第三十八話「レオンの新装備」
俺達はザラスの町の商業区を歩いて、カイから教わった鍛冶屋を探していると、石造りの立派な鍛冶屋を見つけた。
ここがカイのお父さんが営んでいる鍛冶屋か?
店の名前は、『バスラーの武具店』だ。
店の隣には鍛冶屋があり、カイのお父さんと思われる人物とカイが武器を作っている最中だった。
「レオン! 待っていたよ! 父さん、こちらがBランクの冒険者、魔法剣士のレオン・シュタインだよ。魔法学校で同じクラスになるんだ」
「あなたがシュタイン様ですか……この度は息子の命を救って下さってありがとうございました」
「いいえ……俺は当たり前の事をしただけです」
「私は鍛冶師のランベルト・バスラーです。息子を助けて頂いたお礼に、何かアイテムを作らせて下さい」
「え? 良いんですか?」
「勿論です。何でもお申し付け下さい。大切な息子の命を救ってくれたのですから! 私の命を救ってくれたも同然! 私が作れる物なら、なんでも作ります!」
「実は、ノールの武器を手に入れたのですが、その武器を作り変えて貰う事は出来ますか?」
俺はノール達が使っていたクレイモアを馬車から下ろしてランベルトさんに渡した。
ランベルトさんは巨大なクレイモアをいとも簡単に持ち上げた。
クレイモアを握った瞬間、丸太のように太い二の腕の筋肉に血管が浮いた。
まるでベヒモスの様な力強さを感じるな。
身長は190センチ程だろうか。
筋骨隆々で、長く伸ばした黒い髪を結んでいる。
ベルネットさんもかなり体格が良いが、ランベルトさんは規格外の体の大きさをしている。
この人が鍛えた武器が欲しい……。
「これは素晴らしいクレイモアですね。しかし、普通の冒険者が使うには重すぎる。どんなアイテムに作り変えましょうか?」
「そうですね……火属性の魔力を強化する全身装備が欲しいと思っているのですが……」
「それでは、今使っている装備とクレイモアを溶かして新しい装備を作り変えましょう。実はシュタイン様が装備している白銀のメイル、その装備は私が作った物です」
「そうなんですか!?」
「はい。もう十年か十五年近く前の事でしょうか。気の良い狩人に頼まれて作った品です」
「この鎧は、その狩人から頂いたんです。アルシュ村で道具屋を営む、アッシュ・ブルクハルト氏から」
「そうかそうか……あの者が自分の鎧を託す冒険者、レオン・シュタイン。弱冠十七歳にしてBランクまで上り詰め、二体の幻獣を討伐し、ザラスのダンジョンを初攻略したという……英雄的冒険者。良いでしょう、私がシュタイン様のために最高の装備を揃えます!」
「よろしくお願いします!」
俺はランベルトさんと固い握手を交わすと、俺は自分の装備を全てランベルトさんに渡した。
渡した装備は、『火炎のブロードソード』『鋼鉄のダガー』『白銀の鎧』『白銀のガントレット』『白銀のグリーヴ』だ。
ランベルトさんは装備を作り直して、火属性の魔力を強化するマジックアイテムに変えてくれるらしい。
「明日の朝にはお渡し出来るでしょう! カイ、手伝ってくれるね?」
「勿論だよ! 父さん。俺もレオンに恩返しをしたいんだ!」
「それじゃ、シュタイン様。明日の朝にお越し下さい」
「よろしくお願いします」
二人と別れた俺達は、町をぶらぶらと歩きながら、ノーラと待ち合わせをしている酒場に向かった……。
酒場は商業区の中でも宿が密集しているエリアにあり、冒険者の姿も多い。
クエストを完了して帰路に就く冒険者や、他の都市からザラスに行商に来た商人等の姿が多い。
酒場の前で待っていると、ノーラが嬉しそうに走ってきた。
「お待たせ! レオン!」
「俺達も今来たばかりだよ、酒場に入ろうか」
