5話
んー……展開早いなぁ……
白い髪→銀色の髪
に修正。間違えてました。すいません。
あれから3日間。
なにもない地平を歩き続け、はたして果てがあるのだろうかとすら思い始めた頃、それは見えた。
「…………」
力が抜け、膝から崩れ落ちる。
灼熱の陽炎に揺れるそれは、まさしく『村』であった。
俺は、自分の中にある感情が混じり合い、混在していることに気づいた。
人里を見つけた嬉しさと、遺跡ではなかった虚しさ。
それでも村へと進もうとしたのは、おそらく人が恋しかったからだろう。
3日、死が隣り合わせのこの道程を歩き続け、その間誰とも話していない俺の精神は、はっきり言ってかなり疲弊しきっていたのだ。
人の声が聞きたかった。
遺跡のことを聞くのを口実に。
「おい貴様。何者だ」
青い髪に堀の深い顔。
異世界だということを再確認させられる容姿の門番から警戒を含んだ視線と言葉が向けられるが、それすらも心地よく感じられるのは俺が壊れているからなのだろうか。
しかし、なんとか思考は正常に働いていた。
この世界において異世界人の立場がどういうものかわからないうちは、異世界人だということは容易に話さないのが賢明だろう。
言って注目を浴びても面倒だし、行動を制限されたとしたら情報が集められないからな。
「少し道に迷った。一泊宿を取らせてもらっても良いか?」
「貴様、旅人か?」
「そんな所だ」
「……ちょっと待ってろ」
確認でも取りに行くのか、門番は村の中でも一際大きな家へ向かっていった。
俺が強盗やらだったらこの隙に村に侵入できるのだが、無用心だな。
せめて、二人は門番を置けば良いのに。
しばらくすると、家から出てきた門番がこちらに向かってきた。
「許可がとれた。村に宿は無いが、あの家が空き家だから使うと良い」
「どうも」
「食事は運ぶ。ゆっくりしてくれよ」
門番にもう一度礼を言い、促されるまま村の中へ入っていく。
その空き家に向かう途中では、まぁまぁ広い敷地のほとんどを畑が占め、そこで3、4人が畑仕事をしていた。
よれた麻布の服を着ていて、なんとも異世界らしいと思いながら進む。
「ここだ。あまり広くないが、我慢してくれ」
「結構だ」
物置小屋として使われていたのだろうか。あまり立派ではない作りの狭い建物が、村の中央にあった。
別に贅沢にもてなしてもらっても居心地悪いだけだし、寝れればいいからどこでも良いんだが。
「夕食時になったら食事を運ぶから、それまで寛いでいてくれ」
「ああ」
「じゃあ……」
「あ、待った」
去ろうとした門番を引き留める。聞きたいことがあるのを忘れていた。
「……なんだ?」
「この辺にある遺跡なんだが、何処か知らないか?」
「遺跡……? いや、そんなものこの辺りには無いぞ」
「何?」
「話はそれで終わりか?」
「そんなわけ……いや、何でもない。時間とらせて悪かった」
「そうか」
そう言って、今度こそ門番は去っていった。
遺跡を知らない? 歩いて4日の距離にあるものを? あり得ないだろう。
でも、嘘をいっている感じでもなかった。
どちらにしても、情報は得られそうにないな。方角もわからない様じゃあ、たどり着ける訳がない。
他の方法を探すしかないか。今できることはない。
それよりも、久々の人里を楽しんだ方が良いな。
「さて……」
気持ちを切り替え、何度か壊れたのか、修繕の跡があるドアを開けて中に入る。
同時に、鼻が微かに残る香りを感じ取った。
これは……
「鉄?」
何故鉄の匂いが……鉄器でも保管していたのか?
あまり食欲の湧かない匂いだが、仕方ない。疲れたし、夕食まで寝るか…………
「な、なんだこいつ! ぐあっ!」
「捕まぎゃぁぁ!」
「…………」
「……?」
外の喧騒で目が覚める。
騒がしいな。祭りでもやってるのか
「…………」
すると、今度は耳が痛くなるほどの静寂が訪れた。
なんだ? 何があった?
もう、村に入れたことによる高揚はなかった。
最大級の警戒をしながらドアを開ける。
「! なんだこれ……」
村の広場のような場所に、パッと見40人ほどが、血を流して倒れていた。
全てが一ヶ所に集められ、規則正しく並べられている。
そしてその傍らには、銀色の髪を血で濡らした齢15程の少女が、膝をつき、目を閉じて黙祷していた。
あんな、俺と同じ年頃の女が殺したのか……? この人数を……
それに何故、殺した相手を弔っている……?
数秒後、少女は立ち上がると、もう一度手を合わせてから村の出口へ歩いていった。俺は、慌ててその華奢な背中をターゲットにし、情報を得ようとした。
が、まるで弾かれるように、情報を得ようとするとあの背中に意識を集中できなかった。
そう、情報が得られないのだ。
さっきの祈りといい、少女がどういう者で、どんな意思を持っているのか分からない。
「何者なんだ、あいつは……」
月明かりの暗闇にポツリと浮かぶその背中に、俺は強い戦慄を覚えた。