5 丸内 泰邦⑤
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ともが考えていたことが分かってしまったのも、協力することを選んでしまったのもすべてぼくだ。
だからとことんまで付き合ってやる。
そのつもりなんだけど……うーん。
けどなぁ、これって立派な犯罪なんだよなぁ……。
今さらうじうじ考えるのも男らしくないか。もう口に出してしまったし。
「うぅ……寒い」
ということで現在外出中。
詳細を話すとするならば、ぼくたちが通っている小学校のすぐ近くにある公園だ。
学校に忍び込むことを決めたぼくたちは、おばさんがお風呂に入ったのを確認してからこっそりと紀井家を出た。荷物は最低限のもの、スマホと念のための財布、それと小型の懐中電灯。
で、ともは直接学校に向かおうとしていたらしく、それを首根っこ掴んで止めた。
理由としては……。
「なぁ、何ですぐに学校の中入らないんだよぁ」
おっと、まだ話していなかった。
「とも、どこから入ろうって考えてた?」
「えっ? そんなの正門から……」
「やっぱりね。ダメだよ、そんなことしたら」
「だから何でだよ」
本格的に知らないのかな。
理由は簡単だ。
学校の正門には防犯カメラが付いている。門に直接というわけではなく、近くにある校舎(五・六年生の教室があるところ)に付いていて、正門から出入りした人ならとりあえず映る。それはつまり、正門の近くを軽い気持ちでうろつくと、カメラに撮られてしまうということだ。ここまでは基本的に学校に通っている人なら誰でも知り得る事実だ。
まあ、それは常識的に考えて付いていて当たり前だろう。不審者とかそういったのを対処しなければならないんだからね。
で、ここでの問題は、夜……特に金曜日のような次の日から週末になる日や次の日が祝日になる日は、その防犯カメラの電源が入っているのかということ。もちろん、平日であろうとそれは気になるところではある。
電源が入っている場合、ともが考えていたように正門から真正直に入ってしまったら、当然映ってしまい後日呼び出されて……うーん、警察沙汰にはならないことを祈りたいけど、かなり周りの人に迷惑が及ぶ結果になることは目に見える。そして、自分に返ってくる「面倒なこと」はかなり大きいことも、また目に見える。
仮に防犯カメラの電源が入っていない場合、忍び込むのはとても楽になるだろう。気をつければいいのは、辺りに人がいないかということだけでよくなるからだ。他にも配慮するべきことはあるけれど、この場合の最大の問題はやっぱり目撃者の有無だ。
どちらのほうに賭けるにせよ、結局のところ「分からない」としか言えない。それが厄介なんだ。
「ここまではいい?」
「うん」
オッケー。
これは本当に理解できている顔だ。
「でも、じゃあどうすんの……?」
まあ、そうなるよね。
防犯カメラの電源が入っていようが入ってなかろうが、どちらにせよ分からないのだから正門から入るというのはかなりまずい。
ならばどうするか。
正門から入らなければいい。
正門を避ければいいんだ。ただそれだけ。
至極簡単で、まあ誰でも思いつくことだよね。
「そっか! じゃあ裏門から入ればいいんだ!」
「うーん、それでもいいけど……」
「え、ダメなの?」
確かにともの言う通り、正門以外の門から入るのはいい考えかもしれない。
正直言えば誰でも思いつく方法であるのは否定しないけれど、それが一番危険が少ない方法だと思う。
だけどそれじゃダメなんだ。
これは可能性の話だし、推測の域を出ないけれど、他の門(この学校には正門の他に門が三つある)にも防犯カメラがあるかもしれない。
先ほどから危惧している問題を蒸し返すことになる。
これは賢い方法とは言えない。
ということで、その他の方法を考えないといけない。
つまり、門以外からの侵入方法だ。
石塀から上って侵入するのが、門以外の方法としてはすぐに思いつく。
けれど、うちの学校の石塀には侵入者とか猫とか対策として名前はよく知らないけどイガイガした玉がいくつもつながったもの……有刺鉄線だったかな、が学校をぐるりと一周するように張り巡らされている。
これ、案外痛い。
一度ともとふざけて上ったことがあってそれに引っかかったんだけど、太ももや脛なんかに刺さる刺さる。
