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第四話「冒険の旅」

 〈翌朝〉


 俺が目を覚ますと、グレートゴブリンは先に起きていたのか、教会の床には彼が狩ってきたであろう、鹿の肉が置かれていた。

 朝食に鹿か……。

 グレートゴブリンは鹿肉を俺の方に押しやると、料理をしてくれと言わんばかりの表情で見つめてきた。


「……」

「料理して欲しいのかい?」

「……」

「分かったよ。すぐに朝食を作るからね」

「……」


 グレートゴブリンは恥ずかしそうに頷いている。

 まだ生まれたばかりなのに、グレートゴブリンは食欲が旺盛なんだな。

 俺はすぐに昨日と同じ味付けで鹿肉のスープを作ると、グレートゴブリンは嬉しそうに食べ始めた。


 なんだか彼を見ているとアッシュおじさんを思い出すな。

 彼も朝から巨大な熊を狩って来て「レオン! 今日はホワイトベアを仕留めたぞ! これから焼肉だ!」なんて言い出すからな。

 朝だろうが深夜だろうが、突然パーティーを始めるのがアッシュおじさんだ。

 俺はそんなアッシュおじさんが大好きだ。

 案外、アッシュおじさんとグレートゴブリンは仲良くなれるんじゃないだろうか。

 俺はグレートゴブリンと共に朝食を食べていると、リーシアは眠たそうに目を覚ました。


「おはよう……レオン」

「おはよう、リーシア。今日は俺の村に戻ろうと思うんだ」

「分かったよ」


 リーシアは俺が村に行くと言っても嫌な顔をしなかったな。

 俺の事を信用してくれているからだろうか。

 しかし、グレートゴブリンをこのまま村に連れて行ったら、村人達は確実に魔物が襲ってきたと勘違いするだろうな。

 グレートゴブリンが俺の仲間だと村人達に理解して貰えるように、彼の肩に乗って村に戻ろうか。

 それなら俺が手懐けた魔物だと、村人達は認識してくれるだろう。


「早速俺の村に戻ろう! 俺はすぐにでも冒険の旅に出たいんだ」

「うん、わかったよ」


 リーシアは嬉しそうに微笑むと、すぐに立ち上がって出発の支度を始めた。

 俺はグレートゴブリンにも村に戻る事を伝えると、彼は静かに頷いて、自分の肩に俺とリーシアを乗せてくれた。

 廃村を出ると、朝の廃村の中でスープをこしらえているゴブリンの集団に出くわした。

 懲りない奴らだな……。

 ゴブリン達はグレートゴブリンを見るや否や、目に涙を浮かべて、怯えながら自分達が作ったばかりのスープを差し出した。

 グレートゴブリンは嬉しそうに差し出されたスープを飲むと、廃村から出ていくようにゴブリン達に命令した。

 すると、ゴブリン達は深々と頭を下げてから、大急ぎで廃村から出て行った。

 これでこの場所には二度とゴブリンは近付かないだろう。

 俺はグレートゴブリンの肩の上から村の位置を指さして指示をすると、一歩一歩、力強く大地を踏みしめて村への道を進み始めた。



 〈アルシュ村〉


 しばらくグレートゴブリンの肩の上に乗って村までの道を進むと、俺が十七年間暮らしている村が見えてきた。

 きっと父さんも母さんも、アッシュおじさんも俺の帰りを待っているに違いない。

 すぐに家に戻ろう。

 俺が村の入り口に着くと、村の守衛を任されている元冒険者の村人は、案の定腰を抜かした。


「何だ! 敵襲か!? いや、よく見るとレオンがゴブリンの上に乗ってる!?」

「そうだよ、俺だよ。こいつは敵じゃないんだ。村に入っても良いだろう?」

「ああ、しっかり手懐けているみたいだしな。入っても良いぞ」

「ありがとう」


 俺は村の守衛に断ってから、自分の家に戻るまでの道を進んだ。

 村人達は慌てて逃げ出す者も居れば、俺の事を称賛する者も居た。


「森を荒らしていたグレートゴブリンじゃないか! レオンが手懐けるとはな!」


 実際には手懐けた訳ではなく、グレートゴブリンの素材から新しく作り上げた魔物だ。

 しばらく村の中を進むと、俺の家の前には、嬉しそうに笑みを浮かべた父さんと母さん、それからアッシュおじさんが待っていた。


「レオン。魔物を連れて来いとは言ったが、まさかグレートゴブリンとはな……俺の息子は立派な冒険者になりそうだ……。レオン、冒険の旅に出る事を許可する! 俺を超える冒険者になって、いつかこの村に戻ってくるんだ!」


