第三十四話「冒険者との出会い」
オークとの戦闘に勝利した瞬間、冒険者は気を失って倒れた。
冒険者が倒れた瞬間、彼が作り上げたゴーレムは崩れて消滅した。
「大丈夫か!」
「……」
返事がない。
きっとゴーレムを作り上げた事によって魔力を大幅に消費したのだろう。
俺達が駆けつけなければ彼はオークを倒す事が出来たのだろうか。
「リーシア、地上に戻ろう!」
「うん!」
俺は四体のオークから牙を引き抜き、素材を回収してから、冒険者を担いでダンジョンの外に出た……。
ダンジョンの外では、シルヴィアとルルが楽しそうに昼ご飯を食べていた。
二人は俺達に気が付くと、血相を変えて駆け寄ってきた。
「レオン! 大丈夫?」
「ああ、俺は大丈夫だよ。ダンジョンでオークと戦ったんだ」
「オーク……二人が無事なら良かったわ」
俺はダンジョンから少し離れた場所に冒険者を寝かせると、リーシアは彼の体に向けて魔法を唱えた。
『ヒール』
リーシアが魔法を唱えると、冒険者の体に付いていた無数の傷は一瞬で塞がった。
だが、体から失われた魔力はまだ回復していない。
俺は右手を彼の体に当てて魔力を分ける事にした。
聖属性の魔力を体からかき集め、手に集中させる。
魔力は俺の手を通って、少しずつ冒険者の体に流れた。
しばらく魔力を注いでいると、冒険者は意識を取り戻した。
「ここは……?」
「ダンジョンの前だよ。君はゴーレムを作った瞬間、意識を失ったんだ」
「そうか……助けてくれてありがとう」
「良いんだよ。俺は冒険者のレオン・シュタインだ」
「レオン・シュタイン? 魔法学校を一位で合格したあのレオン・シュタイン?」
「そう言われると恥ずかしいけど……」
「まさか今日出会えるとは! 俺も来月から魔法学校に入学が決まっているんだ。鍛冶師の、カイ・バスラーだよ」
カイ・バスラー?
確かにこの名前は聞いた事がある。
「レオン、入学試験で六位だった人じゃない?」
「よく覚えているね、シルヴィア」
「うん、一度聞いた事は大体覚えているわ」
そうだ、確かに彼は入学試験を六位で合格した受験生だ。
思い出したぞ。
受験会場でも彼の事を見ていたのに、どうして今まで気が付かなかったのだろう。
「レオン君達が来てくれなかったら今頃死んでいたかもしれない……本当にありがとう!」
「レオンで良いよ。気にしないでくれ」
「そうか……レオン。俺の事はカイって呼んでくれ」
「わかったよ、カイ。それで、どうして一人でオークと戦っていたんだい?」
「魔法学校に入学する前に、オークを倒して斧を奪いたかったんだ」
「オークの斧を?」
「そうなんだ。俺は鍛冶師なんだけど、オークの武器には質の良い金属が使われているんだ。俺はその金属を溶かして新しい武器を作ろうと思っていたんだ」
「確かに、凄い切れ味だったからな。俺の攻撃も叩き切られたし」
カイはオークの斧が必要だったのか。
俺はもう一度ダンジョンに戻って、オークの斧を四本取って来てからカイに渡した。
「これが必要だったんだろう?」
「わざわざ持ってきてくれてありがとう! この恩はいつかきっと返すよ!」
「気にしなくて良いよ」
「いいや、そんな訳にはいかないよ! そうだ、俺に武器か防具を作らせてくれないか!?」
「え? 武器か防具を?」
「ああ、俺の家はザラスで鍛冶屋を営んでいて、俺は鍛冶屋の息子。装備を作る環境なら整ってるんだ。欲しい装備があれば言ってくれよ。すぐに作るからさ」
「ありがとう。それじゃ今度遊びに行ってもいいかな」
「勿論さ! いつでも来てくれ! レオンは命の恩人だからね」
こんなところで特待生に出会えるとは思わなかったな。
入学前にルルとカイと出会えた事は本当に喜ばしい事だ。
正直、学校に入って友達が出来るか不安だったから……。
それからカイと話してみると、カイはDランクの冒険者で、地属性の魔法が得意だと聞いた。
さっきのゴーレムは石のゴーレムだったが、土のゴーレムを作る事も出来るらしい。
地属性か……挑戦した事もないな。
さて、そろそろノールの討伐に向かわなければならないな。
「カイ、俺達はこれからノールの討伐に行かなきゃならないんだ。近いうちに遊びに行くよ」
「ノール? それは良い! 良かったらノールが使っている装備を持ち帰って来てくれないかな? ノールが使う武器の研究もしてみたいんだ」
「ああ、それならお安い御用だよ。持てるだけ持ち帰ってくるね」
「ありがとう! 楽しみに待ってるよ」
俺達はカイをザラスまで馬車で送ってから、古代遺跡に向けて出発した……。
〈古代遺跡までの道〉
古代遺跡はザラスから北東の道を一時間ほど馬車で進めば着くとの説明を、ベルセットさんから受けた。
御者席には俺とリーシアが乗り、荷台にはルルとシルヴィアが乗っている。
古代遺跡に巣食うノールか……数が少なければ良いのだが。
しかし、遺跡やダンジョンという言葉を聞くと、無性にワクワクしてくるのはどうしてだろうか。
「レオン、古代遺跡ってどんなところだろうね」
「さぁね、行ってみないと分からないけど、昔の人達が住んでいた場所じゃないかな」
「そうなんだ。私が暮らしていてた精霊の森の中にも遺跡があったんだよ。人間と精霊が契約を交わす神殿だったんだって」
「人間と精霊が?」
「うん、昔は人間と精霊が契約を交わすためには、精霊王に認められた人間が精霊の森の神殿を訪れて契約していたらしいの。精霊は契約者に加護を与え、契約者は精霊に魔力を与える」
「今の俺とリーシアの関係だね」
「そう。昔から人間と精霊は力を合わせて生きていたんだけど、精霊の加護欲しさのために、無理やり精霊を脅して契約をする人間が現れてからは、人間を精霊の森に招く事は無くなった」
精霊の加護を貰うために精霊を脅すのか。
恐ろしい人間も居たものだ。
しかし、俺はリーシアと契約をした事によって、さほど魔力が消費している感じはない。
もしかしてリーシアが俺から吸収する魔力を調整しているからだろうか?
