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第二話「精霊との出会い」

 廃村の中の教会でリーシアと出会った俺は、彼女を助ける事に決めた。

 まだ一人で行動出来る程、彼女の体力は回復していない様に思えたからだ。

 それに、廃村から近隣の村に向かうには、魔物が巣食う森を抜けなければならない。

 彼女の戦闘力は未知数だが、今の弱った状態ではとても近くの村まで移動する事は難しいだろう。

 リーシアが元気になるまで、俺が面倒を見てあげよう。

 勿論、彼女がそれを望むなら……。


「リーシア、俺の村に来ないかい? 村に来ればしっかり看病してあげられると思うんだ」

「人間の村……」


 リーシアは人間とは敵対していない種族の精霊だとは思うが、俺が「人間の村」という言葉を出した瞬間、少し寂しそうな表情を浮かべた。

 別に嫌なら村には来なければいい。

 食料だって俺が森で獲物を仕留めてこの教会まで運んでくれば良いだけだ。


「嫌ならいいんだよ。まだ食べ物も必要そうだし、着替えだって必要だろう。俺は村に戻って取ってくるから待ってるんだよ」

「うん……」


 彼女は小さく頷くと、不安げな目で俺を見つめた。

 リーシアの目は紫色で、宝石の様に美しいが、どことなく悲しそうだ。


 俺はリーシアのために服と食料を村から持ってくる事にした。

 まずはリーシアのための新しい服だ。

 身長は俺よりもかなり低く、140センチくらいだろうか?

 小さな女の子向けの服なんて、どこで買えば良いんだろう?

 全く分からないな。

 それに、まだまだ食べ物も必要そうだ。

 すぐに村に戻る必要があるな。


 俺が立ち上がって彼女の前から去ろうとすると、リーシアは寂しそうに俺の服を掴んだ。

 まさか、俺がこのまま戻って来ないと思っているのだろうか?

