第四十一話「討伐クエスト」
カイから新装備を受け取った後、俺達はすぐに冒険者ギルドに赴いた。
今日から本格的にクエストを受けなければならない。
魔法学校に入学するまでの間に、効率良くクエストを受けてお金を稼ぎ、本拠地を建てるための土地を購入しなければならないからだ。
冒険者ギルドの頑丈な木の扉を開けると、ベルネットさんが朝から忙しそうにギルド内を歩き回っていた。
ギルド内ではルルとアルバーン姉妹が待っていた。
早速、今日からの俺達の予定について説明を始める事にした。
本拠地を構えるために、第一パーティーが高難易度のクエストを受ける事。
第二パーティーからゲイザー、ベヒモス、フーガが抜ける事をアルバーン姉妹に説明した。
俺の説明を聞いた二人は、静かに頷いてから口を開いた。
姉のベラ・アルバーンだ。
妹のチェルシーよりも落ち着いた印象で、シルヴィア程では無いがスタイルもかなり良い。
「シュタイン様。我々第二パーティーは、今日も引き続きザラス近辺の魔物を狩ろうと思います。新しく入ったノールとオークも居るので、普段通り安全に狩りを行えると思います」
「そうですか。今日も一日よろしくお願いします」
「はい、おまかせ下さい」
俺はベラとチェルシーを見送ってから、第一パーティーのためのクエストを受ける事にした。
ベルネットさんから何か効率よく稼げるクエストがないか教えて貰おう。
「ベルネットさん。今日は少し難易度が高い討伐クエストを受けたいのですが……」
「難易度が高い討伐クエストか……それなら、ザラスの町から馬車で二日程移動した場所でドラゴン狩りをしないか? ドラゴン族の幻獣のレッドドラゴンという魔物が、最近目撃されたと言う情報が入ってきたのだ。まだ人を襲ったという報告は受けていないが、早い内に討伐しておこうと考えていたんだ」
「幻獣ですか? ドラゴン……」
「ああ。レオンの力なら幻獣をも討伐出来るだろう。敵の強さは不明だが、未だにザラスを襲ってこない事から推測するに、まだ生まれたばかりの幻獣だろう。力も魔力も完全に成長している訳ではなさそうだ。敵が力をつける前に、レオン達に討伐して貰おうか」
「勿論良いですが。果たして俺達の力でドラゴンを倒せるでしょうか?」
「それは心配無いだろう。レオンのパーティーには、四体も幻獣が居るじゃないか。戦力的には、レオン達パーティーの方が遥かに高いだろう。討伐の難易度はBランクだ。レッドドラゴンの体の一部を切り取って持ち帰り、討伐を証明する事」
「了解です!」
「場所は地図に書いておこう。今回のクエストの報酬は300ゴールドだ」
俺はベルネットさんからレッドドラゴンが目撃された場所が書かれた地図を受け取ると、すぐにギルドを出た。
幻獣の討伐に出発する前に、まずは食料を買ったほうが良さそうだ。
レッドドラゴンが目撃された場所は、ザラスの町から馬車で東に二日程進んだ場所だ。
往復の食料として最低でも四日分の食料が必要だ。
ゲイザーやフーガの食料も事前に用意しておこう。
ベヒモスに関しては、放っておいても魔物を狩りに出かけ、弱い魔物を喰らう。
手の掛からない最強の召喚獣だ。
まずは冒険者向けのアイテムを扱う道具屋に行かなければならないな。
冒険者ギルドを出た俺達はすぐに道具屋に向かった……。
背の低い石造りの建物が並ぶ商業区をゆっくりと歩きながら進むと、一件の大型の道具屋に到着した。
ここは主に冒険用の保存食や松明、テント等を扱う店だ。
保存が利く食料をたっぷりと買い込もう。
「皆、食べたい物があれば好きに選んでくれ」
俺が仲間にそう伝えると、リーシアとシルヴィアとルルは、目を輝かせながら食料を選び始めた。
俺はリリーと共にゆっくりと店の中を見て回っていると、リリーは小さな瓶に入った乾燥フルーツを指差した。
瓶の中には色とりどりのドライフルーツが入っている。
「レオン、私はあれが食べたい」
俺の肩の上に乗りながら商品を見ていたリリーがドライフルーツの瓶の上に飛び乗った。
リリーはこういう物が好きなのか。
俺はまだ彼女がどんな食べ物が好きなのかも知らない。
体の大きさの関係上、人間が食べる食料はリリーには大きすぎる場合もある。
小さくカットされたドライフルーツなら、体の小さいリリーでも気軽に食べられるだろう。
俺は瓶詰めのドライフルーツを三つ買う事にした。
しばらく店内を見ていると、仲間達は食料を大量に買い込んでいた。
〈冒険用・食料〉
・ドライフルーツ(瓶詰めで色とりどりのフルーツが入っている)×3
・堅焼きビスケット(砂糖がたっぷりはいっており、ずっしりと重い)×20
・乾燥肉(魔獣のホワイトウルフという種族の肉だ、大きな塊で食べ応えがありそうだ)
・各種調味料
・瓶詰めのトマト(これはスパゲッティ用に使うらしい)
・瓶詰めのナッツ
・スパゲッティの麺
・ドライソーセージ
・エールと葡萄酒
・チーズ(かなり大きく、硬くて保存が利くタイプの物)
・堅焼きパン×15
これだけあればしばらくは食料に困らないだろう。
勿論、討伐目標が潜んでいる地域までの道中でも、野生動物やモンスターを狩り、食料は集めるつもりだ。
食料を買い込んだ俺達は、ザラスの町の外で待ってるゲイザーとベヒモス、フーガと合流するために、正門に向かった。
正門の前では、フーガの背中に乗ったゲイザーが、楽しく草原を走り回っていた。
いつ見てもこの光景は不思議だ。
ゲイザーはフーガに対して、移動したい方向に触手を向けて指示すると、フーガが移動する仕組みになっている。
やはり幻獣の知能は高い。
勿論、ゲイザーは浮遊タイプの魔物だから、フーガの背中に乗らなくても自由に空を飛ぶ事が出来る。
正門から出た俺達に気がついた仲間達は、嬉しそうに駆け寄ってきた。
フーガもベヒモスもかなり体が大きくなっている様な気がする。
ベヒモスに関しては、召喚した当初は体長が三メートル程だったにも関わらず、現在では体長は五メートルを超えている。
ベヒモスは俺に顔を近づけると目を凝らして肩の上に乗っているリリーを見つめた。
まずは仲間達にリリーを紹介しておこう。
「皆、新しく仲間になった幻獣のリリーだ。妖精族で聖属性の魔力の使い手だ。仲良くしてあげてくれ」
俺がリリーを紹介すると、ゲイザーが触手を差し出してリリーに握手を求めた。
リリーは初めて見るゲイザーに、少し怯えながら触手を握った。
リリーと握手を交わしたゲイザーは、嬉しそうに大きな目を閉じて微笑んだ。
フーガはリリーに鼻を近づけて匂いを嗅ぐと、リリーの事が気に入ったのか、大きな舌でリリーの頬を舐めた。
ベヒモスは軽く会釈してから、俺の体を持ち上げて自分の背中に乗せた。
俺は仲間達に今日のクエスト内容を伝えてから、ベヒモスの背中に荷物を載せ、早速出発する事にした……。
 




