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第三十六話「古代遺跡」

 三十分程馬車を走らせると、ベルネットさんが言っていた古代の遺跡だろうか、大きな石の建造物が見えてきた。

 どうやらここはかつての町なのか、石を切り出して作ったような建物がいくつも並んでいる。


「レオン、どうやらあそこが古代遺跡みたいね」

「うん、そうみたいだね。近くに馬車を停めよう」


 俺は馬に命令して、古代遺跡の近くに馬車を停めた。

 必要最低限の食料等を鞄に入れて背負う。

 古代遺跡に入る前に、武器と装備の点検を行った。

 防具の留め具はしっかり留っているか。

 武器は壊れていないか。

 予備の武器として、俺は野盗が使っていたダガーを腰に差した。

 自分の足を刺されたダガーを装備するとは、なんとも変な気分だが……。

 ザラスに帰ったらカイの店に寄って予備の武器を作ってもらおうか。


「皆、準備は良いかな?」

「うん……」

「俺とルルが先に進むから、リーシアとシルヴィアはすぐ後ろから付いて来てね」

「分かったよ」


 古代遺跡の入り口だろうか、大きな石の門が建っている。

 俺は武器を抜いてルルに目配せすると、彼女はレイピアを抜いて剣に魔力を込めた。

 慎重に進まなければならないな。

 俺達は誰一人としてノールという魔物と戦った事が無い。

 ベルネットさんは討伐の難易度はDランク程度と言っていたが……。


 苔むした遺跡の中を進むと、古代の民家だろうか、小さな家を見つけた。

 石を削って作ったような家で、中に入ってみると意外と涼しく、快適な感じだ。

 家の中には、つい最近まで誰かが住んでいたような形跡があった。

 食べ残した料理がそのまま放置されており、料理には見た事もない小さな虫が入っている。

 それ以外にも部屋の中には男性物と思われるコートと、履き古した革の靴が置かれている。

 一体誰がこんな場所でに泊まりしていたのだろう。

 もしかしたら野盗の様な人間が、今も遺跡の中に居て、俺達の事を狙っているかもしれないな。


「皆。誰かここに居たみたいだよ。気をつけるように」


 俺は仲間に注意を促すと、仲間達は武器を握りしめて緊張した表情を浮かべた。

 俺は剣に火の魔力を込めておいた。

 攻撃は事前に用意しておいた方が、素早く敵襲に反応出来るからな。


「随分沢山家があるのね。全部調べて回るつもり?」

「そうだね、念のため家の中を覗きながら進もうか。どこにノールが潜んで居るか分からないし」

「でも、こんな小さな家の中にノールは居るのかしら?」

「さぁね、生まれたばかりのノールが隠れているかもしれないし、ノール以外にも敵が居るかもしれないから……」

「確かにそうね」


 遺跡の家の中を、一軒ずつ見て回り、更に遺跡の奥へと進む。

 段々と森が深くなってきたな。

 入口から十五分程進むと、まるで遺跡は自然と一体化しているかのように、かつては立派だっただろう背の高い建物も、今では建物全体が苔むしていて、なんとも言えない雰囲気を漂わせている。

 俺達はゆっくりと遺跡を進んでいると、ある異変に気が付いた。

 見られている……。

 複数の視線を感じる。

 どこからだ?


