第二十二話「第二パーティー」
『魔導書・アローシャワー』
魔導書の一ページ目を開くと、複数の矢を同時に飛ばす魔術師の絵が描かれていた。
魔導書の絵には特殊な魔法が掛かっているのか、絵はまるで生きているかの様に動き、絵の中の魔術師は、何度も俺にアローシャワーを見せてくれた。
普段は魔導書を読む事も無いが、見た事もない魔法を覚える場合には良いのかもしれない。
俺が今使える魔法は、ファイア、ファイアボルト、ファイアボールだけだ。
ファイアとファイアボールは父さんから、ファイアボルトはアッシュおじさんから直接教わった魔法だ。
魔導書は、魔法を教えてくれる師が居ない場合、新しい魔法を絵で見て理解し、説明文を頭に叩き込んで何度も練習するための物だ。
俺の場合は元々魔術師でもない訳だから、長々と書かれている説明を読むよりは、実際に試してみて覚えた方が楽そうだな。
俺は適当な木に右手を向けて、早速アローシャワーを試す事にした。
通常のファイアボルトは一本の炎の矢を飛ばす魔法だが、まずは二本から始める事にした。
威力を落として二本の矢を同時に作る。
右手に魔力を込めて、炎の矢を作ろうとするも、二本の矢を作る事がとてつもなく難しい事だと気が付いた。
片方の矢に集中すると、もう片方の矢の魔力は消滅する。
「難しいな。だけど、この魔法が使えれば大量の矢を降らせる事が出来るんだ。絶対に覚えてやる」
俺が一人で新しい魔法に苦戦していると、リーシアは既にアイスウォールを完成させていた。
信じられないな……。
一日で魔法を覚えてしまうなんて。
リーシアが右手に持った杖を地面に向けて魔法を唱えると、目の前には分厚い氷の壁が生まれた。
シルヴィアはリーシアが作り出した氷の壁に向けて、ゲイルランスの練習をしている。
ゲイルランスは空中に作り上げた風属性の槍を高速で落とし、対象を攻撃する魔法だ。
シルヴィアは既に小さな槍を作り上げる事に成功している。
二人の魔法に対する才能は俺とは別次元だな。
生まれながらにして人間をも凌駕する魔力を持つ精霊、それから風の魔法に特化した幻獣。
普通の人間の俺が彼女達に追い付くには人一倍努力しなければならない。
俺はベヒモス達の帰りを待ちながら、アローシャワーの練習を続けた。
数時間後、俺がなんとか二本の矢を同時に飛ばせるようになった時、ベヒモス達は大量の獲物を引きずって帰ってきた。
「みんな、よくやったぞ! 期待以上だよ!」
「レオン、何をしているの? どうしてこんなに沢山の魔物が……?」
「ベヒモス達に魔物の素材を集めて貰ったんだよ。新しい魔物を召喚しようと思ってね」
「新しい魔物……レオンは私という召喚獣が居ながら、まだ他の魔物が必要なんだ……」
「違うんだよシルヴィア、これには訳があってね……」
俺はリーシアとシルヴィアに魔物の素材を集めている理由を教えた。
もし魔法学校に入学する事になれば、俺達は三人で学校に通う事になるだろう。
その間、フーガやゲイザー、ベヒモス、ボリスは暇を持て余す事になる。
それなら、更に仲間を増やして大きなパーティーを作り、俺達三人が居なくても簡単な討伐クエストをこなせるようになって欲しい。
その方がお金も稼げて地域のためになる。
魔物を倒せば倒すだけ素材が集まるわけだから、俺の魔物のパーティーのメンバーは増え続けるだろう。
「レオンって本当に頭が良いよね。私なら絶対にそんな事思いつかなかったよ……」
「ありがとう、リーシア。上手くいくかは分からないけど、ゲイザーもベヒモスも居るから大丈夫だと思うんだ。普通に考えて幻獣のゲイザーとベヒモスに勝てる魔獣なんてそうそう居ないと思うし」
「確かにね、ザラスの付近には魔獣クラスの魔物しか湧かない訳だし……そういう事なら私も賛成よ」
「別に俺はシルヴィア以外の召喚獣が欲しい訳じゃないんだよ……」
「知ってるわよ……レオン……」
俺の言葉を聞いたシルヴィアは嬉しそうに俺の手を握った。
これからは基本的には三人で行動し、第二のパーティーは知能が高いゲイザーとベヒモスに任せよう。
さて、俺は早速ベヒモス達が持ち帰った素材を確認する事にした。
〈魔物の素材〉
・ウェアラットの爪×5
・スケルトンの頭骨×2
・ドラゴニュートの腕×5
・レイスの頭骨×3
・ゾンビの頭×3
・ガーゴイルの翼×3
・キラービーの針×2
ベヒモス達が持ち帰った素材の中で強い魔力を感じる物を選んだ。
これだけの素材があれば十分だろう。
俺は早速新しい魔物を召喚する事にした。
一日で大量に仲間を増やし過ぎても、パーティーとして統制がとれなくなるだろうから、今日は一種類の魔物だけ召喚しよう。
