし、調子がいいぐらいだから。無事で良かった。元気になったんだね」
赤いクリスタルラビットの子が心配してくれたみたい。ミルラさんに治して治してもらえたんだね。よしよししたら、甘えてきた。ひんやりして気持ちいい。
今気がついたんだけど僕、クリスタルラビットにめっちゃ囲まれてませんか?
「ぴゅい、ぴゅぴゅう!」
「……勇者様、ありがとうございまス」
「勇者じゃありません。駆け出しの芸術家です」
僕は真顔になった。勇者はうちのお姉ちゃんです。
「ぴゅぴゅう。ぴゅうぴゅう」
「この子を連れていってくださイ。きっとお役にたちましょう」
大きなおじいさんっぽいクリスタルラビットに言われて、赤いクリスタルラビットの子供がうんうんと頷いた。
「えっと…」
ちょっと考えたが僕の意見を述べてみた。
「あのさ、せっかく家族がいるんだから君が小さなうちは家族と仲良く過ごしてほしい。たまに、僕の手伝いをしに来てくれるかな?」
「ぴゅう…」
「ぴゅうう…」
「ぴゅうううう…」
な、なんかめっちゃキラキラした瞳で見られているような……
「なんとなク、解ってるみたいですガ…余計好かれましタ」
「そんな気はしてた!!」
「密輸組織の通報があったのはここか!?」
「ぎゃあああああ!?化け物!?」
「逃げられない!?」
『あ』
どうやら駆けつけた騎士さん達が僕のぞんびー君達と交戦してしまった模様。すぐにやめさせました。すみません。なんか、お姉ちゃんの関係者だと話したら納得されましたが…お姉ちゃんは騎士さん達にナニかやらかしたんだろうか。ぞんびー君への怯え方が尋常じゃなかったのが気になります。
そして自由な風さん達が説明してくれて叱られずに済みましたが、ぞんびー君達は危険物なので使う場合は許可をとってからにしろと誓約書まで書かされました。お姉ちゃんが何かやらかしたからに違いないと思いました。
クリスタルラビット達は住み処に帰し、彼らの洞窟もきちんとチェックされるようになって、とりあえずは一件落着………なのかな?
ちなみに、ロザリンドさんは今でもたまーにゾンビによる幻覚戦闘訓練を騎士団にさせています。ぞんびー君に異様にビビったのはそのせいです。




