7話
「お、あれか?」
ちゃんと準備をしていたせいか、以前よりかなり楽だった道中を約十時間歩き続け、ようやく防壁のようなものが見えてきた。
あの防壁は、魔物から街を守る為なんだろうか。それとも軍とかか?
魔物といえば、道中で何回か魔物と遭遇した。
とはいえ、あまり強くないレベル14~30くらいなのだが。
一番レベルが高かったのは、ロックパイソンというレベル32の、顔面が岩におおわれている牛だった。
顔面以外はかなり柔らかく、突進をよけて横っ腹を殴る、斬るを繰り返して倒した。
剣で解体して焼き肉にして食ってみたが、マジでうまかったな。食ったことはないが、高級和牛みたいだった。
門の前にたどり着くと、荷馬車が大量に並んでいた。
その隣に人用の列があったので、そこに並ぶ。
「入街料銅貨三枚だ」
2日続けて入街なんて、なかなかハードなことしてるな。いや、一回目は入村か。
なんて下らないことを考えながら、ポケットから十円玉のようなものを三枚を取り出し、渡す。
これも村から拝借してきたものだ。かなり胸は痛むがな。
「うお……」
街の中はまさに王道。
木でできた家が建ち並び、時たま煉瓦でできた豪邸がある。
なるほど、やはり小説の挿し絵なんかで見るより、圧倒的な感動があるな。
「キャッ!」
「ああ、すまん」
ボーッと突っ立っていたせいで、通行人とぶつかってしまった。
とりあえず、まずは宿をとるとしようか。あまり使いたくないが、村の金はまだある。
無くなる前に金を稼ぎたいところだ。
適当に屋台や店を見物しながら進んでいく。
と、木造建築が並ぶ街並みの中でも一際大きな建物が目に入ってきた。
「あれは……」
看板に書いてあるのは『Adventurers Guild』……アドベンチャーズギルド。
直訳して冒険者ギルドだ。
冒険者ギルドまであるのかよ。どれだけテンプレートをなぞるんだこの世界は。
「…………」
一応、俺は宿を探すために移動している訳だ。が、闇雲に探すよりも人に聞いた方がいいんじゃないか?
という謎の言い訳を己にして、俺は冒険者ギルドの扉を開けた。
「うお……」
見た目よりも意外と狭いギルド内は、入って直進すればカウンターがあり、右から順に『新規登録』、『依頼受付』、『購買』と立て札が並んでいて、それぞれ一人ずつ受付が居た。
それ以外のスペースは情報交換の場なのか、椅子代わりの樽が置かれていて、物々しい装備を身につけた男たちが談笑している。
とりあえず、新規登録の窓口へ向かう。
「こんにちは。新規登録ですか?」
「ああ」
柔和な笑みを浮かべたのは、白髪と白い髭を生やした、まさに『できる』という感じの壮年の男性だった。
男性が俺を視界に入れた瞬間、モノクルの奥の細められた瞳が、ギラリと光った気がする。
「……なにやら、訳ありのようですね」
「!!」
全身に電流が走ったような感じがした。
まさか、なにかの能力で異世界人だとバレた……?
「……失礼しました。私の仕事上、人を観察する機会が多くなるもので。目を見ればいろいろと分かるものです」
「…………」
「警戒するのは仕方ないと思います。ただ、冒険者は誰でもなれる職業故、見る目を養わなければ大変なことになるのです」
確かにそうかもしれない。
指名手配でもされて顔が知られていない限り、犯罪者も素性を隠して登録できるとしたら……間違いなく風紀は乱れるだろう。
そう考えると、他の受付には女性が居るのに、新規登録だけはこの男性なのも納得だ。
しかし……
「……それは、なにかの能力なのか?」
「能力、というわけではありません。私は魔力を持たない者でございますから。多くの人を見てきて身に付いた、ただの特技です。年の功というものでもありますが」
「魔力を持たない……?」
「ええ。私は『魔抜け』ですから」
魔力を持たない人もいるのか。街灯なんかも魔法でついているみたいなのに。
となると、別に魔法が使えなくても不自然じゃないってことか。
「それと……信用の為に言っておきますが、私は深いところまではわかりません。ただ、この方は深い訳があって登録に来ている、という程度です」
「そうか。疑って悪かったな」
「いえいえ。冒険者をやるならば、疑うことは大事ですよ。では、こちらの紙に記入を……」
話しながらもテキパキと準備をしていた男性は、一枚の紙を差し出してきた。
それはなぜか日本語でかかれており、はっきりと意味がわかる。
「文字は書けますか? 代筆も可能ですが」
「いや、問題ない。……それにしても、この文字はどこから伝わったんだろうな」
「……なかなか、変わった着眼点を持っていますね。その文字が伝わったのは200年前です。東国の島国で生まれたという人物が広めたと伝わっております」
「ほう……博識だな」
「長く生きていますから」
と、またも柔らかな笑みを浮かべる。
つかみ所のないというか、あまり敵にしたくないタイプだな。悪い人物ではないのだろうが、苦手だ。
出身地を誤魔化して『王都』と書いたこと以外は偽りなく書き、登録を終えると、男性はレジのような機械(?)から出てきた鉄色のカードを渡してきた。
「これは?」
「これは『鉄級』のカードです。会員証みたいなものだと思ってください。依頼を受ける時に提出しますので、無くさないよう気をつけてください」
所謂、『ギルドカード』といった感じなのだろうか。鉄級か。ドラ○エ理論でいくと、次は銅か?
「わかった。……そうだ。あんた、名前は?」
「ディロスと申します」
「そうか。ディロス、またよろしく頼む」
「はい」
その深い焦げ茶色の瞳を一瞥し、俺はギルドを後にした。