第四十三話「幻獣討伐」
幻獣のレッドドラゴン狩りに出掛けた俺達は、ついにレッドドラゴンの生息が確認された森に辿り着いた。
深い森の中からは、今までに感じた事も無い程、力強い魔力を感じる。
ベヒモスの背中から下り、武器を抜いて慎重に森の中を進む。
いつレッドドラゴンと出くわすか分からないからな……。
今回の陣形は、俺とリリー、ベヒモス、ルルが前衛。
リーシア、シルヴィアが中衛。
後衛はゲイザーとフーガだ。
陣形を組んだまま、禍々しい魔力が蔓延する森の中を一時間程進むと、魔物の死骸を見つけた。
ゴブリンだろうか、無残に食い散らかされた残骸が森の中に散らかっている。
ゴブリン以外にも人間の物と思われる防具や剣が散乱している。
既に人も食い殺しているのか……。
凄惨な現場を目の当たりにした仲間達は、怯えた表情を浮かべ、武器を強く握りしめている。
すぐに仕留めてやる。
他の人間を襲う前に……。
俺達が森の中を調べていると、ベヒモスが上空を見上げ、力強く咆えた。
ベヒモスが見上げる空には一体のドラゴンが、俺達を見下ろしながら旋回していた。
あれが幻獣のレッドドラゴンか……。
レッドドラゴンがしばらく旋回していると、俺の背後からは強い風の魔力が爆発した。
最初に攻撃を仕掛けたのはシルヴィアだった。
途方もない魔力を込めたウィンドエッジを放つと、巨大な風の刃は超速度でレッドドラゴンの体を捉えた。
シルヴィアのウィンドエッジがレッドドラゴンの皮膚を切り裂くと、レッドドラゴンは怒り狂いながら地面に舞い降りた。
レッドドラゴンが俺達に対して反撃を仕掛けてきた。
口を大きく開くと、森の中には火の魔力が充満し、魔力は大きな球状に形を変えた。
見た事もない魔法だが、きっとファイアボールが巨大化した魔法だろう。
俺のファイアボールとは比べ物にならない程、巨大で力強い。
レッドドラゴンがファイアボールを作り上げた瞬間、俺達の目の前には背の高い氷の壁が作られた。
リーシアのアイスウォールだ。
この魔法でレッドドラゴンのファイアボールを受けようというのだろうか。
リーシアは氷の壁に杖を向けて、膨大な量の氷の魔力を注ぐと、氷の壁は分厚く、頑丈な物へと姿を変えた。
レッドドラゴンがファイアボールを放つと、俺達は武器を構えて氷の壁の後ろで待機した。
瞬間、巨大な爆発音が静かな森に劈いた。
リーシアの作ったアイスウォールにレッドドラゴンのファイアボールが激突すると、氷の壁は一撃で粉々に砕けた。
ファイアボールの魔力は消滅し、辺りに強い火の粉を散らした。
リーシアのお陰で安全にレッドドラゴンの攻撃を防御出来たな……。
俺達はすぐに反撃に出た。
ベヒモスはレッドドラゴンの頭部を思い切り殴りつけると、レッドドラゴンの歯が砕けた。
とてつもない威力のパンチだな……。
レッドドラゴンの後方に回ったフーガは、必死にレッドドラゴンの尻尾に噛み付いている。
ゲイザーはレッドドラゴンの体の上に飛び乗ると、翼に対して触手の連続攻撃を放ち、屈強なレッドドラゴンの翼は、瞬く間に穴だらけになった。
これではもう二度と空を飛ぶ事は出来ないだろう。
俺とルルはレッドドラゴンの足を狙い、次々を斬りつけた。
ベヒモスの重い攻撃を、何度も頭部に受けたレッドドラゴンは、徐々に戦意を失い、強い火を辺りに撒き散らしながら上空に飛び上がった。
しかし、翼に無数の穴が開いているせいか、レッドドラゴンは無様に地面に激突した。
その瞬間をリーシアとシルヴィアは見逃さなかった。
シルヴィアはゲイルランスを翼に落とし、まるで釘を打つかのようにレッドドラゴンを地面に貼り付けにした。
「離れろ!」
俺が大声で叫んだ瞬間、空中に作り上げられたリーシアの氷の剣が地面に降り注いだ。
無数の氷の剣は、レッドドラゴンの体を貫いた。
レッドドラゴンは大量の血を流しながら、俺達を睨みつけている。
口を大きく開けて、火の魔力を集め始めた。
まずい……もう一度ファイアボールを打つ気なんだ。
俺は仲間を後退させ、レッドドラゴンの前に立つと、二本の剣をクロスさせて魔力を溜めた。
カイとランベルトさんが俺のために作ってくれた最強装備の力を見せてやる。
レッドドラゴンが、最後の力を振り絞って作り上げたファイアボールが放たれた。
クロスさせた二本の剣に、火のエンチャントを掛け、大量の魔力を注ぐ。
今日一日の全ての魔力を使い果たしても良い。
レッドドラゴンの攻撃が防げるなら。
『ファイアブラスト!』