「ルル、どうやら監視されているみたいだよ」

「そうみたいね……」


 剣を握りしめて辺りを見回した。

 複数の視線とわずかな殺気を感じるが、敵がどこに潜んで居るかは見当がつかない。

 しばらく進むと、開けた広場の様な場所に出た。


 広場には人間の物と思われる荷物が散乱している。

 冒険に持ち運ぶような小さくて軽い鍋、雨風を受けて錆びついたナイフ。

 男性物の服に、折れた剣。

 ここで冒険者が死んだんだ……。

 こうはなりたくないな。

 広場に面する家の中を見て回っていると、一軒の家の中に白骨化した冒険者の亡骸を見つけた。


「ここで殺されたみたいね」

「ああ、そうみたいだね」


 俺達が家に入った瞬間、広場からは禍々しい魔力を感じた。

 殺意を持つ魔物の魔力で間違いないだろう。

 急いで外に飛び出すと、体の大きい三体のノールが両刃の大剣を持って牙を剥いていた。

 大剣は二メートル程は有るだろうか、俺ではとても扱えそうもない剣を、いとも容易く片手で持って構えている。

 赤色の体毛で、二本の足で直立している狼系の魔物。

 ベルネットさんが討伐を命令したノールに間違い無さそうだ。

 敵は三体、俺達は四人。

 人数的には勝っているが……。


「レオン……」


 リーシアが怯えた目で俺を見ている。

 きっと怖いのだろう。

 俺だってこんな魔物と戦うのは怖い。

 だが、誰かが殺さなければならないんだ。

 俺がやってやる……。

 俺が剣を構え直すと、ノール達は襲い掛かってきた。


 俺とルルはリーシアとシルヴィアを守るために前に出た。

 剣に込めた火の魔力で敵を撃つ。


『ファイア!』


 剣をノールに向けて魔法を唱えると、剣の先からは強い炎が噴き出した。

 ノールは俺の攻撃を簡単に回避すると、クレイモアを片手で持ち上げて水平切りを放ってきた。

 俺はノールの攻撃を防御せずに屈んで回避した。

 危なかった……。

 無理に敵の攻撃を受けると、ブロードソードが折れてしまうかもしれないからな。


 ルルは一体のノールを挑発しておびき寄せた。

 リーシアはノールの足元にアイスの魔法を唱えて、残る一体のノールの動きを鈍らせているが、ノールにはあまり通用していない。

 足元を凍らせても、ノールは力ずくでリーシアの氷を破り、突き進んでくる。

 シルヴィアはリーシアに加勢し、次々とウィンドエッジを放っているが、ノールはクレイモアを使って全て叩き切っている。

 まずい状況だな。

 俺が一番最初にノールを殺して仲間に加勢しなければ。


 俺と戦っているノールは、三体のノールの中でも一番背が高く、筋肉の量も多い。

 随分戦い慣れているのか、俺との距離を慎重に測りながら、クレイモアによる突きを放ってきた。

 俺はノールの突きをブロードソードで受け流し、一気のノールの懐に飛び込んだ。


『ファイアボルト!』


 ノールの間合いまで飛び込んだ俺は、左手を向けて魔法を唱えた。

 瞬間、炎の矢がノールに向かって発射されたが、ノールは俺が放った矢を爪で切り裂いた。

 切り裂かれた炎の矢は、火を散らして消滅した。

 ありえない……。

 クレイモアだけが武器だと思っていたが、ノールの爪の攻撃は俺のファイアボルトをも凌駕するのか……。

 俺はすぐに次の攻撃を仕掛けた。


『アローシャワー!』


 左手を向けて魔法を唱えた瞬間、七本の炎の矢がノールに向かって飛び出した。

 近距離で複数の攻撃を一度に仕掛けられた事に驚いたのか、ノールは一瞬反応が遅れてから、クレイモアを地面に突き立てた。

 クレイモアの背後に隠れるように姿勢を低くしている。

 こうなれば俺の勝利は確定したも同然だ。


『ファイア!』


 左手を向けて炎を放つと、ノールはクレイモアの影に隠れた。

 左手で炎を放射しながら、ノールとの距離を詰める。

 ノールがクレイモアの影から飛び出した瞬間、ブロードソードの一撃で決めてやる。

 更にノールとの距離を詰めると、クレイモアの影から俺の様子を覗いていたノールはついに武器を捨てて飛び出してきた。


『ファイアブロー!』


 右手に構えたブロードソードを水平に走らせて魔法を唱えると、三日月状の炎の刃がノールに襲い掛かった。

 ノールは両腕を体の前に交差させて防御するも、俺の攻撃はノールの両腕を切り離した。