 そんな事はありえない。

 俺は弱っている彼女を放置して一人で帰るような人間ではない。


「大丈夫だよ、すぐに戻ってくる。信用できないなら俺の鞄を置いていくよ」

「本当……?」

「ああ。本当さ」


 俺はそう言うと、肩にかけていた鞄を床に置いた。


「鞄の中の食べ物も好きに食べていいからね」

「うん……」


 リーシアは恥ずかしそうに笑みを浮かべると、小さな手を振って見送ってくれた。

 俺は朽ち果てた教会を出て村に戻った……。



 〈アルシュ村〉


 村に着くと日が暮れていた。

 意外と長い時間、リーシアと一緒に居たんだな。

 俺はまず、家に戻って父さんに事情を説明する事にした。

 精霊のリーシアと出会った事は内緒にしておき、弱った魔物を見つけたと適当に報告をしておいた。


「レオン、弱った魔物を元気にするには、栄養、それから魔力の充填が必要だ。魔物に自分自身の魔力を分け与えてやれば、次第に元気になるだろう」

「ありがとう、早速試してみるよ。もしかしたら今日は帰れないかもしれない」

「ああ、魔物の傍に居てやるんだ。何か問題があったら空に炎の玉を飛ばすんだ。俺や村人達が急いで駆けつけるぞ」

「分かったよ、きっと何もないと思うけど、気をつける事にする」


 俺は家の中にある食料や調味料をなるべく多く持ち、それからリーシアのための新しい服を調達する事にした。

 身長は大体140センチくらいだったな。

 この村に住む父の友人の娘が、確か丁度リーシアと同じくらいの身長だった気がする。

 俺は父の友人のアッシュおじさんの家を訪れる事にした。

 アッシュおじさんは若い頃、父と共にパーティーを組んで世界中を旅していたのだとか。

 彼は俺が小さい頃から冒険の話を沢山聞かせてくれる気の良いおじさんだ。

 俺はすぐにアッシュおじさんの家の扉を叩いた。


「アッシュおじさん、ちょっといいかな?」


 扉を叩くと、長く伸ばした金色の髪を後ろで結んだアッシュおじさんが、扉を開けて嬉しそうに俺を歓迎してくれた。

 アッシュおじさんは狩人で、村で道具屋を営んでいる。

 村の付近に湧いた魔物は、アッシュおじさんと父さんが指揮する村人達のパーティーによって駆除されている。

 俺もたまにアッシュおじさんに誘われて魔物を狩りに行ったりする事がある。


「おう。レオンか、まぁ入れよ」

「ありがとう」


 俺は家にお邪魔すると、家の中には今朝狩ってきたばかりだという、ブラックウルフが机の上に置かれていた。


「これからブラックウルフを解体して焼肉をするところだ! 今夜はパーティーだぞ!」

「パーティー? 楽しそうだけど、今はそれどころじゃないんだ」

「おいおい、レオン! せっかく最高の肉を手に入れたんだ! 今日は肉を食いながら朝まで飲むぞ!」

「ごめん、実はちょっと忙しくてさ。すぐに出かけなきゃならないんだよね」


 俺がそう言うと、楽しそうに微笑んでいたアッシュおじさんは心配そうに俺を見つめた。


「何かあったのか?」

「それが……」


 俺はちょっとした事情から女の子用の服を探している事を伝えた。

 アッシュおじさんは俺をからかう様にニヤついてから、深く事情は聞かずに、自分の娘の服を俺に分けてくれた。


「帰ってきたら事情を聞かせてくれよ。魔物の山に入るんだろう? 食料は多めに持っていくんだ。夜の山は昼よりも魔物が活発になっているからな。まぁレオンなら大丈夫だとは思うが……」

「うん、気をつけるよ」


 アッシュおじさんは俺が家を出る前に、ブラックウルフの肉を持たせてくれた。

 せっかくならアッシュおじさんと一緒に食べたかったが、今はすぐにリーシアの元に戻らなければならない。


「色々ありがとう。戻ったらちゃんと説明するよ」

「ああ、楽しみにしているぞ」


 俺はアッシュおじさんに礼を言うと、すぐに村を出て廃村を目指した。



 〈廃村までの道〉


 アッシュおじさんの言う通り、夜の森は昼とは比べ物にならない程、多くの魔物の気配を感じる。

 たった一人で森に入って来た俺を狙う魔物が多いのだろう。

 複数の視線と殺気を感じる。

 慎重に、かつ急いでリーシアの元に戻らなければならないな。


 俺は左手に魔力を込めて炎の球を作り上げた。

 夜の森の闇を、炎の球で照らしながら進む……。

 ファイアボールの威力を抑えた炎の球だ。

 あらかじめ魔法を作っておく事によって、急な敵襲でも反応出来るという大きなメリットがある。

 俺は炎の球を最小限までに小さくし、魔物から見つからない様に、ゆっくりと森の中を進んだ……。


 しばらく夜の森を進むと、俺は魔物の集団を見つけた。 

 あれは魔獣のゴブリンの集団だ。

 昼間に廃村でスープを作っていた奴等だ。

 こんな所で出くわすとは……。


 敵は全部で四体だ。

 剣を持っているゴブリンが三体、それから槍を持っていて、明らかに他の三体とは体の大きさも雰囲気も違うゴブリンが一体。

 体の大きなゴブリンは、通常のゴブリンの上位種であるグレートゴブリンに違いないだろう。

 四対一か……。

 ここはやり過ごした方が良さそうだな。


 俺は急いで火を消すと、茂みの中に隠れて息を潜めた。

 ゴブリン達は何やら楽しそうに酒を飲みながら、廃村に向かって歩ているようだ。

 廃村には俺の帰りを待つリーシアが居る。

 このままゴブリン達を見過ごしても、廃村に着けば必ず戦う事になるだろう。

 それなら今の内に仕留めた方が良さそうだ。


 俺は狩人のアッシュおじさんから習った、とっておきの魔法を使う事にした。

 炎で作り出した矢を飛ばす攻撃魔法、『ファイアボルト』だ。

 ファイアボルトはアッシュおじさんの得意魔法で、おじさんのファイアボルトは、五十メートルも離れた場所に居るゴブリンの眉間を撃ち抜ける程、精度が高い。


 俺はゴブリン達に気が付かれる前に、先制攻撃を仕掛ける事にした。

 まずは一番強そうなグレートゴブリンを倒したほうが良いだろう。

 一番最初にグレートゴブリンを倒す事が出来れば、他の三体は怖気づいて逃げ出すに違いない。

 俺は茂みに身を潜めたまま、左手をグレートゴブリンに向けた。


『ファイアボルト……』


 小声で魔法を唱えると、炎で作られた矢はグレートゴブリンに目がけてかなりの速度で発射された。

 グレートゴブリンは森の空気の微かな変化に気が付いたのか、手に持っている槍を構えると、器用に炎の矢を叩き落とした。

 やばいな……。

 もしかしてかなりの手練れなんじゃないか?