まずはドラゴニュートを召喚する事にした。
素材を地面に置いて魔力を吹き込むと、ドラゴニュートの強い魔力が辺りに放たれた。
体の小さなドラゴニュートが五体、新しく生まれた。
緑色のゴツゴツとした皮膚。
頭から生える二本の角。
人間とドラゴンの中間種で、力は人間よりも強いが知能は人間の方が高い。
この日から俺の第二パーティー育成計画が始まった。
朝起きてすぐに森の中に入り、魔物を召喚する。
召喚が終わればすぐに新しい魔法の練習に取り掛かる。
午前中は魔物の召喚と魔法の練習をし、午後はリーシアとシルヴィアと宿で過ごす。
こんな生活が五日も続くと、俺達のパーティーはかなり豪華になった。
〈第一パーティー〉
・Bランク 戦士 レオン・シュタイン
・Bランク 魔術師 リーシア
・Bランク 魔法剣士 シルヴィア
〈第二パーティー〉
・幻獣 ベヒモス
・幻獣 ゲイザー
・魔獣 ファイアウルフ フーガ
・魔獣 アックスビーク ボリス
・魔獣 ドラゴニュート×10
・魔獣 スケルトン×5
・魔獣 レイス×3
俺は思い入れのあるスケルトンとレイスを再び召喚した。
ザラスのダンジョンで殺されたスケルトンとレイスの素材から召喚を試みたが、一度召喚して殺された魔物の素材からは召喚が出来なかった。
精霊の書を再び読んでみると、殺された召喚獣の素材からは再召喚出来ないと書かれていた。
魔獣のドラゴニュートとスケルトンには剣と盾を、レイスにはロングボウを持たせた。
俺は自分の召喚獣がザラスの周辺で狩りをする事をベルネットさんに伝える事にした。
他の冒険者が間違えて俺の召喚獣を殺してしまってはいけないからな。
〈冒険者ギルド〉
冒険者ギルドの扉を開けると、俺とリーシアが以前、森の中で助けた女の冒険者が二人、クエストボードを見つめていた。
彼女達の隣では、ベルネットさんが親身になって、どんなクエストを受けたら良いかアドバイスをしている。
「ベルネットさん!」
俺が声を掛けると、ベルネットさんは嬉しそうに近づいてきた。
なんだか久しぶりに会うような気がするが、まだ五日しか経っていない。
「レオン! 今日はクエストを受けに来たのか?」
「まぁ、そうなんですが、受けるのは俺達じゃないんです」
「何だって?」
「実は新しく召喚獣のパーティーを作ったので、そのパーティーでクエストを受けられるかを確認しに来ました」
「召喚獣のパーティー!?」
ベルネットさんは心底驚いた様な表情を浮かべた。
俺は幻獣のゲイザーとベヒモスが指揮を執る第二パーティーを作り出した事を説明した。
「すると、自分の召喚獣のパーティーにザラス近辺の討伐クエストをさせるつもりなんだな?」
「そういう事です」
「勿論それは構わないが、間違えて冒険者を襲ったりしてはいけないから、念のため人間のメンバーもパーティーに入れて貰いたいな」
俺の召喚獣が人間を襲うような事は間違ってもしないだろうが、魔物だけのパーティーというのは、どうも他の人から見た時に信用できない部分があるかもしれない。
「丁度いい、彼女達はザラスの近辺で魔獣討伐のクエストを専門的に受けている冒険者だ。レオンの召喚獣パーティーに彼女達を加えてみるのはどうだろうか」
ベルネットさんはそう言うと、二人の女の冒険者を連れて来た。
金髪で茶色の目。
背はシルヴィアよりも高く、スタイルも良い。
「どうも、お久しぶりです。以前、森の中で命を助けて頂きました、剣士のベラ・アルバーンです」
「妹のチェルシー・アルバーンです」
「レオン・シュタインです」
二人共ショートソードとラウンドシールドを装備している。
アルバーン姉妹に俺達の第二パーティーに入ってもらって、ベヒモス達の手伝いをしてもらおう。
ベルネットさんの提案により、剣士のベラとチェルシーは俺達の第二パーティーに加わった。
クエストは彼女達が受けて、俺の召喚獣と共に遂行する。
報酬は山分けという事に決まった。
これで彼女達がクエストを受ければ受ける程、自動的に俺の元にお金が集まってくる。
お金には困らない生活が送れそうだ。
俺達はそれから二日間、ザラスの町を満喫した。
魔法学校の見学に行く前に、俺とシルヴィアは新しい防具を揃えた。
俺はアッシュおじさんから頂いた白銀装備と同じ素材のガントレットとグリーヴを、シルヴィアはミスリルの全身装備を揃えた。
ついに魔法学校の見学に行く日がやってきた。
「リーシア、シルヴィア、早速魔法学校の見学に行こう!」
俺は朝早くからリーシアとシルヴィアを起こして、早速冒険者ギルドに向かう事にした……。
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