 地面にはノールの腕が落ちた。

 俺の勝ちだ。

 俺は一気にノールとの距離を詰め、剣を向けた。


『ファイア!』


 剣の先から放たれた炎を、ノールは正面から受けた。

 肉と血の焼ける匂いが遺跡に広がった。

 俺がノールを仕留めた瞬間、ルルもノールに止めを刺していた。

 ルルのレイピアがノールの首に突き刺さり、首には強い雷が流されていた。

 流石ルルだ……。

 ルルは余裕の表情を浮かべてレイピアを引き抜くと、すぐに最後のノールの元に向かった。


 リーシアとシルヴィアはだいぶ手こずっているのか、魔力だけ大幅に消費していて、ノールの体には傷一つ付いていない。

 俺とルルはノールの背後に立つと、ノールは危険を感じたのか、広場に落ちているクレイモアを拾い上げると、二本のクレイモアを構えて俺達を威嚇した。

 あまり賢いアイディアではないな。

 攻撃速度の遅い武器を二本も持つとは。

 いくらノールの筋肉が発達していたとしても、大剣を両手で一本ずつ扱う事は出来ないだろう。

 ノールは俺達に対して垂直切りを放ってきたが、ノールの攻撃は遅かった。

 武器を二本持つ戦いに慣れていないのだろう、俺はノールの攻撃をかわすと、左手に魔力を込めて放った。


『ファイアボール!』


 小さな炎の球がノールの腹部に当たると、爆発を起こして肉を焼いた。

 勝てる!


 俺の攻撃が決まった瞬間から総攻撃が始まった。

 ルルはノールと距離を取り、次々とサンダーブローを放った。

 俺はノールの攻撃を回避しながら、ファイアボルトを撃ち、ノールの体に風穴を開けた。

 リーシアは上空に作り上げた氷の剣を降らせてノールの体力を削り、シルヴィアが放ったゲイルランスを頭に受けて、ノールは命を落とした。


「強かったね……」


 最初に口を開いたのはリーシアだった。

 確かにノール達は抜群に強かった。

 今まで出会ったどの魔物よりも強かったかもしれない。

 仲間にしたい……。

 これだけ強い仲間が居れば、俺の第二パーティーも最強に近づけるだろう。

 俺はノールの素材の中から、強い魔力を放つ物を一つだけ選んだ。

 俺が一番最初に倒したノールの右腕だ。

 この素材を使って召喚を行おう。


「ノールを召喚するよ」


 俺は仲間に召喚を知らせてから、素材を広場の中心に置いた。

 マナポーションを一口飲んでから魔力を回復させると、早速召喚に取り掛かる事にした。

 素材に両手を向けて魔力を放つ。


『ノール・召喚!』


 魔力を受けた素材は、強い光を辺りに放つと、俺の体からは大量の魔力が失われた。

 まるで幻獣クラスの魔物の召喚の様だ。

 どれだけ強い魔物だったか理解出来るな。

 魔力を注ぎ、新しく生まれるノールを頭の中でイメージする。

 俺達の命を守る、強くて温厚なノールが生まれますように。

 しばらく魔力を注ぎ続けると、ノールが放った光の中からは、背の高い魔物が姿を現した。

 赤くてふわふわした毛に、優しそうな獣の目。

 二本の足で大地に立ち、俺の顔を見つめている。

 体長は二メートル程だ。

 ノールは生まれて来るや否や、広間に散らかったノール亡骸を見た。

 亡骸の中から、一本のクレイモアを拾うと、嬉しそうに振り回した。


「ノール。俺は君を召喚した、レオン・シュタインだ」

「……」


 剣を振り回す手を止めて俺の方を見ている。

 ゆっくり近づいてくると、クレイモアを地面に突き刺して跪いた。

 まるで騎士の様で格好良いな。

 俺はノールの体に触れると、ノールは嬉しそうに顔を上げて剣を引き抜いた。

 頼もしい仲間が生まれた様だ。

 ノールは魔獣クラスの魔物のはずだが、知能もかなり高そうだ。


 こうして俺達は魔獣のノールを新しい仲間に加えて、古代遺跡の探索を再開した。

 三体のノール以外にも、他に四体のノールが遺跡の中に隠れていたが、皆で力を合わせてノールを討伐した。

 俺は討伐を証明するために、ノールの左手を切り取って持ち帰る事にした。

 それから、カイに頼まれているノールの武器も集めなければならないな。

 ノールが使っていたクレイモアを回収して馬車に乗せると、俺達はザラスに向けて馬車を走らせた……。

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