なので、これは正直避けたい侵入方法だ。
いや、それしか方法がないというなら対策は考えるつもりではあるけれど。
「……じゃあ、実質侵入方法それしかないじゃん」
「そうなんだよねぇ……」
そう、もしも石塀からの侵入を除外した場合、他の方法が思いつかないんだ。
何かあるかもしれないけれど、ぼくたち二人では何の方法も出し合えない。
門からの侵入と石塀からの侵入を封じられたら、普段正当な方法でしか学校に入らないぼくたちには到底思いつくはずがないんだ。ましてや夜に学校に入ることなんて基本的にはあり得ないんだから。
さっき挙げた二つの方法以外には思いつかない。
「ぼくたち」には。
「あっ、そうだ。誰か先生残ってないかな」
「うーん、どうだろう。時間的には残ってる場合はあるかもしれないけど」
「んじゃ電話してみる!」
んー……まあ、先生が学校に残っているんだとしたら、何とかしてもらえるかもしれないな。
不法侵入ではなくなるし。
「いるといいなぁ」
「そうだね」
……さて。
「えっと、学校の電話番号は……」
ともが学校に電話をかけている傍で、ぼくはスマホである人にメッセージを送っておく。
ともには悪いけど、先生に期待はできない。
誤解を招くような言い方になってしまった。違うんだ。
先生が残っているという確率に賭けるのは期待できないという意味だ。
何か仕事が残っているから片づけてからご帰宅される先生もいらっしゃるかもしれないけれど、さっき少しだけ学校に近づいて様子を見てきた結果、職員室のある階並びに職員室のある辺りの部屋の電気はついていなかったんだ。
だから、先生を頼るという作戦は初めからパス。
……と、返信がきた。
やった。来てくれるみたいだ。
「……ダメだ。誰も出ない……帰っちゃったのかなぁ」
うん。
ごめん、とも。
先生がいないことは知っていたけど、少し時間稼ぎに付き合ってもらっちゃった。
というか何度も掛けたのか。
いい具合に時間稼ぎになったよ。
「そっか。……ねえ、とも。実は助っ人を呼んだんだけど、いいかな」
何でそんな露骨に嫌そうな顔するんだよ。
仕方ないじゃん、二人だけじゃらちが明かないんだから。
いや、これは違うことを考えていて嫌そうな顔になったってところだな。
概ね予想はついているんだけど……。
「ツカサだけはヤだぞ。こんなこと知られたらぶん殴られる……」
やっぱり……。
まあ、ツカサくんなら、こんなバカなこと考えた時点でぶん殴って止めていただろうな。
で、それに協力することを選んだぼくも一緒にぶん殴られる、と。
うん。
ツカサくんならやるだろうな。
というか、実はこれはすでに考慮に入れていたんだけれどね。
まあ、ぼくも初めはツカサくんに協力してもらうことを考えたのは事実だ。すぐにやめたけど。
ツカサくんに協力してもらえればもっとスムーズに事は進んだだろうな。
たぶん、今こうやって公園で暇しているの時間も有効に使っていただろう。
もう侵入も成功して目的も達成しているかも。
何だかんだ言ってツカサくんは、今のこの状況を見たら文句は言うだろうし殴られているだろうけど、協力してくれるはずだ。こういうスリルあること、結構好きだし。
「お、おれ帰る……」
そんな怖がらなくてもいいのに。
それに、自分で行くって言い出したんじゃないか。
「そ、そうだけど……」
さてさて。
まあ、ここは安心させてやろうか。
「とも、あんし「ヤダっ、ツカサこういう時すんげぇ拳骨痛いもんっ」
ああ……確かにそれは賛成だなぁ。
ぼくも一度、ともとふざけてハメはずしすぎてツカサくんの拳骨喰らったことあるんだけど、あれは確かに痛い。舌噛んじゃったのもあるんだけど。
それ以来、あんまりハメはずしすぎるのは控えようと思ったくらいだ。
何で拳骨喰らう結果になったかって? ……それは、その、イタズラしたからだけど……。
それはいいじゃないか。
とりあえず、少し興奮気味のともを抑え……「安心しろよ」
……ないと……お?
「拳骨なんか喰らわせねーし、お前らの行動に反対だってしねーよ」
あっ、もう来てくれたのか。
「ぅえっ?! なっ、何で……」
まあ、そんな顔になるよね。
ともはとても意外そうな顔をしながら口をぱくぱくさせている。
ぼくの呼んだ助っ人、彼が目の前に現れたのは、結構衝撃的なことだったらしい。
有刺鉄線で合ってるっけ?笑