8話
やっと、次から本題に入れそうです。少しですが。
あれから1週間。
特筆すべきことも無く、毎日依頼を受けて金を貯めていった。
鉄級の俺は受けられる依頼が少ないので、採取や街のゴミ拾いばかりだが。
その過程でわかったことだが、異世界人はだいたい50年に一度やってくるものであり、それほど珍しい存在ではないという。
とはいえ、話したりでもしたら、即街の中央にある王宮行きなので気は抜けない。
それと、やはりこの世界は地球に比べて変わった植物や動物が多い。
動物に関しては魔物がその一例に上がるが、植物については少し驚いた。
例えば、俺も何度か世話になったリアナという花。
これは傷薬の原料になり、リアナで作った薬は目に見えるスピードで傷を治癒してくれる。服用するか傷口にかけるかで効果は変わるが、どちらにしろ薬に関しては異世界のほうが優れているな。
「よっ……と」
俺は今、そのリアナを納品する依頼を受けている。
何せ傷薬を多く使う冒険者だ。ギルドでも売られている程で、ほとんどリアナは需要と供給が間に合っていない。
だからか、リアナの納品依頼は常時発行されているのだ。
「こんなもんか」
目の前のリアナをナイフで刈り取り、借り物の籠に入れて一息つく。
ソフトレザーの胸当てと採取用のナイフ、それとポーチを買ったため、初めの頃よりも大分楽だ。
最初、採取は何を持つにも手で持っていたし、採取も剣でやっていたために傷みが酷かったからな。
「おっと」
突如目の前に転がってきた物体を見て、俺は歩みを止めた。
赤茶けたダンゴムシのようなこの生物は、火薬虫。さほど大きくはないものの、迂闊に触れると、小さな爆発を起こす厄介……というよりはムカつく魔物だ。
前世でいう爆竹程度の爆発だが、これが中々に痛い。こうしてわざと目の前に転がってくるので、俺も最初は痛い目にあった。
まぁ、それだけにこいつの火薬成分を含む体液はなかなかの値段で売れるのだが。
しかし、処理を間違ってリアナに傷がついたりでもしたら面倒なので、今回はスルーだ。
足早にギルドへ向かい、ディロスに軽く挨拶を交わして、その隣の窓口へ。
「これ、頼む」
「はい!」
こちらは、ディロスの居る新規登録の窓口とは違い華やかな少女が受付をしている。
1週間見てきたが、愛想もよく、仕事もできるという印象だった。
「はい、買い取り終了です。こちらをどうぞ!」
そう言って渡してきたのは、3枚の銀貨。大体3000円程度の価値だ。
今停まっている安宿が一泊銀貨一枚なので、1日銀貨3枚なら十分だろう。
そういえば、傷薬を切らしていたな。後で買いにいこう。
「あ、イナシロさん、ちょっと待ってください!」
「ん? なんだ?」
「今日の依頼達成で銅級昇格試験の受験条件を満たしていますが、どうなさいますか?」
昇格試験か。
最初に依頼を受けた時に聞いたが、依頼をこなしていくと昇格試験という、2月に1度行われる実技試験を受けられるようになる。
それをクリアすれば、上のランクへ昇格することが出来るのだ。
「ああ、受ける。いつだ?」
「1週間後、水の日の明朝だそうです」
「1週間……準備期間としては十分か」
「気をつけてくださいね。今回の銅級昇格試験は、少し難易度が高いみたいなので……」
「そうなのか?」
そんな話は聞いたことがないんだが。
「はい。近頃、銅級冒険者が一斉に規約違反をした事件から、冒険者の質の向上を目的とした難易度上昇だそうです」
「ほう……分かった。ありがとう」
それは少し気になるが、だからといって受けなければ次の試験は2月後だ。
受けるしかないだろう。
受付嬢に別れの挨拶を済まし、俺はギルドを後にした。
「さて、と」
少し疲れたため、宿に……向かわず、街の北門へ向かう。
さすがに、難易度が高いと聞かされてのんびりしていられるほど人生を楽観視していない。
それに、俺は1度もレベルが上がっていない……と思う。
なぜ断言できないのかというと、自分の情報が得られないからレベルが上がっているのかわからないからだ。
もしかしたら上がっているのかも知れないが……だとしたら分かりづらい。
そうしてやって来たのは、街から約2キロ離れた森だ。
「おっ」
道端にある背の低い植物に、まるでイチゴのような赤い果実が大小2つ、実っていた。
ギルドに置いてある百科事典で見たが、これは確かマンドラゴラというものだ。
高価な薬の原材料となる、貴重な植物。
植物なのに知能を持ち、土に埋まった根が動き回って発芽する場所を選ぶのだが、比較的人通りの多いこの場所に発芽したのか。珍しいな。
これは売れば金貨2枚、約2万円くらいだったはず。難易度が上がったという試験の為にも、採っておこう。
……確か、マンドラゴラは採取の仕方を間違えると周りの魔物を呼び寄せてしまうのだったか。
「ま、知っているがな」
まずは大きい果実をとり、茎を半ばから折る。
そして小さな果実とっ……
『ケケケケケッ!』
「っ!?」
間違えた!?
いや、手順に間違いはなかったはずなのに……
スボッ! と音を立て、人の形をした根が現れると同時に、甘ったるい匂いが周囲に撒き散らされる。
「! 甘い匂い……」
……そうか。これはマンドラゴラじゃなかった。
ドラゴプラント──竜を呼び寄せる恐怖の植物。
『グルォォォ!!』
まるで地鳴りのような、低く轟く鳴き声。
その声の主──亜竜は、バサバサと蝙蝠のような羽を鳴らしてこちらを見下ろしていた。
「ぐっ……」
まるでこの状況に便乗するかのように、発作が俺を襲った。
胸が裂けるような痛みを感じながらも、瞼は夜更かしした後のように重く閉じられていく。
最後に、ズキン、と強い痛覚の波がやってくると同時に、俺の意識は闇に落ちた。
「…………」