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第十三話「風の悪魔」

 アックスビークを召喚した日から俺達の本格的な狩りが始まった。

 朝から夕方までの間は、ダンジョンから湧いてきた魔物を狩り、夜はザラスに戻ってアックスビークとフーガに大量の栄養を与える。

 俺自身も自分の戦い方を追求し続けた。

 アルシュ村に住んでいた頃よりも、魔物と戦う機会が多いせいか、筋力も増えて、魔力の総量も上がった。

 ファイアボルトやファイアボールもかなりの威力で放てるようになった。


 リーシアは既に成長を終えたのか、身長は160センチ程まで成長した。

 見た目の年齢は人間の16歳か17歳程だろう。

 きっと今の姿がリーシアの完璧な姿なんだ。

 髪も伸びて更に魅力的な女性になったリーシアは、町を歩いているだけ声を掛けられる事もある。

 声を掛けられてもリーシアは丁寧に断るか、しつこい男に関してはフーガが火を吐いて追い払う。

 勿論相手を傷つける事は無い。


 アックスビークはというと、体もかなり大きくなり、俺とリーシアを背中に乗せながら全速力で走れるようになった。

 ちなみにアックスビークには新しい名前を付けた。

 新しい名前はボリスだ。


 フーガは生まれた時とは比べ物にならない程立派に成長した。

 スケルトンやスライム程度の敵なら、火の魔力を込めた爪の一撃で仕留められるようになった。

 もしかしたら攻撃力は俺よりも高いのかもしれない。

 俺達は順調にダンジョン付近の狩りを続け、約三週間掛かって、Eランク昇格の条件である二百体の魔物の討伐に成功した。

 今日は冒険者ギルドに戻って討伐を報告する日だ。

 俺達はすぐにザラスの冒険者ギルドに向かった……。



 〈魔法都市ザラス・冒険者ギルド〉


 俺が冒険者ギルドに入ると、ギルドマスターのベルネットさんは嬉しそうな表情を浮かべて近づいてきた。


「その様子だとクエストを達成した様だね。毎日コツコツと魔物を狩り続け、ついに二百体の魔物の討伐を成し遂げるとは! Eランク昇格おめでとう! 冒険者ギルドのマスター、エドガー・ベルネットは、戦士レオン・シュタインと魔術師リーシアのEランク昇格を認める!」

「ありがとうございます!」

「さて、Eランクになったところで次は何を目指す? ダンジョンの攻略か?」

「そうですね、まずはザラスのダンジョンを攻略したいです!」


 俺がそう言うと、ベルネットさんは嬉しそうに微笑んだ。

 ダンジョンを攻略する前に、新しい魔物を召喚しておいた方が良いだろう。

 二百体分のドロップアイテムと魔物の素材は既にお金に替えてある。

 正確に計算はしていないが、大体250ゴールド以上はあるだろう。


 魔物の素材にはほとんど値段は付かなかったが、ゴブリンやスケルトン等のアイテムを持ち歩くタイプの魔物を狩り続けていたおかげで、結構な量の武器と防具を集める事が出来た。

 手持ちのお金で魔物の素材を買おう。

 それから俺とリーシアの新しい装備も欲しい。


 召喚魔法に必要な魔物の素材は、冒険者ギルドが経営している道具屋で買う事が出来る。

 俺の様に召喚魔法のために魔物の素材を買う者は少なく、一般的には薬や防具、装飾品等を作る職人が魔物の素材を購入する。

 俺達は冒険者ギルドを出ると、早速道具屋に向かう事にした。



 〈ヘルゲンの道具屋〉


 冒険者ギルドが運営する道具屋はギルドのすぐ裏手にある。

 ギルドが冒険者からクエスト完了の証として受け取った素材は、全てこの店でアイテムに加工されるか販売されている。

 道具屋の扉を開けると、店の中では白髪の店主が一人、店の中を忙しそうに歩き回っていた。

 俺達の姿に気が付いた店主は、すぐに俺の方に近寄ってきた。


「君はレオン・シュタインだろう? マスターのエドガーから話は聞いているよ。二百体の魔物を討伐したんだってな」

「はい、そうです」

「やはりな! うちには君が倒した魔物の素材で溢れているよ。スケルトンの頭骨、ゴブリンの手、スライムの体液、スパイダーの目、ジャイアントボアの鼻……それで、今日は何を探しに来たのかな?」