 俺はグレートゴブリンの肩の上から飛び降りると、リーシアを抱き上げて地面に降ろした。


「それで、そのお嬢さんは誰なんだ?」


 アッシュおじさんはニヤニヤと嬉しそうに笑みを浮かべながら俺を小突いた。

 リーシアの事や精霊王の加護を授かった事、それからグレートゴブリンを召喚した事を説明しなければならないな。

 俺は村の広場に移動して、皆に対して説明する事にした。


「すると、レオンは精霊のリーシアと契約をした事によって、魔物の素材から新しく魔物を作り上げる力を手にしたという訳か?」

「そうだよ、父さん」

「なるほど。召喚魔法の中でも最も優れた召喚方法だな。召喚魔法の力を使って他人を守れる冒険者になるんだ」

「勿論そのつもりだよ」


 流石に俺の父は長年冒険者をしていただけあって、理解力が高い。


「レオン、これから冒険の旅に出ると言うのに、こんなに体の大きい魔物が居たのでは不便だろう。しばらくの間、俺が預かってやろうか?」

「え? アッシュおじさんが?」

「ああ。これから冒険で訪れる地域によってはゴブリン族の魔物は歓迎されない場合が多い。過去にゴブリン族は人間を虐殺したり、人間の村を壊滅させたりしているからな」


 ゴブリンと人間の関係か……。

 そんな事、考えてもみなかったな。

 召喚する魔物の種類は慎重に選んだ方が良さそうだ。

 アッシュおじさんは色々な理由をつけてグレートゴブリンを預かると言っているが、多分、彼は一緒に狩りが出来る、力が強い魔物が欲しいだけだろう。


「アッシュおじさん、それならグレートゴブリンの事をよろしく頼むよ」

「ああ、任せておけ。きっと強い魔物に育ててやる。この村の守り神になれるような魔物にな!」


 俺とアッシュおじさんのやり取りを聞いていた父さんは、嬉しそうに俺とリーシアの肩の上に手を置いた。


「リーシア、息子の事をよろしく頼むよ。それからレオン、戦士として仲間を守れる男になれ。すぐに冒険の旅に出るんだ」

「そうするつもりさ。出発は明日の朝にするよ」

「ああ、それまではしっかり休むんだ。冒険に必要な物が有れば、俺かアッシュに言うんだぞ」

「分かったよ。ありがとう、父さん」


 俺とリーシアは、早速冒険の準備を始める事にした。

 まず、冒険に必要なのは武器と防具だ。

 俺の今の装備は、『鉄のブロードソード』と『精霊王の指環』だけだ。

 リーシアは普段、どんな武器を使うのだろうか。

 精霊が使う装備なんて全く想像出来ないな。

 早速アッシュおじさんに相談してみよう。

 彼が営む道具屋は、武器や防具なんかも取り扱っているからな。


「アッシュおじさん、俺とリーシアの装備を探しているんだけど」

「新しい装備が必要という訳か。それなら俺が揃えてやろう」

「ありがとう!」

「ちょっと待っているんだ」


 そう言うと、アッシュおじさんは急いで店の倉庫に戻って行った。

 しばらく待っていると、アッシュおじさんは嬉しそうに微笑みながら、両手一杯に荷物を持ってきた。


「これだけあれば足りるだろう! 俺が冒険者時代に使っていた鎧だ。それからこれは俺が昔、ダンジョンの宝箱の中から見つけた杖だ。リーシアが使うと良いだろう」


 俺はアッシュおじさんから鎧を受け取り、リーシアは新しい魔法の杖を受け取った。

 鎧はかなり高価な物に見える。

 素材は白銀で、装備してみると自分自身の魔力が増幅するような感覚に陥った。

 やっぱりこの鎧は結構高価な物なんじゃないかな……?