今日の宴のメンバーは、俺、リーシア、シルヴィア、リリー、ルル、ノーラだ。
これからパーティーとして長い時間、共に過ごす事になる仲間達だ。
酒場に入った俺達は、空いている席を見つけて座った。
俺の両隣にはリーシアとシルヴィアが。
向かいの席にはルルとノーラが座った。
リリーは俺の肩の上に乗っている。
ここは普段ならゲイザーのボジションだが、ゲイザーは現在、ザラスの外で他の魔物達と一緒に居る。
多分この時間は、ザラスからほど近い森の中で野営をしているだろう。
肉料理とサラダ、葡萄酒を頼んだ俺達は、ゆっくりと今後のパーティーの方針について話し合う事にした。
「まずは自己紹介しようか。俺はこのパーティーのリーダー。冒険者ギルドのBランクの魔法剣士、レオン・シュタインだ」
「私はレオンと契約をしている精霊のリーシアです。魔術師をしています」
「幻獣のウィンドデビル。Bランクの魔法剣士でレオンとリーシアを守る召喚獣よ」
俺達が自己紹介をすると、リリーが恥ずかしそうに俺の髪を掴んで肩の上で見上げている事に気がついた。
「彼女は幻獣のホーリーフェアリー。名前はリリーだよ」
「私は獣人のルル・フランツ。冒険者ギルドに所属しているDランクの魔法剣士です」
「私はアインシュタットの商人ギルドに所属する商人、ノーラ・ブラントです。野盗に襲われている所をレオン達に助けられました……レオンが居なければ今頃私は死んでいたでしょう。これから私はレオンの専属の商人になります」
「え? 専属?」
「そうよ。私は商人としてレオンのパーティーに入るの」
「それは頼もしいな。専属の商人か……」
しばらく話していると料理が運ばれてきた。
ホワイトウルフという魔獣クラスの魔物の肉を使ったステーキだ。
大皿の上には分厚いステーキが何枚も盛られている。
俺はリリーのためにステーキを小さく切って小皿に盛ると、リリーは嬉しそうにステーキを食べ始めた。
さて、俺はお酒を頂くか。
葡萄酒をゴブレットに注ぎ、口に含む。
旨い葡萄酒だな……。
信頼できる仲間とこうして共に食事が出来る事が幸せだ。
この生活を守りながら、この世界で成り上がるには、どうしたら良いだろうか。
リーシアだってシルヴィアだって、俺に人生を掛けてくれている。
他の仲間も同様に、俺に命を預けてくれ、命令も忠実に聞いてくれる。
俺はそんな仲間を幸せになって貰いたい。
最高の冒険者になり、この世界で一番名の通ったパーティーになるんだ……。
「ねぇ、レオン。レオンが召喚した魔物の大半は、普段は外で野営をしているんだよね」
「そうだよ、ノーラ」
「考えたのだけど、このままのペースで召喚獣が増えれば、野営をするにもかなり大規模になってしまうし、ザラスが所有する土地で毎日野営をするのも、ちょっとどうかと思うんだ……」
「確かに……ザラス付近の魔物を狩って、地域の安全を守っているとは言え、毎日同じ場所で野営をするのはね……だけど、ザラス内で俺の仲間が滞在できるような場所は無いと思う」
「そこで、私にアイディアがあるの。ザラスから少し離れた安い土地を買い取って、本拠地を作るのはどうだろう?」
「本拠地だって!?」
「そうよ。魔物達が安心して休める環境だって必要だと思うんだ。レオンの大切な仲間なのでしょう?」
本拠地を作るなんて考えてもみなかったな。
やはり、商人という人間はかなり知能が高いのだろうか。
俺の様な教養の無い田舎者には思いもつかない事を次から次へと提案してくれる。
ノーラと出会えたのは本当に運が良かった……。
俺はゴブレットの中の葡萄酒を飲み干すと、本拠地作りについた話を続ける事にした。