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第五十話「決戦」

 ザラスの北方からは次々とアークデーモンの群れが次々と飛来している。

 方角的には、本拠地の更に奥、ザラスのダンジョン方面だ。


 日常的にザラスのダンジョン周辺で狩りをしている仲間達が、今まで魔王や魔王の手下の魔物と遭遇していないという事は、ダンジョンよりも更に奥の地域に魔王が潜んでいる可能性が高い。

 俺はアークデーモンの群れから見つからないように、群れの上空を飛んだ。

 レッドドラゴンはベヒモスを背中に乗せて飛んでいるせいか、かなり体力を消耗している。

 そろそろ地上に下りた方が良さそうだな。


 俺はレッドドラゴンを休ませるために着地場所を探していた時、禍々しい魔力を感じた。

 北の方から強力な闇の魔力を感じる。

 これが魔王の力なのか?

 感じた事も無い程、力強い魔力を感じる。

 まるでザラスのダンジョンに居たキメラを何倍も強くしたような魔力だ。


「皆、この先に魔王が居る事は間違いない。感じた事のない禍々しい魔力が、この地に蔓延している。慎重に進むぞ……」


 俺達はレッドドラゴンの背中から下り、魔王の魔力の元を探して歩き始めた。

 一歩進むだけでも、体に魔王の力強い魔力を感じる。

 恐ろしいな……。

 もしかしたら俺は殺されるかもしれない。 

 大量のアークデーモンを召喚出来る強力な魔力。

 ブラックドラゴンを討伐し、素材から再召喚出来る戦闘センス。

 魔王は確実に俺よりも強いだろう。


 しかし、俺が魔王を殺すしか無い。

 俺は精霊王の加護を得て、今日まで毎日幸せに暮らす事が出来た。 

 精霊王の力でBランクの冒険者になり、魔法学校に入学し、本拠地を構えた。

 リーシアやシルヴィア、その他の理想的な仲間に出会えたのも、全て精霊王の力のお陰と言っても過言ではない。

 そんな精霊王の加護を使い、ザラスを襲う奴は生かしておけない。

 それに、囚われているであろう精霊も救わなければならないしな……。


 魔王の魔力が蔓延する地を、ゆっくりと北に進むと、ついに魔王の居場所を見つけた。

 巨大な廃村の様な場所だった。

 朽ち果てた村の中央では、黒いフードを被った人物が、次々とアークデーモンを召喚している。

 一体どれだけの魔物の素材を持っているのだろうか。


 廃村の近くの茂みに身を隠し、魔王の様子を疑っていた時、一体のアークデーモンが俺達を睨みつけた。

 バレたか……。

 アークデーモンは魔王に対して俺達の存在を伝えたのだろうか、魔王は召喚する手を止めて、こちらを見た。


 黒のローブに身を包み、フードを被っている。

 左手の指には精霊王の指環だろうか、銀色の指環が輝いている。

 こいつは俺が殺さなければならない……。

 俺は右手を魔王に向けて魔法を唱えた。


『ファイアボルト!』


 巨大な炎の矢が魔王目掛けて飛んだ。

 魔王はローブを脱ぎ捨て、剣を好き、炎の矢を叩き切った。

 ローブの下には黒い鎧を着込んでいるようだ。

 まるで剣士と言った風貌だな。

 年齢は三十代だろうか、長く伸びた黒い髪に、赤く血走った目。

 こいつが魔王か……俺のドラゴニュートを殺しやがって……。


 ついに魔王と俺の戦いが始まった。

 廃村には五体のアークデーモンが居る。

 こちらの仲間の数も、魔王のアークデーモンの数も同じだ。

 仲間達にアークデーモンを任せると、俺と魔王の一騎打ちが始まった。

 俺はブロードソードとショートソードを引き抜いた。

 剣に火の魔力を注ぎ、エンチャント状態にする。


 魔王はロングソードを両手で構え、剣に強い闇の魔力を纏わせた。

 魔王が剣に魔力を注いだ瞬間、俺は自分の死を予感した。

 魔王の魔力があまりにも強すぎる。

 目の前に居るだけで死を感じる程の魔力だ。

 勝てる訳がない……。


 俺は二本の剣から次々とファイアブローを飛ばした。

 強力な炎の刃を魔王に放っても、魔王はまるで石でも弾くかのように、いとも簡単に俺のファイアブローを弾いた。

 実力が違いすぎる。

 魔王は気味の悪い笑みを浮かべながら剣を俺に向けた。


『ブラインド……』


 魔王が小さく魔法を唱えた瞬間、黒い闇が俺の全身を覆った。

 まるで世の中から光が消えるような感覚に陥った。


 何が起こっているんだ!?

 目が見えなくなったのか?