 やけにフレンドリーな店主のヘルゲンさんは、俺達を興味深そうに見つめている。

 確かに店の中には俺が大量に納品した魔物の素材で溢れている。

 なんだか誇らしげな気分だ。

 自分が倒した魔物の素材が店に並んでいるんだ。

 この素材は今から加工されて、冒険者を守るためのアイテムとなり、市民の生活を豊かにする道具へと変わる。


「実は、今日は魔物の素材を探しています。ダンジョンを攻略するために、強い魔物の素材が必要で……」

「魔物の素材を?」

「はい、魔物の素材から新しく魔物を生み出そうと思っています」

「ほうほう、それが最近噂の精霊王の加護とやらか? 冒険者ギルドの駆け出しの戦士が、魔物の素材から新しい魔物を作り出せるという噂を聞いたが、どうやら本当らしいのぅ」


 俺の情報が既にこの道具屋にも回っていたか。

 当たり前と言えば当たり前だろう。

 冒険者ギルドの職員は、既に俺が精霊王の加護を受けていて、魔物の素材から新しい魔物を作り出せる力がある事を知っている。

 冒険者ギルドが経営するこの店に俺の情報が流れているのは至って普通だろう。


「そういう事ならとっておきの素材を譲ろう! この素材は正直、なんの使い道もなかったんだ。アイテムに加工できる訳でもなく、捨てるには勿体ない。なんと言っても幻獣の素材だからな! 元の魔物は強いし、素材が持つ魔力も非常に強い!」

「え? 幻獣の素材を頂けるんですか?」

「ああ、そうだ。マスターベルネットからも君達が来たらサービスするようにと言われているからな」

「ベルネットさんが……」

「うむ。彼は君達の事をえらく気に入っているぞ! 昔の自分を見ているようで懐かしいと言っていたな。彼は今でこそギルドマスターだが、彼も君と同様、小さな村の出身で、Gランクから最高ランクのAランクまで成り上がった男だ」


 ベルネットさんってAランクの冒険者だったのか……。 

 知らなかった。

 服装だけ見ても並みの冒険者ではないと思ってはいたが。

 兎に角、ヘルゲンさんは幻獣の素材を俺にくれると言っている。

 気が変わらないうちに素材を頂こう。


 ヘルゲンさんは店の倉庫の中から小さな木箱を持ってきた。

 木箱を開けると、中には干乾びた腕が入っていた。

 どんな魔物の腕なのだろうか。

 想像もつかないな。


「何ですか? この腕は」

「これはウィンドデビルの腕だよ。幻獣クラスの魔物で、強力な風属性の魔法の使い手でもある。かつてエドガー・ベルネットが、ギルドマスターに就任する前に討伐した魔物の素材だ。君が使うといい」

「本当に頂いても?」

「ああ、良いとも。その代りと言ってはなんだが、召喚をする所を私にも見せてくれないか?」

「成功するかはわかりませんが……」

「それでもいいさ。さぁ、早速試してみてくれ!」


 俺はヘルゲンさんに促されて木箱を受け取ると、素材は俺に対してとてつもない強さの魔力を放った。

 干からびた幻獣の腕は、俺を警戒するように、力強い魔力を纏っている。

 死して尚、これ程までの魔力を体に蓄えているのか。

 信じられないな……。

 生きている俺よりも遥かに魔力が強いんじゃないか?

