第二十六話「戦闘能力試験」
〈戦闘能力試験〉
戦闘能力試験の会場は、校庭を更に奥に進んだ場所にある闘技場だった。
闘技場は円形で背の高い石造りの建物だ。
俺達受験生はクラッセンさんに案内されて闘技場の中に入った。
円形の闘技場は、魔物との戦闘専用に作られた建物といった感じだ。
中央が闘技をする空間で、闘技場を見下ろすように観客席が設置されている。
「試験内容をお伝えします! 今回の戦闘能力試験は、魔獣・ゴーストの討伐です!」
ゴーストの討伐?
物理攻撃が一切通用しない魔物で、体の大きさは個体によって異なる。
闇属性の魔法を得意とし、人の正気を奪う魔法の使い手でもある。
「尚、試験中の怪我につきましては、回復魔法を得意とする魔術師を待機させておりますので、ご安心下さい」
試験の説明を聞くと、受験生は召喚魔法の課目を担当している先生が作り出したゴーストと戦闘を行い、一体討伐するごとに50点が加算されるらしい。
ゴーストは受験生に対して攻撃を行うが、命を奪う攻撃、致命傷等を与える事はないのだとか。
日常的に命のやり取りをしている俺からすると、この試験の内容は優しすぎる。
殺すつもりのないモンスターとの戦闘か……。
クラッセンさんが召喚魔法を担当する先生を呼んでくると、すぐに試験の準備が始まった。
広い闘技場の中には、クラッセンさんが杖を一振りすると、小さな朽ち果てた家が次々と姿を現した。
これが今回ゴーストとの戦闘を行う場所らしい。
まるで俺がリーシアと出会った廃村の様だ。
「今回の試験は三十人ずつ行います! ゴーストの数に限りはありませんが、より多くの得点を稼ぐには、建物の中を探索し、ゴーストを見つけ出して殺さなければなりません。また、試験中にリタイアを望む生徒は、空に青い光を打ち上げて下さい。尚、制限時間は十五分間です」
クラッセンさんの説明によると、青い光を打ち上げた生徒に対しては、ゴーストは攻撃を仕掛けないらしい。
リタイアをした時点での得点が魔法能力試験の得点と合算されるのだとか。
「それでは早速試験を行います!」
クラッセンさんは一回目の試験の参加者の名前を読み上げた。
「冒険者、レオン・シュタイン!」
名前を呼ばれたのは俺のパーティーでは俺一人だけだった。
周りを見てみると、俺よりも幼い女の受験生が多い事に気が付いた。
平均年齢は大体十五歳前後だろうか。
男女の比率は圧倒的に女性の方が多い。
ほとんどの受験生がマントを装備し、杖を構えている。
今回呼ばれた三十名の中で武器を装備しているのは、俺と受験番号一番の女の子だけだった。
確か名前は……ルル・フランツだ。
背の低い獣人で、モフモフした猫耳がなんとも可愛らしい雰囲気だ。
小さかった頃のリーシアを思い出すな。
年齢は十五歳くらいだろうか。
彼女は俺が見ている事に気が付くと、すぐに近づいて来た。
「確かレオン君……だよね。私はルル・フランツ。武器を装備しているのは私達だけみたいだね」
「よろしく、フランツさん。うん、どうやら俺達だけみたいだね。ゴーストとの戦闘か……」
「私の事はルルって呼んでね。私は魔法能力試験の結果が良くなかったら、今回の試験で沢山ポイントを稼がなきゃならないんだ。私、絶対にこの学校に入学するって決めているの」
「俺も同じだよ。今回の試験でポイントを稼がないと、落ちてしまうかもしれないから」
「ねぇ、レオン君。良かったら私と組まない? 今回の試験って別に個人で戦う必要はないんだよね」
「あ、確かに……」
周りを見てみると、受験生同士がパーティーを組んでいる事に気が付いた。
個人ではなく、パーティーでゴーストを討伐した方が効率が良いのかもしれない。
試験の準備が整うと、三十名の受験生以外は、試験の内容が見えない様に、大広間で待機する事になった。
ルルと共にゴーストを倒すのも良いかもしれない。
「ルル、一時的にパーティーを組もうか」
「やった!」
「俺がゴーストの攻撃を受けるから、ルルは俺の後ろから魔法攻撃を仕掛けてくれるかな。魔法能力試験で使ったサンダーブローっていう攻撃」
「分かったよ。私はサンダーブローを使って攻撃したら良いんだね」
「うんうん、よろしく頼むよ」
「任せておいて。雷属性の攻撃魔法だけは得意なの!」
俺とルルは、試験が始まるまでの時間で役割を決めた。
俺がゴーストの注意を引いて攻撃を受け、ルルは俺の背後からゴーストに攻撃を仕掛ける。
剣を使わない戦闘をした事が無かった俺には、仲間が一人でもいる事は非常に頼もしい。
今回の試験では武器による攻撃は認められていないが、防御は可能だ。
右手に持ったブロードソードで敵の攻撃を防ぎ、左手で火属性の攻撃を仕掛ける。
ポイントの配分については、均等になるように敵を交互に倒す事にした。
「それでは戦闘能力試験を開始します! 合図と共に闘技場の扉が開きます! 準備をして下さい!」
俺は右手でブロードソードを抜くと、ルルも腰に提げているレイピアを抜いた。
「ルル、二人で協力してポイントを稼ごう! 俺達が今回の試験で一位になるんだ!」
「わかったわ!」
俺達が武器を構えた瞬間、クラッセンさんの合図と共に、闘技場に続く扉が開いた……。
〈闘技場〉
闘技場の扉が開くと、俺とルルは一番に飛び出した。
日常的にモンスターを狩り続けている冒険者として、モンスターとの戦闘では他の受験生に負けたくない気持ちがある。
闘技場の中はまるで本物の廃村の様だ。
まだ昼間なのにも関わらず、闘技場の中はまるで夜の様に薄暗い。
俺は道を照らすために左手で炎の球を作り上げて浮かべた。
「レオン君……なんだか不気味な雰囲気だね」
「そうだね。まるで本物の廃村みたいだよ」
「うん、隠れているゴーストを探すために、すぐに廃屋の中に入ろう」
「わかったよ、時間も少ないしね」
制限時間は十五分間しかない、その間になるべく多くのゴーストを仕留めるには、積極的に敵を探して倒す必要がある。
廃村の中を進むと、一軒の大きな屋敷があった。
廃屋の窓からは複数のゴーストが俺達の様子を伺っている。
ルルの戦闘能力は未知数だが、短時間で大量のポイントを稼ぐためには、なるべく多くのゴーストが巣食っている廃屋を見つけ出さなければならない。
この屋敷に入ってみるか。
「この屋敷に入ろうか。ゴーストの数も多そうだし」
「うん……」
「危なくなったら俺が盾になるよ。ルルは俺の後ろに居るように」
「ありがとう、レオン君」
「レオンで良いよ」
「わかったよ、レオン」
俺達は廃村の中でも一際大きい屋敷の中に入る事にした……。