咄嗟に思いついた魔法の名前を唱えると、交差させた二本の剣の先からは、巨大な十字の炎が飛び出した。
小さな家なら軽く吹き飛ばせそうな巨大な魔力の塊は、レッドドラゴンのファイアボールをいとも容易く切り裂いた。
ファイアボールを切り裂いた十字の炎は、レッドドラドンの体を捉えると爆発音を立ててレッドドラゴンの体を吹き飛ばした。
レッドドラゴンは地面をのたうち回り、もがき苦しむと、大量の血を流しながら命を落とした。
俺達の勝ちだ……。
俺の予想よりも遥かに強力な火の魔力の使い手だった。
仲間にしたい……。
俺は森に散らかったレッドドラゴンの歯を集めて、これを冒険者ギルドに提出する素材に決めた。
息絶えたレッドドラゴンの体を使って新しい魔物を作ろう。
俺はマナポーションを二本飲み干してから、完全に魔力を回復させると、レッドドラゴンの体に両手をつけた。
強くて従順なドラゴンが生まれますように……。
願いと大量の魔力を込め、召喚に挑む。
『レッドドラゴン・召喚!』
魔法を唱えた瞬間、俺の体からは全ての魔力が消費される感覚に陥った。
レッドドラゴンの召喚は、今までのどの魔物よりも魔力の消費が多い。
これは強い魔物が生まれるに違いない。
レッドドラゴンの亡骸は、強い炎に包まれると、炎の中からは巨大なドラゴンが姿を表した。
これが新しいレッドドラゴンか……。
体長は十メートルはあるだろう。
新しく生まれたレッドドラゴンは、俺の姿を静かに見下ろすと、小さく頭を下げた。
会釈のつもりだろうか。
俺はレッドドラゴンに対して深く頭を下げると、レッドドラゴンは満足そうに俺の顔を舐め回した。
「皆! さっきまで敵だったけど、レッドドラゴンは新しく俺達の仲間になった! 仲良くしてやってくれ!」
俺が仲間に声をかけると、レッドドラゴンとの戦いで疲れ果てていた仲間達は、嬉しそうにレッドドラゴンに近寄った。
ベヒモスはレッドドラゴンの筋肉を確認しているのか、ペタペタと体を触りながらじゃれ合っている。
とんでもない組み合わせだな。
レッドドラゴンはベヒモスの事が気に入ったのか、自分の背中に乗せて飛び上がった。
まさか巨体のベヒモスを背中に乗せて飛べる力があるとは……。
ベヒモスとレッドドラゴンはしばらく上空を旋回してから、地面に下りた。
この二体の組み合わせなら、どんな魔物にだって負けないだろう。
魔獣、幻獣クラスの魔物なら負ける事は無いはずだ。
レッドドラゴンの討伐を終えた俺達は、早めに野営をする事にした。
テントを張り、野営の準備を始めると、レッドドラゴンとベヒモスは仲良く森の中に入っていった。
きっと食料を探しに行ったのだろう。
今晩のメインディッシュは鹿だった。
ベヒモスとレッドドラゴンが狩ってきた鹿を、ゲイザーが切り裂いてフーガが焼く。
俺達は特にする事もなく、ゆっくりとテントの中でくつろいでいると、料理が完成した。
ゲイザーは最近、調味料で味をつける事を覚えたのか、俺がザラスで買ってきた調味料を使い、鹿肉に味をつけた。
ゲイザーの料理はかなり味が濃いが、肉は人間でも食べられる大きさにカットされている。
ゲイザーがザラスの町で料理屋でも始めれば、効率よくお金を稼げるのではないだろうか。
料理をする幻獣なんて、珍しすぎて普段は見る事も出来ない訳だし。
これは良いアイディアかもしれないな。
俺はお金を稼ぐ手段を討伐クエストだけに絞っていたが、ベヒモスやレッドドラゴンに魔物を狩らせて、肉を市場で売る事だって出来る訳だ。
視野を広げればもっと簡単にお金を稼げる方法は必ず見つかるはずだ。
魔物の力で効率よくお金を稼ぎ、成り上がる。
本拠地を構えたら、両親とアッシュおじさん、それからグレートゴブリンを招待したいな。
「ゲイザーは料理が好きなのかい?」
俺はゲイザーの小さな体を持ち上げて見つめると、彼は嬉しそうに大きな目を瞑った。
料理好きな幻獣か……。
試しに冒険者ギルドの冒険者達にゲイザーの料理を振る舞ってみようか。
ベヒモスとレッドドラゴンに、希少な魔物を狩ってきて貰い、ゲイザーが魔物を解体し、フーガが焼く。
あとは俺が冒険者からお金を貰って料理を提供出来れば、かなり効率よくお金を作れるはずだ……。
挑戦してみるか。
まずはザラスに戻り、レッドドラゴンの討伐を報告しなければならない。
俺はテントに戻り、魔力と体力を回復させるために早めに休む事にした。
俺は眠るまでの間、魔物の力でお金を稼ぐ方法を考え続けていると、いつの間にか朝を迎えていた……。