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第三話「新たな仲間」

 〈翌朝〉


 朽ち果てた教会の中に差し込む、心地の良い朝の日の光に照らされて目を覚ました。

 俺の腕の中では、リーシアがスヤスヤと心地良さそうに眠っている。

 俺は一人で寝たはずなのに、どうして俺の腕の中にリーシアが?

 彼女の体から感じる魔力は、初めて会った時の様な弱々しい感じではなく、強力な生命体が持つ魔力そのものだ。

 力強さを感じるが、不思議と心地良さも感じる。

 しばらくすると、リーシアは眠たそうに目を擦りながら起き上がった。


「おはよう、リーシア。だいぶ元気になったかな?」

「うん……良くなったよ」

「それなら良かった」

「レオン、今日は何をするの?」


 すっかり目を覚ましたリーシアは、昨日よりもかなり元気な口調で俺に話しかけた。

 リーシアとはなんだか良い友達になれそうだ。

 彼女さえ良ければ、俺の仲間になって貰って一緒に魔物を探しに行きたい。

 精霊は人間よりも遥かに強い魔力を持つ生き物だ。

 リーシアが魔法を使えるなら、俺は戦士として戦いに集中出来る。


「リーシア、俺は冒険者になりたいんだ。リーシアさえ良ければ、しばらく俺と一緒に行動しないかい?」

「冒険者に?」

「ああ、俺は戦士として冒険者になるんだ。世界中を旅したり、ダンジョンや迷宮に潜ってお宝を探したいんだ」

「ダンジョン……? 迷宮? 楽しそう!」


 俺が誘うとリーシアは無邪気に喜んだ。

 嬉しそうに喜ぶリーシアは、生き生きとしていて本当に可愛いな。

 昨日とは別人のように、活力に満ちている感じがする。

 俺と出会った事でリーシアが元気になってくれたなら、俺もこの場所に来た意味があったようだ。

 廃村に来て良かったな。


「レオン……ありがとう」


 リーシアは急に改まった表情で俺を見た。

 どうして彼女が弱り切った状態で教会に居たのか、人間の村に行くと俺が言った時、少し嫌そうな顔をしたかを聞きたい気持ちはあるが、彼女の過去を詮索するような野暮なマネはしたくない。

 誰だって人に話したくない過去は存在する。

 俺はそういう過去を暴こうとする人間が大嫌いだ。

 人には弱いところもある。

 そういう部分を認めてあげられる人間になりたい。

 だから俺はリーシアの過去を詮索するつもりはない。


「良いんだよ。俺の仲間になってくれるかい」

「うん……レオンの仲間になる……」

「ありがとう」


 こうして精霊のリーシアは俺の仲間になった。

 リーシアは思い出した様な表情を浮かべると、教会の床に置いていた古ぼけた本を俺に手渡した。

 一体何の本だろうか。


「レオンにあげる。他の人間が欲しがってた本」

「え? 俺にくれるのかい?」

「うん……」

「ありがとう」


 本の表紙には、『精霊の書』と書かれている。

 精霊に関する本なのだろうか。

 俺は手に取った本を開くと、中には銀色の指環が二つ嵌っていた。

 俺は指環を見た瞬間、これは高価なアイテムに違いないと思った。

 指環から感じる魔力が、今まで俺が触れた事のあるどんなアイテムよりも強かったからだ。

 指環が(はま)っているページの下の方には指環の説明が書かれている。

 俺は早速、二つの指環の説明を読む事にした。



 『精霊王の指環』


 1.この指環は精霊との契約を交わす指環である。

 片方の指環を精霊が、片方の指環を契約者が装備する事により、精霊は契約者の魔力を糧に成長し、契約者は自身の魔力を精霊に提供する代わり、精霊王の加護を授かる事が出来る。


 2.精霊王の加護

 精霊王の加護は、魔物の素材を用いて新しく魔物を召喚する、召喚魔法の中でも最も優れた召喚方法である。

 素材が持つ魔力の強さに比例して、生まれてくる魔物の強さは変化する。



「本当に貰っても良いのかい?」

「うん、レオンは私を助けてくれたから……あなたに契約をして欲しい」


 精霊王の加護か……。

 精霊王とやらがリーシアにこの二つの指環を渡したという事だろうか?

 魔物の素材から新しく魔物を作り上げる?

 召喚魔法?