 俺は魔王の魔力がする方に剣を振り下ろしたが、手応えはない。


『サンダーボルト……』


 魔王が魔法を唱えた瞬間、俺の右肩に激痛が走った。

 なんだこれ……。

 まるで肩を削ぎ取られたような感覚だ。


 痛い……。

 俺はこのまま死ぬのだろうか。

 右肩を左手で触れてみると、感覚はなく、大量の血がべっとりと手についた。


 目も見えない、魔王の居場所もわからない上に、俺は魔王の攻撃を受けた瞬間、ブロードソードを落とした。

 激痛に耐えながら、魔王の魔力を感じる方に剣を振った。


 俺の攻撃は虚しく空を切る。

 盲目の状態で魔王に攻撃をしようとしても、当てられる訳がない。


『サンダーボルト』


 瞬間、俺の右足には先程よりも遥かに強い激痛が走った。

 意識を失いそうだ。

 全身から脂汗が吹き出している。

 死ぬのか……。


 俺は地面に倒れ込んだ。

 俺はこのまま死ぬんだ……。

 俺みたいな弱い村人が、召喚獣の力で強くなったと錯覚していた。

 俺なら魔王も倒せると思った。


 しかし、この実力差はなんだ?

 悔しい……。

 このまま死にたくない……。

 最後にひと目リーシアに会いたい。


「リーシア……」


 俺が呟いた瞬間、腹部に衝撃を感じた。

 何が起こったんだ……?

 恐る恐る腹部に触れてみると、魔王のロングソードが貫通していた。

 焼けるような痛みと吐き気が襲ってきた。


 終わりだな……。

 体からは大量の血が流れ、意識が遠のいていく。

 魔王に一撃も攻撃を食らわせられなかった……。


 だが、最後に一撃だけでも与えなければ……。

 残された仲間のためにも……。

 俺は左手にありったけの魔力を込めた。


 この一撃で死んでも良い。

 全ての力を使い果たせ……。


 俺は魔王の魔力を探った。

 集中しろ。

 目は見えないが魔王の魔力なら見える……。


『ファイアボール!』


 魔法を唱えた瞬間、巨大な爆発が起きた。

 当たったのか?

 魔王がもがき苦しむ声がする。


 瞬間、俺の体には優しい魔力が流れた。

 この感じはリーシアだ。

 リーシアが回復魔法を唱えたのか、俺の体の痛みは嘘の様に消え、闇が晴れた。

 目が見えるぞ……。


 廃村にはレッドドラゴンの死体と、アークデーモンの死体が無残に転がっている。

 ベヒモスは大量の血を流しながら俺を見つめている。

 魔王はどこだ?


 目の前には左腕を失った魔王が、うつろな目で俺を見下ろしていた。

 まさか、俺の攻撃が当たったのか?


 魔王が右手で剣を振りかぶった瞬間、魔王の背後から無数の触手が伸びた。

 触手は容赦なく魔王の体を貫き、切り刻んだ。

 ゲイザーだ……。

 ゲイザーが決めてくれた……。


 体中をゲイザーに貫かれた魔王は、最後まで俺を睨み続けながら命を落とした。

 廃村からは禍々しい魔王の魔力が消えた……。



 魔王討伐の翌日から、ザラスの復興が始まった。

 地属性の魔術師が建物を直し、聖属性の魔術師が怪我人を癒やした。

 魔王の手下によって破壊された町は、すぐに再生したが、殺された冒険者やザラスの人達の命は戻らない。


 俺は魔王討伐の功績が認められ、ザラスの政府から勇者の称号を頂ける事になった。

 しかし、今回の魔王討伐は俺だけの力で達成出来た訳ではない。

 それに、レッドドラゴンやドラゴニュートを死なせてしまった。

 こんな俺が勇者になる資格はないと思い、俺は勇者の称号の授与を断った。


 無数の幻獣を討伐し、ザラスを守った父さんとアッシュおじさんはAランクの冒険者になった。

 元々二人はBランクの冒険者だったらしい。

 俺、リーシア、シルヴィアもAランクの称号を得た。



 魔王襲撃の翌年、俺はリーシアとの精霊の契約を破棄した。

 契約がなくても、俺はリーシアと一生共に暮らしていけると確信したからだ。


 俺に念願だった初めての彼女が出来た。

 ある日、冒険者になるために訪れた廃村で出会った精霊の少女と……。


 俺とリーシアは魔法学校卒業後に結婚した。

 今は本拠地の屋敷で、魔物達に囲まれながら暮らしている。

 勿論、俺の召喚獣であるシルヴィアやリリーとは常に一緒に居る。


 俺は本拠地に新しく冒険者ギルドを設立した。

 父さんと母さん、アッシュおじさんも俺の本拠地で暮らしている。


 十七歳まで冒険者になる事すら出来なかった、何の力も無い村人だった俺が。

 本拠地を構え、家族を作り、大陸を守りながら生きている。

 人生は小さな決断で大きく変わる……。

 これからも俺は仲間達と協力して世界を守り続けるだろう……。


「リーシアと出会えて良かった……」

「私もだよ……レオン……」

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