 果たして俺の力で幻獣を召喚出来るのだろうか。

 木箱に入ったウィンドデビルの腕を見つめていると、リーシアは俺の肩に手を置いた。


「大丈夫だよ。レオンなら出来る」

「ありがとう……やってみるよ」


 俺は素材が入った木箱を店の床に置くと、両手に魔力を込めた。

 体中から魔力をかき集めて素材に注ぎ込むと、幻獣の素材は感じた事もない程、力強い風の魔力を辺りに放ち始めた。

 幻獣の素材が放った風の魔力で、店の中の商品があちらこちらに飛び散った。

 俺はなんとか体制を整えて魔力を注ぎ続けた。

 負けてたまるか……。

 俺は自分の力で幻獣を召喚するんだ!


 しばらく魔力を注ぎ続けていると、体内の魔力が枯渇する感覚に陥った。

 まずい……このままでは魔力不足で召喚に失敗してしまう……。


 その時、リーシアは俺の肩に手を置いて、自分自身の魔力を分けてくれた。

 体にはリーシアの心地の良い魔力が流れた。

 これならきっと召喚できる!

 そう思った矢先、ウィンドデビルの素材は強い光を放つと、光りの中からは見た事もない魔物の様な女性が姿を現した。

 見た目の年齢は二十歳程だろうか。

 人間の女性に近い姿をしているが、色白で耳は人間よりも若干長く、目は緑色。

 髪は銀と緑が混ざったような、見た事もない色をしている。

 明らかに人間の髪の色ではない……。

 だが、この魔物は美しい。

 大きく盛り上がった胸に、160センチ後半の身長。

 スタイルもかなり良い。

 ウィンドデビルは生まれた瞬間、俺の方を見ると、俺を自分の主人だと思ったのか、俺の胸に飛び込んできた。


「よしよし……」


 何だかこの流れはフーガやボリスが生まれた時と同じだな。 

 召喚された魔物は俺を自分の主人だと認識して生まれてくる。

 俺の胸の中では、俺よりも少し年上の様に見える美しい魔物が、気持ち良さそうに目を瞑っている。

 俺の体には彼女の豊な胸が当たっている。

 感じたこともない程柔らかい感覚が心地良い……。

 これが女性の体なのか?

 いや、厳密には魔物か……。

 もっと恐ろしい魔物を想像していたが、こんなに美しい女性が生まれるとは……。

 なんだか得した気分だ。

 俺は彼女を自分の体から引き離すと、まずは自己紹介をする事にした。


「俺は戦士のレオン・シュタイン、こっちは精霊のリーシア。それからファイアウルフのフーガだよ。店の外に待機しているのはアックスビークのボリスだ」

「レオン、リーシア、フーガ、ボリス……」

「え? もう覚えたのかい?」

「うん……」


 新しく生まれてきたウィンドデビルはやけに記憶力が良いみたいだ。

 知能もかなり高そうだ。

 幻獣は人間と同等、もしくはそれ以上の知能を生まれながらにして持つという。


「これが素材から魔物を召喚する魔法……召喚魔法の中でも最も優れた召喚方法か」


 ヘルゲンさんは驚いて腰を抜かしている。

 俺も初めて召喚に成功した時は、ヘルゲンさんと同じようなリアクションをした。

 自分自身で召喚に成功した事が信じられなかった。


「レオン、私に名前を付けて」

「ああ、そうか! ウィンドデビルじゃ呼びずらいよね」


 新しく生まれてきたウィンドデビルは自分に名前を付けて欲しいと提案してきた。

 本当に知能が高いんだな。

 素材の持つ魔力が強かったからだろうか、生まれたばかりなのに既に大人の体で、知能も高い。

 すぐに名前を考えなければならないな……。

 彼女の美しさを更に引き立てる名前……。

 フローラ? エミリア?

 いや、違うな。

 ソフィア? シルヴィア?

 うん? シルヴィアなんて良さそうだな。


「君の名前はシルヴィアで良いかな?」

「うん、良いわよ」

「これからよろしく、シルヴィア」

「ええ、よろしく、レオン」


 こうしてウィンドデビルの名前はシルヴィアに決まり、強力な幻獣が俺達パーティーに加わった。

 今日はEランクに昇格した事だし、狩りを休んで、シルヴィアともっと知り合う時間を作ろう。

 俺達は宿の一階の酒屋で食事をしながら、今後の活動について話し合う事にした……。

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