 何だか凄すぎて俺の理解が追い付かないな。

 兎に角、深く考えるより指環を嵌めてみよう。

 リーシアは俺と契約したがっている訳だし。


「分かったよ、この指環を嵌めれば良いんだね」

「うん」


 俺は本の中から、二つの指環を取り出して、片方の指環をリーシアの右手の薬指に嵌めた。

 そして、もう片方の指環は自分の左手の中指に嵌めた。

 指輪の位置に意味はない、お互いその指が丁度良かったからだ。

 俺とリーシアが指環を装備すると、俺の体には、感じた事のない魔力が入ってくる感覚に陥った。

 二つの指環は共鳴しあう様に強く光り輝くと、次第に輝きを失って普通の指環へと戻った。


 俺はリーシアの方を見てみると、指環を装備してからのリーシアは、さっきまでの弱った彼女とは比べ物にならない程、体から強い魔力を感じる事に気が付いた。

 確か、『精霊は契約者の魔力を糧に成長する』と書いてあったな。

 俺自身の魔力が強ければ強い程、リーシアは強力な精霊として育つという事だろう。


「レオン、なんだか調子が良いよ!」

「ああ、随分元気になったみたいだね」

「うん! これならすぐにでも冒険の旅に出られる!」

「ところがそういう訳にはいかないんだな……」

「え? どうして?」


 俺が冒険の旅に出るには、魔物を手懐けて父の元に連れて行かなければならない。

 魔物か……。

 うん……?

 精霊王の加護って魔物を素材から召喚する力じゃなかったか?

 今から魔物の素材を使って召喚すれば良いだけじゃないか。


「リーシア! 早速魔物を召喚してみよう!」

「うん!」


 俺は昨日倒したグレートゴブリンの牙を、鞄の中から取り出して教会の床に置いた。

 召喚の詳しい方法は知らないが、本には魔物の素材に魔力を注いで新しく魔物を生み出すと書いてある。

 考えるよりはまず挑戦してみよう。


 俺はグレートゴブリンの牙に魔力を込めた。

 俺の命令を忠実に聞く、気の優しいゴブリンが生まれますように……。

 体中から魔力を集めて、グレートゴブリンの牙に注ぐと、素材は強い光を教会の中に放った。

 しばらくすると、素材が輝いていた場所からは、俺が昨日倒したグレートゴブリンが生まれた。


「本当に魔物が生まれた……これが精霊王の加護か!?」


 新しく生まれたグレートゴブリンは、昨日出会ったグレートゴブリンよりも体は小さいが、表情は穏やかで、知性を感じられる顔つきをしている。

 これで父が提示した条件はクリアしたという訳か……。


「俺はレオン・シュタインだよ。よろしく」

「……」


 グレートゴブリンは静かに頷くと、リーシアの方を見て軽く頭を下げた。

 案外知能は高いのかもしれない。

 グレートゴブリンは生まれてくるや否や、ブラックウルフのスープを食べたそうな目で見つめている。

 きっとお腹が空いているのだろう。

 それに、アッシュおじさんが狩ってきたブラックウルフの肉は、信じられないくらい柔らかくて、抜群い美味しい。


「好きなだけ食べて良いよ。お前は俺の仲間なんだからな」

「……」


 グレートゴブリンは嬉しそうに頷くと、美味しそうにスープを食べ始めた。

 こうして俺とリーシア、グレートゴブリンのパーティーが完成した……。

 明日の朝、父の待つ家に帰って冒険者になる許可を貰おう。


「レオン、これで冒険の旅に出られるね!」

「そうだね、俺は戦士になりたいんだ。欲を言えば、父の様に魔法も使える冒険者になりたい」

「レオンならなれるよ。なんとなく、そんな気がするの」


 俺は魔法と武器を使った攻撃、両方をこなせる冒険者になりたい。

 リーシアには魔法を任せよう。

 グレートゴブリンには……。

 俺はグレートゴブリンの方を見ると、まだ食べたり無いのか、お腹をさすって俺の方を見ている。


「分かったよ。まだ食べ足りないんだね」

「……」

 

 彼は静かに頷くと、俺の方を見て微笑んだ。

 俺は家から持ってきた食料を、全てリーシアとグレートゴブリンに渡すと、先に休む事にした。

 明日も忙しくなるな。

 明日はついに俺が冒険者になる日だ。

 教会の床に横になると、知らない間に眠りに落ちていた……。

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