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第十九話「巨体の幻獣」

 目が覚めるとそこには意外な人物が居た。

 冒険者ギルドのマスターのベルネットさんだった。


「ベルネットさん……!」

「レオン! 目が覚めたか!」

「はい、どうなったんですか?」


 体から完璧に魔力が枯渇している。

 体を動かそうとしても力が入らない。

 戦闘中は自分の疲労を完璧に忘れていたが、いざキメラとの戦いに勝つと、俺の体はボロボロになっていた。

 体には小さな切り傷が無数に付いている。


『ヒール!』


 ベルネットさんが魔法を唱えた瞬間、俺の体の傷は全て塞がった。

 リーシアとシルヴィアは不安そうな目で俺を見つめている。


「レオン、目が覚めたんだね! 私達、勝ったよ!」


 リーシアは涙を流しながら俺に抱き着いてきた。

 リーシアの体からは心地の良い魔力を感じる。

 ずっとこうしていたい。

 リーシアにもシルヴィアにも苦労を掛けたな。

 ザラスに戻ったらしばらくの間、彼女達とゆっくり休む時間を作ろう。


 ベルネットさんは懐からポーションを取り出すと仲間達に配り始めた。

 彼が渡してくれたポーションを飲んでみると、さっきまでの疲れが嘘のように消えた。

 魔力と体力を回復させるポーションだったようだ。


「無事で何よりだ。まさかザラスから程近いダンジョンに、ゲイザーやキメラの様な悪質な幻獣が潜んで居たとは……」

「そうですね、低級な魔獣だけが巣食っていると思いましたが……」

「俺もそう思ったよ。幻獣が二体も一つのダンジョンに……念のため地下四階も調べたが、宝物庫があっただけだったよ。宝物庫は既に空だった」

「そうですか……残念だな」

「まぁ、新しくできたダンジョンにはよくある事だ」


 地下四階が宝物庫だったのか。

 しかし宝が無いのは残念だな。


「だが、気を落とすな。ダンジョンの魔物を討伐したのはレオン・シュタイン率いるパーティーだという事を町中に宣伝しておこう。幻獣のゲイザーとキメラを討伐した功績はすぐに町中に広まるだろう!」

「え、本当ですか?」

「勿論だ。それからギルドマスターの権限として、レオン、リーシア、シルヴィアの三人をBランクの冒険者として認定する事にした。レオンが寝ている間にシルヴィアも冒険者ギルドに加入すると言ってくれたよ」