 炎の矢が効かないなら、更に威力の高い魔法を放てば良い。

 ファイアボールをお見舞いしてやる。

 俺は左手を高く掲げ、体中から火の魔力を掻き集めた。


『ファイアボール!』


 俺は茂みから飛び出して、ありったけの魔力を込めた炎の球を飛ばした。

 グレートゴブリン以外の雑魚達は、俺の攻撃に反応すら出来ずに、正面からもろに魔法を受けた。

 ゴブリンの体が炎の球に触れて爆発する音が、静かな森の中に(つんざ)いた。


 三体の雑魚のゴブリンは一撃で葬る事が出来たが、グレートゴブリンだけは無傷で俺の攻撃を回避した。

 グレートゴブリンは、仲間の死体を見ると、怒り狂って俺の方に突進してきた。

 俺はグレートゴブリンの突進をギリギリのところで回避すると、すぐに反撃に移った。


『ファイアボルト!』


 巨体のグレートゴブリンの目の前で発射された炎の矢は、敵の左肩に当たると、いとも簡単に緑色の分厚い皮膚を貫いた。

 攻撃が通ったぞ! 勝てる!

 俺は勝利を確信した。

 左肩を攻撃されたせいか、グレートゴブリンは怒り狂って右手だけで槍を持ち、大きく振り下ろしてきた。


「やばい!」


 回避しきれないと思った俺は、右手に持ったブロードソードで水平切りを放った。


『スラッシュ!』


 俺とグレートゴブリンの攻撃はほぼ同時だった。

 僅かに俺の水平切りの方が速度が速かったのか、敵の槍が俺の体に触れるギリギリの所で、俺のブロードソードは、敵の硬い皮膚を引き裂いていた。

 グレートゴブリンは多量の血を辺りにまき散らしながら命を落とした……。


「危なかった……なんでこんなに強い魔物がこの山に居るんだ?」


 グレートゴブリンが強いのではなく、俺が弱いだけかもしれないが、俺が出会った魔物の中で、一番の実力を持つ相手だった事は間違いない。

 すぐに俺はゴブリンのドロップアイテムを回収する事にした。


 ・グレートゴブリンの牙×2

 ・ゴブリンの牙×6

 ・ゴブリンの耳×6

 ・10ゴールド、4シルバー


「魔物なのにお金まで持ってるのか。きっと人間を殺して奪ったに違いないな」


 この大陸の通貨は、1シルバー銀貨、10シルバー銀貨。

 1ゴールド金貨、10ゴールド金貨、100ゴールド金貨。

 それから500ゴールド大金貨。

 1ゴールドは100シルバーだ。


「村の宿が一泊1ゴールドくらいだったなかな。ゴブリンが10ゴールドも持っているとは、運が良かったみたいだな。兎に角、急いでリーシアの元に戻ろう」


 無事、ゴブリンの集団との戦闘を終えた俺は、急いで廃村の教会に戻る事にした……。



 〈廃村・教会〉


 俺が教会に戻ると、リーシアは俺の鞄の中の食料を全て食べつくしていた。

 信じられないな……。

 どれだけお腹が空いていたのだろう。

 俺の顔を見ると、嬉しそうに笑みを浮かべて近づいてきた。


「レオン……待ってたよ」

「お待たせ、途中でゴブリンの群れと遭遇して遅くなったよ」

「ゴブリン? 大丈夫だった?」

「勿論だよ、ゴブリンなんかには引けを取らないさ。新しい服を持ってきたよ」


 俺はアッシュおじさんから頂いた服をリーシアに渡した。

 人生で初めて女の子に服を渡すような気がする。

 女の子と言ってもリーシアは精霊だ。

 人間の女の子ではない。

 リーシアは服を受け取ると、ポカンとした表情で俺を見上げた。


「くれるの?」

「そうだよ。今着ている服はボロボロだろう? 新しい服に着替えるんだ」

「ありがとう……」


 彼女は嬉しそうに新しい服を見つめると、すぐに着ている服を脱ぎ捨てて新しい服を着た。

 俺の目の前でも躊躇なく着替えるんだな……。

 新しい服はピンク色のワンピースだ。

 可愛らしい彼女の容姿によく似合う。


 しかし、リーシアは食料を全て食べてしまったのか。

 きっとお腹が空いているんだな。

 俺は持ってきたブラックウルフの肉を鍋に入れてもう一度スープを作った。

 俺がスープを作り終えると、リーシアは待ちきれないといった表情で俺を見つめた。


「食べても良い?」

「ああ、勿論だよ。好きなだけ食べるといい」

「ありがとう……!」


 父さんは弱った魔物を回復させるには、栄養と魔力が必要だと言っていた。

 きっと弱った精霊を回復させる方法も同じに違いない。

 俺はリーシアと遅い夕食を摂ると、次第に睡魔が襲ってきて、教会の床で眠ってしまった……。

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