「リーシア、俺と精霊の契約をする事によって、俺自身の魔力を糧に成長しているんだよね?」
「うん、もうほとんど魔力は貰ってないけどね。多分、契約を解除したら、レオンの本来の魔力を使えると思うよ」
「俺本来の魔力?」
「そう。レオンは私と契約をしているだけで魔力を消費しているの。私との契約を辞めれば、レオンは自分自身の本当の力を発揮出来るわ」
「何だって……?」
確かに、よく考えてみれば、リーシアは俺の魔力を糧に成長しているのだから、契約を辞めれば、リーシアに提供していた魔力の分だけ、俺の魔力は元に戻る。
しかし、俺の方から契約を辞める気はない。
リーシアは既に大人の体にし、出会った頃と比べれば体から感じる魔力も比較にならない程強い。
「ねぇ、レオン。このままずっと私と契約していて欲しいの。精霊の契約は長くても一年。精霊が成長を終えるまで、契約者は自身の魔力を提供し、精霊は対価として、自分自身の加護を契約者に授ける」
詳しくリーシアから説明を聞くと、通常は契約者に対して精霊自身の能力を加護として授けるらしい。
リーシアは対象に加護を授ける力を持たないで生まれた希少種なんだとか。
ほぼ全ての精霊は、対象に加護を授ける力を持つという。
加護を授ける力を持たない精霊は、精霊王の力によって対象と精霊の契約を結ぶ効果がある指環を頂く事が出来るのだとか。
「それじゃ加護を授ける力を持っている精霊は、指環を装備しなくても加護を与えられるのかい?」
「そうだよ。レオンがさっき妖精から加護を受けたでしょう?」
「ああ、あんな感じなんだね」
「そう、妖精の加護は契約者の意思に関係なく加護を与えられる。ただ気に入った相手に加護を与えるだけで、妖精は契約者から魔力を頂く訳でもないの」
こうして加護の説明を聞く事も初めてだったな。
精霊は人間以外の種族にも加護を与える事があるらしい。
ちなみに、リーシアのお父さんはエルフの女性と精霊の契約を交わしていたのだとか。
契約を辞めると、自分自身の本来の魔力を使う事が出来るのか。
勿論、契約を解除すれば精霊王の力である、召喚魔法を使う事は出来なくなる。
それだけは避けたいし、契約を解除すれば、俺とリーシアの関係も終わってしまう様な気がする。
「リーシア、俺達はこのまま契約をしていようよ。俺はリーシアと一緒に居たい」
「私も……」
リーシアはそう言うと俺の手を握った。
彼女の手には俺とお揃いの精霊王の指環が嵌っている。
他人が見れば、お揃いの指環をしている訳だから、恋人同士に見えるのかもしれない。
このまま良好な関係を維持しながら、リーシアと共に冒険者としてこの世界で生きていきたい……。
ザラスから出発して大体三十分は経っただろうか。
森の中の林道をゆっくりと進んでいると、道の先の方で煙が上がっていた。
よく目を凝らしてみると、馬車が火を上げて燃えている。
馬車の周りには、松明を手に持った野盗の様な集団が取り囲んでいた。
急いで馬車を進めると、煙の中から一人の女性が走ってきた……。
只事ではないな。
俺は馬車から飛び降りて女性に駆け寄ると、女性は俺の目の前で意識を失った。
助けなければならない……。
俺が女性を抱き抱えると、野盗達が俺達の馬車を取り囲んだ。
人数は七人。
どうやら俺達を殺すつもりなのか、剣を抜いて構えている。
まずい事になったな。
俺は抱き抱えた女性を急いで御者席に乗せると、ブロードソードを引き抜いた……。