 そう言うと、ベルネットさんは俺の体に手を置いた。

 彼の力強い魔力は心地良いな。

 俺達はベルネットさんの計らいによってBランクの冒険者に昇格した。

 もうすぐ目標のAランクの冒険者になれるな……。


 彼の説明によると、本来なら今回のクエストを達成するとCランクに昇格させる予定だったが、幻獣を討伐した功績を考慮すると、Bランク昇格が相応しいとの事だ。

 ベルネットさんの考えでは、神殿の中に置かれていた書物が、二体の幻獣をこの場所に召喚したのだとか。

 魔術師達が魔物を召喚する書物に触れた事によって、地下一階にはゲイザーが、地下三階にはキメラが召喚されたと考えているらしい。

 恐ろしい罠もあったものだな。


 しかし、こうして今生きている事は幸運以外の何物でもない。

 俺はリーシアを強く抱きしめてから立ち上がると、ベヒモスに近づいた。

 ベヒモスは俺を主人だと認識しているのか、大きな舌で俺の顔を舐めた。

 近くで見てみると少し怖いが、キメラとの戦闘では常に俺達の事を守ってくれた。


「ベヒモス、助かったよ! 俺は冒険者のレオン・シュタインだ。これからもよろしく頼むよ」


 俺はベヒモスに対して深く頭を下げると、彼も丁寧にお辞儀を返してくれた。

 幻獣はやはり知能が高いんだな。

 彼が居なければ今回の戦いの勝利は無かっただろう。

 勝利どころか確実に全滅していた。

 俺の仲間として大切に育てよう。 

 それからゲイザーもだ。


「ゲイザー! よくやったぞ! お前も俺の仲間だ!」


 俺はゲイザーの小さな体を抱き上げて肩に乗せた。

 ゲイザーは嬉しそうに俺の体に触手を絡ませた。 

 フーガは既にベヒモスと仲良くなったようだ。

 嬉しそうにじゃれ合っている。


「さて、早速ザラスに戻ろう! 魔術師の女は俺が魔術師ギルドまで運んでおくよ」

「わかりました!」

「この広間の奥に外には続く縦穴があったぞ! そこを登って外に出るといい。俺は階段から上がってザラスに戻るよ」


 ベルネットさんは気を失っている魔術師の女を担ぐと、地下二階に続く階段を上がって行った。

 広間の一番奥まで行くと、宝物庫に続く階段と、地上に続く大きな縦穴があった。

 俺達はベヒモスの背中に乗せて貰うと、一気に縦穴を駆け上がった……。



 縦穴を抜けて外に出ると、そこはダンジョン付近の深い森の中だった。

 きっとザラス側の入り口とは離れた場所に居るのだろう。

 俺達はベヒモスに乗ったまま、森の中を高速で移動してダンジョンの入り口を探した。

 しばらく進むと、ダンジョンの入口が見えてきた。

 入口ではアックスビークのボリスが俺達を待っている。


「ボリス! 待たせたね! ザラスに戻ろう!」


 俺が声を掛けると、ボリスは心底驚いた表情を浮かべた。

 きっと新しい魔物が二体も居るからだ。

 ベヒモスはボリスの体を優しく舐めると、ボリスはベヒモスが敵ではない事を感じ取ったのか、俺達を先導してザラスまで導いてくれた。



 〈魔法都市ザラス・正門〉


 流石にベヒモスに乗ったままザラスの町に入るのはまずいだろう。

 敵襲だと勘違いされるかもしれないからな。

 俺は正門の近くでベヒモスとボリスを待機させると、正門を守っている守衛に声を掛けた。


「すみません、冒険者ギルドのレオン・シュタインです。しばらく正門前に魔物を待機させても良いですか?」

「ああ、さっきここを通って行ったマスターベルネットのギルドの方だね。マスターから話は聞いているよ。冒険者レオン・シュタインの召喚獣を正門前で待機させる事を許可する」

「ありがとうございます」


 俺は正式に許可を貰ってから、すぐに冒険者ギルドに戻る事にした。

 町の人達は俺達パーティーを不思議そうに見ている者が多い。

 きっとゲイザーのせいだ。

 一つ目で、体中から触手が生えている魔物なんて、普通に生きていたらお目にかかる事は無いだろう。


「なんだか注目されてるわね」

「そうみたいだね、きっと俺達の組み合わせが可笑しいからさ」


 人間と精霊、それからウィンドデビルにファイアウルフ、極めつきはゲイザーだ。

 個性豊かなパーティーだが、俺の最高の仲間達だ。

 俺達は町をゆっくりと進んで冒険者ギルドに戻った。

 ギルドの扉を開けると、マスターベルネットをはじめとする冒険者ギルドのメンバーが俺達を歓迎してくれた。


「凄いぞ、レオン! お前はやっぱりやる男だと思っていた! 今日は俺の奢りで酒を飲もう!」

「まさかレオンのパーティーがザラスのダンジョンを攻略するとは! 俺達冒険者ギルドから攻略者が現れて鼻が高いよ!」

「幻獣のキメラとゲイザーを倒したんだって? どうやって倒したのか聞かせてくれよ!」


 俺達は冒険者ギルドのメンバーに囲まれて質問攻めにされた。

 俺はマスターから緊急のクエストを受けた事、巨体のゲイザーとの戦闘、部屋のトラップを解除してダンジョンを進んだ話、それからキメラとの戦いに、ベヒモスを召喚した事を話して聞かせた。

