6話
二度の場面転換があります。
わかりづらくてすいません。
「ふー……」
少女の姿が闇に消えた後、俺は混乱する頭を井戸水を被って冷やした。
今、あの少女のこと、死んだ人のことは考えなくていい。この後どうするかだけを考えれば良いだけだ。
とりあえず、再び遺跡に行くのを止めておくのは確実か。今回は運良く村にたどり着けたが、そんな偶然が二回続くのはあり得ない。
偶然遺跡にたどり着けるというのもほとんどないだろう。
そうなると、少しでも情報を集めるため、なるべく大きな街に出たいところだ。
移動するのに……問題は食料と地理。
それと……
「この格好か……」
庶民は麻布の服を着ているこの異世界で、ナイロンや綿でできた制服はかなり目立つ。
どうやら、村の人は全員殺されてしまっているようだし、悪いが拝借させてもらうか。
一番物資がありそうな、門番が出入りしていた大きな家に向かう。
「くっ……」
やはり、ここにも血の痕がべったりと残っている。
遺体は全て供養されているようだった。
何故、殺した相手にそこまでするんだ。そんなことなら、殺さなければ良いのに。
「……あった」
藍染なのか、黒よりの青を持つシャツと、丈夫そうなボトム。それと、ビーフジャーキーのような保存食。
試しにかじってみると、恐ろしく塩辛かった。なるほど、これは嫌が応にも節約できるな。
それと、暗くてあまりはっきりと見えないが、踏み固められてできた道があった。かなりの数の人が通らなければ道はできないため、おそらく、あれに沿っていけば問題なく街に行けるだろう。
「行くか」
夜が明けてきた。
昼頃に寝たはずなので、かなり長い間眠っていたみたいだな。
食料、水、それと家に置いてあった剣を念のため持って、俺は半日世話になった村を後にした。
「…………」
洞穴の中、銀色の髪を持つ少女は膝を抱えて俯いていた。
「お? どうした? 浮かない顔して」
「……あの村の人間を、殺してきた」
「そうか……仕方ねえよ。これも計画の1つなんだしよ」
「…………」
それでも冴えない少女の顔を見、何かあったことを悟る少年。
「こんなことして……計画は進む?」
「……分からん。もしかしたら、もっと良い方法があるかもしれないけど、いまはこれしかない」
「……ユウキだったら、もっと良い案を出すかもしれないのに……」
「……そうかもな。でも、次はかなり後になりそうだ。遺跡が消えた」
「…………」
その言葉を聞き、自らの膝に顔を埋める少女。
「……俺たちの寿命は長い。焦るな。焦るだけ、失敗は増えるぞ」
「でも、このままじゃいつ戦争になるかわからない……」
「過激派の連中と戦う為に、ユウキを探してんだろ? 俺らだけじゃ、あいつらに勝てない」
「…………」
「……今日はマジで休め。出口に結界張っとくからな」
「……くっ…………」
くぐもった声が聞こえ、少年は顔をしかめて耳をふさいだ。
洞穴の奥に進み、置いてある椅子に腰掛けると、自然と嗚咽が漏れてくる。
「泣かしたらぶっ飛ばすぞって……言ったろ、ユウキ……おい……」
「おいおいおい! 弱すぎんぞ!」
遺跡近くの森に、速見の声がこだまする。巨大な木の獣が、炎で燃やされていた。
「やっぱ俺ら最強じゃね?」
「勝てるやつなんて居ねえよな! 岩の竜もクソみてえに弱かったしよ!」
菅家がその力を誇示するように近くの木を殴ると、その場所から亀裂が入り、折れた。
「おらおら! もっと狩んぜ!」
「おう!」
その声に従い、クラスメイト達は奥へ進んでいく。
そんななか、新川美玲は上田の元へ。
「雄ちゃん、もう食料は無いわよ。戻ったほうが良いわ」
「でも、クラスメイト達はもう移動してるし、和を乱すのは良くないよ」
「そうやっていっつも逃げばかりよね。自分では戦わないし」
「し、仕方ないじゃないか。僕の能力は戦闘向きじゃないし……」
実際、それは本当だった。
上田の能力は『指揮者』。自らが指揮する人物の能力を引き上げるというものだった。
しかし、それがさらに美玲を憤らせた。
「最初のうち、剣を持った人が怯んで動けないところを庇ったの、一番怪我しやすいはずの『魔術師』の伊倉さんだったわよね。それでもそんなこと言う?」
「…………僕は役目をちゃんとやってるだけだ。戦わなくたって良いじゃないか」
ぶつぶつと、自分に言い聞かせるように呟く上田を見て、美玲は呆れを通り越して無感情だった。
「……裕樹くんを探しに行くって言った時も、危険だ危険だって言って行かせなかった」
「ま、間違ってないだろ!?」
「確かに危険だったわね。でも、なら一緒に行こうって言ったとき、凄い青ざめて必死に言い訳してた。……あなたは、ただの臆病者なのよ」
「!」
「その能力、あなたにぴったりね。本当……」