「アッシュおじさん、本当にこの鎧、貰っても良いの?」

「ああ、いいとも。その鎧は地下迷宮を攻略するために、魔法都市ザラスで一番腕利きの鍛冶屋に作らせた鎧だ。魔力の回復速度を上げる魔法が掛かっているマジックアイテムだぞ。大切に使うんだ」

「ありがとう!」


 やっぱり高価な鎧だったんだ。

 大切に使わなければならないな。

 リーシアが受け取った杖は、魔力を強化するタイプの杖らしい。

 金属製の短めの杖で、杖の先端には紫色の宝石嵌っている。

 リーシアは受け取った杖を嬉しそうに両手で握ると、杖を上空に掲げて魔力を込めた。

 すると、杖の先端からは流れ星の様な綺麗な光が放出された。

 リーシアが放った見た事もない魔法は、俺が今まで見てきたどんな属性魔法とも違ってた。


「素晴らしい! 俺も過去に精霊とパーティーを組んだ事があったが、魔力の総量でも、魔法のバリエーションでも足元にも及ばなかった。精霊は力が弱い代わり、生まれつき人間よりも強い魔力を持っている」

「そうみたいだね、リーシアには魔術師のポジションを任せようと思っているよ」

「私が魔術師?」

「うん、きっと俺よりも魔力が高いと思うし、精霊は契約者の魔力を糧に成長するんだから、リーシアが大人になる頃には、俺では及ばない程、強い魔法を使いこなす魔術師になれると思うんだ」

「そう……それなら魔術師になるわ!」


 俺と父さんの会話を聞いていたリーシアは、嬉しそうに杖を握りしめて魔術師なると宣言した。

 俺が武器を使って敵の攻撃を防ぎ、リーシアが後方から魔法での援護をする。

 それから、更に魔物を召喚して仲間にすれば、すぐに立派なパーティーになるに違いない。

 だんだん面白くなってきたな……。

 冒険の旅に出たら新しい魔物を召喚した方が良いだろう。

 今日のところは冒険の必要な物を揃えてから早めに休もう。


 最初の目的地は、魔法都市ザラスだ。

 魔法都市には、魔術師や召喚師等の職業の者が多く、魔法学校をはじめとする教育機関等も豊富な都市だ。

 魔法都市で冒険者として正式に登録をし、クエストをこなして冒険者として名をあげるんだ。

 そのためには自分自身も強くならなければならないし、リーシアにも強くなって貰わなければならない。

 それから俺は、アッシュおじさんと父さんに相談しながら、冒険の旅の荷造りをした。


 〈持ち物〉

 ・堅焼きパン(日持ちするパンで、味気はないがカロリーは高い)

 ・干しブドウ

 ・水と葡萄酒

 ・乾燥肉(アッシュおじさんが狩ってきた獲物から作った乾燥肉だ)

 ・ヒールポーション、マナポーション(父が急いで作り上げたポーションだ、大切に使うとしよう)

 ・30ゴールド(冒険の旅の資金だ。少ないかもしれないが、クエストをこなしてお金を稼げば足りなくなる事は無いだろう)

 ・着替えや石鹸など



 冒険の準備が整った俺とリーシアは、その晩、母さんが作ってくれた料理と、アッシュおじさんの肉料理を食べてから、すぐに眠る事にした。

 明日からはついに待ち望んだ冒険の旅に出るんだ……。

 俺は自分の部屋のベッドにリーシアを寝かせて、俺は床に布団を敷いて眠る事にした。


「レオン、私を誘ってくれてありがとう……」

「良いんだよ。俺も仲間が欲しいと思っていたからさ」

「私、こうしてレオンと一緒に居ると毎日が楽しいんだ」

「俺もだよ。リーシアと出会ってからは毎日が楽しい。きっと冒険に出たらもっと面白くなると思うよ。俺は冒険者として自分の人生を切り開くんだ」

「私も……やっと信じられる人に出会えた……」


 リーシアは眠る前に、俺の顔を見つめて嬉しそうに話しかけた。

 よく見てみると、リーシアの紫色の目と銀色の髪は本当に綺麗だな……。

 今はまだ幼いが、父の話だと契約を結んだ精霊は、契約者の魔力を糧に急激に成長し、すぐに大人の体になるのだとか。

 精霊の中には幼い姿のまま、精霊の契約をせずに一生を終える種族も多いらしい。

 リーシアが大人になったらかなりの美人になりそうだな……。


「おやすみ、レオン……」

「おやすみ、リーシア」


 しばらく布団の中で目を瞑っていると、いつの間にか眠りに落ちていた……。

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