 ギルドメンバー達は終止、嬉しそうに目を輝かせながら俺の話を聞いた。


「皆、今日は宴にしよう! レオン率いるパーティーのダンジョン初攻略を祝って!」


 ベルネットさんの提案により、今日はギルド内で宴が開かれる事になった。

 宴となると冒険者達の動きは早い。

 市場から魔物の肉を買ってきて、ギルドの前で調理を始める者。

 大量の酒を買ってきてギルド内に運び入れる者。

 どこからともなく踊り子と吟遊詩人を連れてきて雰囲気を盛り上げる者など。

 宴の準備はすぐに整った。

 普段は武装した冒険者達で溢れるギルド内が、一瞬にしてお祭りの様な雰囲気に変わった。


「さぁ、レオン。今日は朝まで飲むぞ!」

「はい!」


 俺はベルネットさんの隣の席に腰を下ろし、リーシアは俺のすぐ隣に、シルヴィアは俺の前の席に座った。

 フーガとゲイザーは俺の足元で寝転んでいる。

 ベルネットさんは俺に葡萄酒が注がれたゴブレットを渡してくれた。


「ありがとうございます」

「なぁに、こちらこそありがとう。俺の代わりにクエストをこなしてくれて」


 ベルネットさんがゴブレットを掲げて乾杯の音頭をとると宴が始まった。

 葡萄酒を口に含むと、やっと町に戻って来たという事を実感した。

 ダンジョンの中では何度も自分の死を意識した。

 仲間が居なければ今の俺は居ない。


 冒険者として生きていく事は大変だ。

 田舎の村でひっそりと、親の手伝いをして生きていけば、危険もない平和な毎日を過ごす事が出来る。

 だが、誰かが魔物を殺さなければならないこの世の中だ。

 俺は人のため自分の力で魔物を狩り、地域に貢献したい。

 俺は幼い頃から、アルシュ村の人達に守られて生きてきた。

 魔物が襲ってきても村人達が力を合わせて退治してくれた。

 今度は俺が自分の力でザラスの民を守ってみせる。

 信頼できる仲間達と共に、民を守り、最高の冒険者になってみせる。


「レオン、何を難しそうに考えているんだ。俺達冒険者は、魔物を狩り、民を守る! それが俺達の様な力を持つ者の使命だと、俺は思っている!」

「確かにその通りですね、力が有れば仲間を守る事も出来る……」

「そうだ、冒険者とは力と名声を求める者! 死ぬまで己の技を磨き続け、民を、愛する仲間を守る!」


 俺は三体のスケルトンと二体のレイスを死なせてしまった。

 次からは決して死なせない。

 俺は自分の力で仲間を守れる冒険者になる!


「レオン、今日の戦いの時、私達を信じてくれてありがとう」

「俺の方こそありがとう。君達が居なければ俺は死んでいたよ」


 俺はリーシアを抱き寄せて頭を撫でた。

 彼女は嬉しそうに目を瞑っている。

 ずっとこうしていたいな……。

 リーシアとは離れたくない。


「レオン、しばらくはクエストを受けずに休むといい! 魔術師ギルドのマスターが礼をしたいと言っていたぞ。時間がある時にでも訪れてみると良いだろう」

「わかりました、今度顔を出す事にします」

「それが良いだろう。全く、魔術師ギルドの若い連中は何を考えているんだか……力もないのにダンジョンに挑むとは……」


 ベルネットさんの言う事は正しい。

 だが、誰も攻略していないダンジョンを、他の冒険者よりも早く攻略したいという気持ちは理解出来る。

 しかし、命を落としてしまっては意味がない。

 今回、ザラスのダンジョンの攻略に挑んだ魔術師達は、ギルドに所属しているにも関わらす、ギルドマスターの許可も取らずに、ダンジョンの攻略に挑んだのだとベルネットさんから聞いた。

 ギルドに所属する者がダンジョンの攻略をする場合は、必ずギルドマスターの許可が必要だ。

 勿論、ダンジョン攻略の許可が下りない場合もあるが、それは力不足だという事だろう。

 俺達だってダンジョン周辺で二百体以上の魔物の討伐をし、ダンジョン付近の魔物の性質を理解した上で、初めてダンジョンの攻略に挑んだ。


「レオン、これからどうするつもりだ? 冒険者として何を成し遂げたい?」

「そうですね……今はAランクの冒険者を目指しています。それから先の事は分かりませんが、魔法と剣術を学びたいと思っています」

「魔法剣士と言う事か……もし魔法を本格的に学びたいなら魔法学校入ってみるのはどうだ? 俺から学校に推薦状書く事も出来るぞ。入学を考えているならいつでも相談に乗ろう」

「え? 本当ですか?」

「勿論だ。推薦は出来るが、入学試験にパス出来るかはレオンの力次第だがな」

「そうですよね! 魔法学校ですか……面白そうですね」


 ベルネットさんは美味しそうにゴブレットの中の葡萄酒を一気に飲み干すと、俺の肩に手を置いた。


「今回のダンジョンでの討伐記録はザラスの町中に知れ渡るだろう。レオン、君は自分が思っているより偉大な事を成し遂げた。一日で幻獣を二体も討伐するとは……」

「仲間の力のお陰ですよ」

「何を言っているのだか。仲間に的確な指示を出しつつも、最前線で敵の攻撃を防いでいたとシルヴィアから聞いたぞ? 幻獣のキメラの攻撃をブロードソードで防御したんだってな。並みの冒険者では受ける事すら出来ないだろう」

「なんだか恥ずかしいですね。でも俺はもっと強くなりたいんです」

「強くなりたいのは俺も同じだ。強さに限界はない。限界とは自分で決めるものだ」


 どうしたらもっと強くなれるのだろうか。

 ベルネットさんの提案の通り、魔法学校に入学してみるのも悪くないかもしれない。

 俺が今使える魔法は、ファイア、ファイアボルト、ファイアボールだけだ。

 よくこの三種類の魔法だけで今まで生き延びてきたな……。

 俺がダンジョンから生還できたのは仲間の力のお陰でもある。 

 それから精霊王の加護だ。

 もし俺が召喚魔法を使えなければ、確実に命を落としていた事は間違いない。

 更に自分自身の技を磨いて力をつける必要がありそうだ。

 キメラを一撃で倒せる程の力が欲しい……。


「何を深刻そうに考えている! 今日はレオン達が主役なんだぞ。冒険の事はひとまず忘れるんだ!」

「そうですね! とことん飲みましょう!」

「ああ、飲もう!」


 その日、俺は夜遅くまで仲間達と語り合い、美味い料理と酒を堪能した。

 リーシアとシルヴィア、それからフーガとゲイザーを連れて宿に戻ると、今日から俺達は無料で宿泊できると説明を受けた。

 ザラス内の宿は、Cランク以上の冒険者なら無料で宿泊出来る。

 その代り、一カ月に一度、Cランクの討伐クエストを行わなければならないのだとか。

 Cランクの討伐クエストをこなし、地域の安全を確保する対価として、一カ月分の宿代を国が負担する仕組みになっているとの説明を宿の主人から聞いた。

 俺は普段から使っている三階の一番奥の部屋に戻った。

 ゲイザーは初めて訪れた部屋の中を楽しそうに飛び回っている。


「リーシア、シルヴィア、今日は早めに休もうか。明日、冒険者ギルドで報酬を受け取ってから買い物にでも行こう」

「そうしましょう、私は新しい服が欲しいわ」

「うん、私は魔導書が欲しいな……」


 シルヴィアは新しい服を、リーシアは魔導書を、今回の討伐の報酬を頂いたら早速買い物に行くとしよう。

 それから、せっかく宿代が無料になるんだ、もっと広くて豪華な宿を探そう。

 俺達は風呂に入って体の汚れを落とすと、一つのベッドに入って寝る事にした。

 俺のすぐ隣にはリーシアとシルヴィアが居る。

 二人の体を抱き寄せると、彼女達は嬉しそうに俺の体を強く抱いた。


「二人共、ありがとう。これからも俺と一緒に居てくれよ……」

「当たり前でしょう、私はあなたの召喚獣なんだから。私はレオンとリーシアを守るために生まれたの」

「私もレオンと一緒に居たい……精霊の契約が無くても……」


 俺はリーシアの綺麗な銀色の髪を撫でると、彼女は恥ずかしそうに目を逸らした。

 随分美しい女性に成長したんだな。

 初めて会った時は幼い少女の様だったが、今では身長も160センチ程まで伸び、顔つきもだいぶ大人っぽくなった。

 これからも俺が守ってやらなければならない。

 そのためには更に強い力を身に着けなければならない。

 魔法学校に入学か……。

 面白いかもしれないな。


「レオン、私はもっと強くなるよ。レオンを守れる精霊になる」

「俺もだよ。リーシアを、仲間を守れる冒険者になるんだ……」

「うん……」


 しばらく冒険者としての活動を休んで、彼女達とこの町を満喫しよう。

 もっと仲間と友情を深める時間も必要だ。

 リーシアに抱いている俺の感情は、友情とは少し違うような気もする……。

 彼女を見ているだけで気持ちが休まり、俺の力で守ってやりたい気持ちになる。

 これが誰かを好きになるという感情なのだろうか……。

 今日はもう休もう。

 俺は二人の体を抱きしめていると、すぐに眠りに落ちていた……。

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